1-3 物語の世界
ライナーの話を聞いたところによると
この国”へヴシア王国”はさまざまな世界に流れている時間を管理する役割を担っているらしい。
ここでいう世界というのは俺の世界では「物語」と呼ばれ
例えば
ライナーの場合は「星の銀貨」
バーバラは「シンデレラ」
ルドルフは「赤ずきん」
ソフィーは「眠り姫」
と誰もが知っているあの物語がそれぞれの世界で実在しているのである
そしてこれらの世界を管理しているのが俺が倒れていた時計塔
通称「デウスエクスマキナの塔」である。
時計塔の内部は様々な時計で溢れかえっており、その時計こそが彼らのいる世界の時間を正しく刻むための重要な役割を持っている。
もし仮にこの時計が壊れたり時間が狂ったりしてしまえば、彼らの世界は様々な災害に襲われ
最悪の場合世界ごと消滅してしまうという。
そのため最悪の事態にならないために、この国ではサクリファイスという様々な世界を行き来できる不思議な力を持った存在がいる。
サクリファイスとはソフィーの説明にもあった通りカタストロフィーという大災害を止めるために
召喚される生贄のことだ。
少し補足すると、デウスエクスマキナの塔の1番上にある時計は、全ての世界にとって大事な軸になる時間を刻んでいて、
「カタストロフィー」はこの時計が突然狂うことによって起きる大災害だ。
大災害というだけあって、カタストロフィーを止めるために召喚されるサクリファイスがもしも現れないなんてことがあれば全ての世界が消滅するといわれているほどの威力がある。
ちなみにサクリファイスの面白い共通点は、召喚された人物は皆その世界の主人公と何かしら関わりがあるということ、彼らはへヴシア国民とは違い特殊能力が使えるということだ。
「なるほど…」
説明自体はわかりやすいが、理解力のない俺には難しくて整理するのに時間がかかりそうな話だ…
「流石に疲れちゃったよね…ごめん」
ライナーはこめかみ辺りをぐりぐりと押す俺を見て
申し訳なさそうに謝るが別に彼のせいではない。
「気にしないでくれ、理解力のない俺が悪いだけだ」
「スケールのデケェ話だからな、誰もしっかりとした理解なんてしてないから気にすんな」
ルディはあくびをしながら俺の肩を叩くと、
「ちょうどご当主様も来たようだし、この後俺らは仕事があるから退散するわ」といって立ち上がった。
続けてライナー、バーバラが立ち上がると
タイミングを測ったようにコンコンとドアをノックする音が聞こえる。
「それじゃあ時也さん、ぼくたちはこれで」
「いろいろありがとう」
ライナーは軽く会釈をすると先にドアの前にいた二人の元へ行きガチャリとドアを開けた。
するとそこに現れたのは、仮面をつけた奇妙な男
歳は50代くらいだろうか黒い仮面の奥に緑色の目が光って見える
「はじめましてかな?時也くん」
彼はルディの頭にポンッと手を置くと彼らに
「もうそろそろ扉が開く時間だから早くヴィルムの元へ」と告げ
それに対しルドルフは「へいへい」と頭の上の手を掴んでどかすと
ライナーの首根っこを掴み部屋を出て行った。
仮面の男は彼らを目で追い
バタンと扉が閉まるのを確認すると
「さて、時也くん。昨日はとても災難だったね、まだ体が痛むだろう?」
とこちらに優しく微笑みかけてきた。
「あ…はい、傷はないみたいなんですけどなぜか体の節々が痛いです」
「はは、そうだね。表面に見える傷は治癒魔法で消したんだけれど痛覚の方まで消すのは高度な魔法でね…困ったことに転移者はその高度な魔法に耐えられるだけの身体を手に入れるのに最低2日はかかってしまうのだよ…」
治癒魔法だとか、身体が適応とか目の前の男からは訳のわからない単語が飛び出してくる。
ただでさえ、情報が多すぎて頭を抱えているのに、ここにさらに新しい情報なんて処理しきれるわけがない…
「えっと…治癒魔法??2日??」
「ソフィーから聞かなかったかい?サクリファイスについて」
「だいたいの説明は聞きました…」
「そうか、そしたら特殊能力について少し説明してあげよう…とその前に、私の名前はテオドール・バン・クラウスヴェイクだ。ヘヴシアではクラウスヴェイク公爵と呼ばれているが、ここに住んでる子達はみな当主様かテオじぃと呼ぶかな。まぁ好きなように呼んでくれて構わない」
相変わらず彼は仮面を外さないため素顔はわからないが、喋り方や、雰囲気は優しさを感じるし、
公爵の爵位があるとなれば悪い人ではなさそうだ。
「えっと…改めて、俺は斉藤時也です。瓦礫に埋もれていたのを助けてもらったみたいで…ありがとうございます」
「ははっ…気にしなくていい。それと、これはあくまで提案だが、転移者ともなれば住む場所もないだろう?だから君が嫌じゃなければここに住まないかい?」
「いいんですか!?」
「かまわないよ…ここには君のようなサクリファイスが他にもいるんだ。きっとすぐに打ち解けられるだろう」
「ありがとうございます!」
俺はできる限り深く頭を下げると
当主様は「よろしい」と深く頷いた。




