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第七話 ウラン兵器型『殺戮機械男子』VS光学兵器型『殺戮機械少女』

「―――弟よ。ウランを知っているか」

 リロードを完了した男は、リボルバーの先を俺に向けた。

 俺の答えを待たないで、男は続けた。

「放射線を含む、核エネルギーを生み出せる物質だ。原子力発電所にも貢献している。俺は体内でウランの生成が可能であり、ウラン235の分裂現象を引き起こして核エネルギーを扱える。俺の体内では、ウラン235の分裂によって発生した崩壊熱が溜まっている状態だ。貴様の物質Nと同レベルまでの高熱状態だから、先ほどの熱放射は効かない」

 専門用語が多くて分からないことが多かったが、たった一つ、聞き取れて意味も分かる言葉があった。核エネルギー。とんでもない単語に耳を疑った俺に、珍しく光が大声で叫んできた。

「テツヒト!! 避けて!! それはだめ!!」

 銃口に睨まれている俺は、咄嗟に回避行動を取れなかった。足がすくんで、迅速な行動が取れなかった。

「他にも、劣化ウランというものがある。ウランをいっぺんにまとめて、高回転させると、遠心力で重たいウランは外側に集まり、軽いウランは内側に集まっていく。この内側のウランが核エネルギーになるんだが、外側に集まった重いウランを劣化ウランと言い、これにも使い道がある。それが」

 男は気軽に引き金を引いた。

「―――劣化ウラン弾だ」

 ゴゥン!! と、低く重たい轟音が空へ駆ける。

 俺は腹部に感じる熱に、思わず手を添えた。これは、Nによる体温上昇の現象ではない。痛い。立っているのもやっとなくらい、内臓をえぐるような痛みを感じる。

「劣化、ウラン……?」

「そうだ。劣化ウランを弾丸にしたものを言う。劣化ウランは、まず重い。銃火器に使用する弾丸としては、最重の物質のはずだ。劣化ウランの比重は鉄の2.5倍、鉛の1.7倍はある。重いということは破壊力がある。装甲車両も破壊できる、最強の弾丸だ」

「だけど、俺の体は、オートで数千度の体温上昇で防御ができるはずだ。なのに、何なんだ、これは」

 全身が重い。痛みが引かない。

 防御できたとは、到底思えない。

「劣化ウランは圧力を加えると発火する。1100℃以上燃え上がる。着弾後に発火した劣化ウラン弾は溶解し、さらに先端が溶けていく過程で鋭利化して貫通能力が高まる。つまり、俺の弾はお前の体に着弾後、わずかにお前の体内に潜り込んだわけだ」

 もともとが着弾時に千度以上の高温物質になるならば、俺の高温防御にある程度の耐性があることは頷ける。奴の劣化ウラン弾は、霊石を通して生成されているのであれば、よりウランとしてのスペックは高い可能性だってある。弾が効いた理由は、とりあえず理解できる。しかし、この全身に感じる重みはなんだ。強いタバコを大きく吸い込んだような、ずっしりとした重み。

 思わず膝をついてしまった俺のもとに、光が駆け寄ってきた。肩を支えられて、少し光に寄りかかってしまった。

「テツヒト。動いちゃだめ」

「すま、ん。何か体が重くて、全身に痛みっぽいのもある」

「劣化ウランは毒性のある重金属。あいつも言っていた、放射性物質。目標に着弾し燃焼すると酸化ウランになって、数百メートルの範囲に飛散する。テツヒトはそれを体内に取り込んだ。体の中で放射性物質と強力な酸が暴れまわっている状態。落ち着いて、動かないで」

「……何くらっても平気なわけじゃねえのか、俺の体」

「ウランなんて、テツヒト以外が食らったら、まず死ぬ。テツヒトはウランよりも高温状態で、酸も溶かせるくらいに熱いから死んでいない。放射性物質も燃やせるかもしれない、Nなら。だから、体温を上げることに集中して」

「……りょー、かい……」

「あいつは私が殺す」

 物騒なセリフを吐いて、光は俺を守るように立ち上がった。さっきよりも殺伐とした雰囲気が漂っている。バチバチと青白い火花が光の全身から溢れており、Sクラス『殺戮機械少女』と言われるだけの迫力があった。

 男は、ニヤリと笑って銃口を光に向けた。

「本気になったか、女」

「テツヒトは渡さない」

 引き金に指がかかった直後、でかいリボルバーが男の手から弾け飛んだ。いや、正確には吸い寄せられた。光の右手へ一直線に吹き飛んでいき、一瞬で劣化ウラン弾の脅威を取り去った。

