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エリックと聖女様

こんにちは。読んでくれてありがとうございます。

 夢の中に『ごめんね、迷惑かけるね』とおじさんが現れた。私はその人を知っていた。


「リュシアン二世陛下!」


 八百年前の英雄だった王だ。三つの国を統一した人で、今でも国民に愛されている王の一人だ。

 その話をリスティ様にしたら「リュシアン二世国王も聖女様を娶っています。その辺りを探してみましょう」と盛り上がり、ヴィオラム様を除く四人で王の許可がないとは入れない古書館を探した。リスティ様は、古書館の中に入ったのが初めてだということで目を輝かせている。歴史に興味のある文化人なら誰だって涎を垂らすそうだ。

 ヴィオラム様は国王としての仕事があって、お昼休みに合流すると言っていた。忙しいと言っていたのを私は、私と向き合いたくないからだと心の隅で思っていたけれど、実情を知った今は後悔している。本当に寝る間も惜しんでいたのに。


「リュシアン二世……この辺りですね」


 リスティの知識の深さに脱帽しながら、賢王リュシアン二世と聖女様と関わりがあったあたりの書物を手にした。

 リュシアン二世は若い頃から戦場を駆けていた。その時に聖女様に出会い、共に戦ったのだそうだ。リュシアン二世は三国を統一して聖女様に結婚を申し込んだけれど、聖女様はもう適齢期を遥かに過ぎていたから周りが反対したようだ。

 リュシアン二世は、聖女様を娶るために『神は国を導くために国王に聖女を遣わしたのだ。聖女が降臨するときは、神の意志があると心得よ』と発布し、それが長い年月を経て『王は聖女を娶らなくてはならない。たとえ、妃がいても、年がいくつであっても』と改変されたのだろう。

 ついに私の夢に出てきた賢王の、聖女との結婚に至る記述のある書物を発見することができた。


「ありました。記述も! 聖女を国王の王妃とすると決めたのは神様ではなく王だとわかれば、アルティナ様との結婚を反対することもできないでしょう。それでもダメなら聖女様が言えばいいのです」


 さすがリスティ様はあの頃は装丁が金ではなくて……とか、表記が何とかだと言いながら一冊の本を見つけた。


「そうですね。ごつい男は好みじゃないので――、ヴィオラムはごめんだと」

「そうではなく、聖女に女を求めるなと……。私、ずっと思ってたんです。聖女様が求めるならともかく、決まり事なのでって異世界の人に押しつけるのは良くないと」


 聖女は王と結婚すると聞いて、誰も疑問に思わなかったけれど、よく考えれば失礼な話だ。


「本当ですね。私ももし律様と同じように異世界にきて、知らない人と結婚してねって言われたら困ります」

「そういうものですか?」


 女三人で、うんうんと頷き合っていたらエリックが不思議そうな顔をしていた。


「エリック、あなたはそう思わないの? 自分が聖女にならないからということかしら?」

「ティナ、でも俺たちだって政略結婚は基本的に好きな人とってわけじゃないし」


 自分に関係がないからと言うなら、私は弟を教育しなおさなければいけない。そう思っていたら、反対にエリックに尋ねられた。


「あなたはまだ婚約していないし……。好きな人と婚約すればいいのよ」


 お祖父様が私に婚約の話を持ちかけたのは私の為だった。好きな人との婚約だからそういうものだという事実を忘れていたのは私の落ち度だ。ちなみにリスティ様も大恋愛の末の結婚だったし平民だったこともあり、そういう意識がなかったのだろう。


「だけど、家門のことやティナが王妃としてやっていくためにいい人っていうのを考えたら……」


 エリックはとても真面目だったのだ。私のことを考えてくれてるのは知っていたけれど。


「それならいい人がいますよ。アルティナ様を支えてくれて、アルティナ様を大好きで、身分も何も申し分のない人が――」

「まぁ、リスティ様。それはどなたですか?」


 全員の目がリスティに集まった。コホンと、咳払いをしてリスティ様は理知的な瞳を子供のように輝かせて笑った。


「聖女様ですわ。律様ならアルティナ様を守るためにいらっしゃったのですもの。エリック様と対立することはないでしょう。誰にも文句言われませんし、律様もエリック様のことを好ましく思っていらっしゃるのでは?」


 全員の目と口が一瞬開いて、一番早く声を上げたのは聖女様だった。


「私ですか! 私をいくつだと思っているんですか。エリック様より十以上年上ですよ」

「……そうは見えませんね。聖女様が年下がお嫌いでなければ俺、いえ私と一緒に国王夫妻をお守りしていきませんか?」


 エリックは全くよどみなく求婚していた。恐ろしい弟だ。

 聖女様は両手を顔の前で交差して(嫌だということらしい)仰け反った。


「嫌です。この世界では、想い想われて幸せに生きたいと決めてるんです。エリック様が私の好みだとはいえ、十四も年上では……」


 十四にひるんだのはエリックではなく、私達だった。ひるんだのはその若さゆえ。もしかして神様のところで若返ってきたのではないかしら。


「……律様、美容法をお教えいただいてもよろしいですか?」


 リスティの目が真剣で少し怖い。けれど、私も知りたいところではある。好きな人の前ではいつまでも若く美しくありたいと願うのは女なら当然だ。


「美容法なんて……。多少ありますが今度でよろしいですか」

「「はい、ありがとうございます」」

 

 私も一緒にお礼をいっておいた。ウキウキした気分でリスティ様と微笑みあった。


「大丈夫です。思ったより年上でしたが、早く律様に釣り合うように頑張りますから、成人する一年後まで猶予をください。私は好きな人と結婚できなくても平気ですが、できれば好きな人がいいですし、好きになってもらうための努力は惜しみません。どうですか? 考えてくれませんか?」

「私のこと好きじゃないのに――」


 大人ぽくて、強そうな聖女様がそんな風に言うから皆で温かく見守ることにした。


「知らない場所に来て、寝不足になりながら人のために一生懸命になる女性を好ましく思ってはいけませんか? まだ私も恋愛というものがわからないんですが、律様もわからないのでしたら是非一緒に。まずはお手紙交換からお願いします」


 エリックが大人になった。俺と言っていたのに、私に変わっている。エリックは思ったより年上が好きで、情熱的なんだなと手の甲にキスしているのを見て思った。弟はきっと聖女様を落とすだろう。律様の顔を見ていればそう思えた。



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