 感心するように目を丸くした男は、拳の関節をゴキゴキと鳴らしながら言った。

「磁力か。体内の生体電気を利用して、自分自身を磁場化したな。奥の手が取られちまった」

「あなたはウランしか扱えないことは分かっている。どこかの日本製とは違って銃器は無から用意できない。これで劣化ウランの攻撃は無力化した」

「ふむ。ウランについて一定の教養があるな。戦闘慣れもしている。貴様、初期の方の『殺戮機械少女』か」

「……世界で2番目に作られたロシア製」

 光は奪ったリボルバーを横に放り投げると、弧を描くそれをレーザーでバラバラに破壊した。

「ああ、日露戦争後のやつか。なるほど、となると世界大戦も2度経験して生き残っているわけだ。マッチョでないのに強い理由が分かった」

「……あなたは行方不明だった男の霊石適合者。なぜテツヒトを狙うの」

「家族だからと言っているだろう。連れて帰る。そして一緒にバーベルを上げるだけだ」

「連れて帰るということは、あなたもどこかの組織に属しているの」

「マッチョじゃない奴に教えるつもりはない」

 刹那。

 光の目と鼻の先に大きな拳が現れた。純粋なストレートパンチ。光も俺も目で追えない速度で踏み込んできて、殴ってきたのだ。回避は間に合わないと判断した光は、両腕をクロスさせて殴打を受け止めた。

 だが、受け止めただけで、防御はできなかった。光の姿がぱっと消える。直後、後方に並んでいた装甲車の一つに勢いよくめり込んでいた。光は悶絶して息を吐いた。咳き込んでふらつきながら地面に足をつける。

「俺は全身を劣化ウラン化することができる。鉄や鉛よりも重い体だ。この美しい筋肉も相まって、単純な殴打はいかに『殺戮機械少女』と言えども相当なダメージになる」

「っぐ……!!」

「女だろうとマッチョ以外は等しくゴミだ。醜い体を粉砕することに抵抗はない。日々鍛えてさえいれば、命だけは助けてやったのに」

 男はため息を吐いてから、拳を握って呟く。

「『核撃拳かくげきけん』」

 両手が淡く光り輝いた。再び瞬速で光に迫り、先ほどと同様の一撃を放つ。さすがに男の瞬速にも慣れたのか、光は真横へ転がって今度こそ回避を成功させる。

 そこで、回避していなければ即死だったことが判明した。

 光の代わりに装甲車に拳がめり込み、白い光がぱっと世界を覆った。気づけば、一切の破片も残さずに跡形もなく装甲車が消えていた。黒い焼跡だけを残して、そこにあったものが無に帰した。

「核エネルギーを拳に蓄えた一撃だ。よく避けた」

「……」

 光は額の汗を拭うと、男から距離を取り始める。

「あなたは、歩く原子力発電所。体内でウランを製造し、恐らくは洗濯機のように常にウランが回転している。そして、さっきのあなたの説明通り、外側に集まった劣化ウランは弾丸や肉体強化の物質にしていて、内側に集まった濃縮ウランは核エネルギーとして利用している。テツヒトと同じで、体内に核エネルギーつまり高熱エネルギーを有しているから攻撃が無力化されている」

「だったら何だ」

「あなたを倒すには、1つしか方法がない。あなた以上の高熱エネルギーをもって確実に破壊する」

「原爆の場合ですら約3000℃から4000℃の高温が生じるぞ。太陽の表面温度が約6000℃だ。俺の核エネルギーは原爆を越える。太陽と同等だと思ってくれていい。改めて聞くが、これ以上の高熱エネルギーをお前は有しているのか」

 光は右手の人差し指を立てて、男に向けた。

 バチバチバチ、と粉雪のような電気が指先から流れていく。

「『プラズマ』ですら、あなたに傷をつけるのがやっとだった。完全な破壊のためには、1万度以上の熱エネルギーが欲しい」

「そんな兵器はこの世にありはしない。ハッタリで俺をどうこうできると思うな」

「そう。そんな兵器はない」

「……待て。貴様、まさか」

 男は自分の体を見下ろす。そして、勢いよく空を見上げた。いつの間にか、どんよりと分厚い雲がかかっているだけの天を仰いだ。



「発動―――『カミナリ』」



 光が唱えた瞬間、言葉通り巨大な落雷が男に直撃した。あまりの衝撃と雷光に、俺は思わず腕で顔をかばった。ゆっくりと腕を下ろして見てみれば、全身を焼け焦がして血まみれになっている男がいた。

「あっ……がっ……!!」

「あなたには何度か電気を浴びせた。固定したり、剣で叩いたり、プラズマを当てたときに。あなた自身の体と周囲一体に電流をまとわせておいた」 

 ついに両膝をついた男を見下ろし、光はデコピンの構えを取った。忌々しげに光を睨みつける男は、まだ戦意を失ってはいない。

「あとは戦闘中に空に見えないレベルの電流を飛ばして、雲とあなたの周囲一体を電流で結びつけた。雷は雲の中にプラスとマイナスの電荷が発生することが原因。プラスの電荷は雲の上の方に、マイナスの電荷は下の方に集まりやすい性質を持っている。その間には引き合う力が働く。……そこに電界が生まれる」

「き、さま……」

「雲に電界が発生すれば、複数の電流が雲から地上に降りる。それが地上に到達すると通電して、地面から上空に電流が登る。これが落雷」

「俺と周囲一体に帯電を施し、雲の電界と結びつけたな……!!」

「御名答。出力レベル3。照射展開」

 光のデコピンから電流が溢れる。

 地獄のような大戦をくぐり抜けてきた、Sランク光学兵器型『殺戮機械少女』は告げる。

「世界大戦の一次や二次は、こんなものじゃなかったよ」

 赤い閃光が男の額を捉えた。

 再び爆撃が決まり、男はようやく背中から地面に転がった。








 終わった、のか。

 俺はようやく痛みとだるさの取れた体を起こして、光のもとに走り寄った。正直、何もできなかった。俺には実戦経験が全く足りていない。落ち着いて相手の兵器としての仕組みや能力を判断し、確実な攻略法を見つける。光はそれを卒なくこなして、恐らくスペック的には光より上のウラン兵器型『殺戮機械男子』を見事に倒してみせた。光が歴戦をくぐり抜けてきた、最強の『殺戮機械少女』だということを肌身で感じ取れた戦いだった。

「光。腕は大丈夫か」

「……左腕は折れているかもしれない。もしくはヒビ。でもその程度。問題ない」

「そうか……。やっぱり強かったよな、あいつ」

「ん。ウラン兵器型なんて、聞いたこともない。スペックだけなら、Sランクを超える存在。いわばSSランク」

「すぐに駐屯地外のエマさんに連絡しよう」

「ん。あのウラン兵器も『アルカサル』で検査する必要がある。謎ばかり」

 光がスマートフォンを取り出して連絡しようとする。しかし、俺がそれを阻止した。光の手を制して、驚愕の光景に目を奪われる。

 奴が、立ち上がっていた。

「ふ、ははっ」

「……まじかよ」

 思わずこぼした俺の一言に、反応があった。

 それは、歓喜だった。

「ふ、はははははははははははははっっっ!! 我が弟よ!! いい仲間を持ったな!! これならお前以外に問題はない!! 素晴らしい!! 最高じゃないか!!」

「俺、以外……?」

 妙な発言を聞き逃さなかった。

 俺以外に問題はない……。こいつ、何を考えて戦っていたんだ。

「おいレーザー女!! 貴様は気に入った!! いずれ俺がマッチョにしてやる!! 待ってろ!!」

「待たない。やだ」

「拒否権などない!! 体重の倍はタンパク質を取っておけよ、分かったなァ!!」

「分からない。やだ」

 ボロボロのはずだ。血が流れていて、全身が焼け焦げている。

 しかし、大男は笑いながらこちらに前進してきた。

「哲人。我が弟よ。その女を大切にしろ、なかなかの猛者だ」

「待て。効いてねえのかよ、あんた」

「な~に言ってるんだァ、見れば分かるだろう!? ―――ばっちり効いてるとも!! かなりやばい状態だ!!」

「だったら何で立ち上がれる!!」

「根性と筋肉さえあれば、できぬことなどない!! 覚えておけっっ!!」

「もうヤダこいつ話ができねえっ!!」

 光は片腕をやられている。思うようには戦えない。今度こそ俺が何とかしなければならない。

 俺が覚悟を決めた、その時だった。

「アリス。なに。今忙しい」

 インカムに光が話かけている。どうやら、基地に戻ったアリスから連絡があったらしい。

「え? いま交戦中。それがな―――『アルカサル』に、『殺戮機械少女』が? ファーストじゃない?」

「っ!!」

「この場を無力化してすぐに戻る。待ってて」

 インカムを切った光は、苦々しい顔で俺を見て言った。

「『アルカサル』に、『殺戮機械少女』が侵入した。多分、アリスのヘリコプターを追跡された」

「ファーストじゃないって……」

「ん。状況を考えれば―――あなたの仲間?」

 光はデコピンの構えを取って、ボロボロの大男をロックオンする。しかし、男のリアクションは予想外のものだった。俺たちの会話を聞いて、心底苛立った様子で眉間にシワが寄っている。

 拳を地面に叩きつけて、吠えた。

「くそ、俺たちを利用しやがった!! あのクソども……!!」

「おい、どういう―――」

「弟よ!! さっさと行け!! 絶対にその『殺戮機械少女』に負けるな。女、お前は俺の弟を死んでも守れ。守れなかったら殺すぞ」

「なあ!! あんた知ってるのか、いま『アルカサル』を襲っているやつのことを!!」

「……お前にNを打ち込んだ組織の個体だ。恐らくな」

「俺を狙った、あの……?」

「さっさと行け。なにまた会えるさ。家族だからな」

「別に会いたかねえわ!! っていうか、じゃあ、あんたは何なんだ!!」

「教えるのは構わんが、長くなるぞ。いいのか」

「……っく」

『アルカサル』は保安科と自衛科のみで『殺戮機械少女』の襲撃に対応している。俺や光が取るべき行動は決まっていた。どすんと地面に座り込んで、ひらひらと俺たちに手を振る謎マッチョ核兵器を無視する。俺たちは『アルカサル』へ急行した。

マッチョウラン兵器は劣化ウラン弾を使いたがりません。筋肉で戦うのが好きだから、銃を使いたがらないアホという設定です。

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