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第六話 マッチョ以外=死刑

 意味の分からない質問に硬直した俺は、今が緊張感を持つべき状況だということを忘れて、とりあえず羽織っていたジャケットを脱いでシャツの袖をめくって見せた。肉体労働で生きてきたので、かなり太い右腕が顕になる。

 恐る恐る大男の様子を伺うと、つーっと一筋の涙を流していた。……ええ、気持ち悪いな、こいつ。

「すまない。感動に溺れてしまった」

「何の感動!?」

「上腕二頭筋と三頭筋のバランスが素晴らしい。やはり俺の弟だな。哲人。家族は離れてはいけない、一緒に帰るぞ」

「……は? なに?」

「俺たちは家族だ。一緒に来い」

「……えーっと」

 頭のおかしいタイプだ。

 絶対に真面目に話したらいけない人だ。どうしよう。困ったので光に助けを求めて視線をやるが、そこには青ざめた顔で立ち尽くしている光がいた。

 光が、ビビっている。

 それを感じ取った俺は、改めて男に意識を集中する。

「家族って、あれか。男の兵器同士家族って意味か。馴れ馴れしいな、あんた」

「家族だからな。家族愛だ」

「で、何だよ。何でここに来た。目的は何だ」

「家族を迎えに来た。二度も言わせる―――」

 声が途切れた。

「出力レベル2。照射展開」

 男の額が爆発した。予兆も何もない、一瞬の爆撃である。隣を見ると、光がデコピンの構えを取っていた。光のレーザビームが男の額にヒットしたのだ。

「テツヒトはあげない」

 しかし、空を仰いだまま固まっていた男は、何事もなかったかのように首をコキリと鳴らして俺を睨んだ。

 そして、腕を組んで感心するように首を振りながら言った。

「弟よ。いい体だ」

「はい?」

「なかなかのマッチョだ。シャツ越しにも引き締まっていることが分かるぞ。だらしない体をしていれば、半殺しにしてやるところだった」

「え、と。あざす」

「マッチョ以外は殺す。家族でも半殺しだ」

 覚えておけよ、と男はジロジロと俺の身体を舐め回すように眺めながら注意してきた。こいつ……変態だ。絶対に変態だ

「それに比べて」

 ギロリ、と光を睨みつけた男は右拳を大きく振り上げる。大木みたいに太い腕は、どれだけの破壊力が備わっているのか想像もつかない。

「貴様は細い。死ね」

「っ」

 死刑宣告が、光の背後から響いた。一瞬で光の後ろに回っていた男は、振り上げていた拳を光の脳天に叩き落とした。

 咄嗟に転がって緊急回避した光は無事だ。しかし、地面に振り下ろされた殴打が、演習場を真っ二つにしてしまう。巨大な亀裂が縦に入り、地面が大きく傾いた。

 あれはやばい。

 まともに喰らえば、ただではすまない。

「細いから避けられた。軽いから避けられた。マッチョでないから貴様は助かった。これ以上の生き恥もない」

「……その体、キモい」

 光は毒を吐いて、両手を地面に叩きつける。すると、青白い電流が男の周囲一体に走っていき、バチバチと激しい電流の湖が出来上がった。

 男の体がしびれて動かないことが分かる。光は追い打ちをかけるように、デコピンの構えを取った。

「出力レベル3。照射展開」

 先ほどのレーザーとは比較にならない爆撃が炸裂した。爆風で俺も二メートルほど吹き飛ばされる威力だ。黒煙が破壊地点から立ち昇っており、フラフラと揺れながらたたらを踏んで、男は片膝をついた。

「……マッチョではないが、なるほど、やるな。一発目は装甲車破壊レベル。今のニ発目は爆撃機を落とせるほどの威力と見える。一発目で油断していた。貴様、もしやSクラスか」

「だったらなに」

「少し本気を出す」

 ゴキリ、と手首の関節を鳴らした男は、ゆっくりと光に歩み寄っていく。光は真正面からの挑戦に応じたのか、右手を広げてバチバチと電気を生み出した。

「『雷剣らいけん』」

 青白い火花が剣の形に変化していく。名前通りの高圧電流で出来上がった剣を持って、光は男の懐に潜り込んだ。大男のスピードは見た目に反して異常だ。レーザーを打ち込むまでに、また背後に回られてしまうと判断したのだろう。

 だから、自分から近接戦に持ち込んだ。

 が、男は下から振り上げられた高圧電流の刃を右手で鷲掴みにした。鼓膜をミキサーで破られるような、激しい電圧の音が絶え間なく炸裂する。それでも、男は雷剣を握り締めたまま、一切動じることはない。

「凄まじい電圧だ。強いな、貴様」

「……む」

 光は左手にも雷剣を生み出して、男の体を横薙ぎに切り捨てた。しかし、金属同士が弾かれるような音と共に、攻撃した光の体がよろめいて後ろに下がった。

 光の額に青筋が走った。

 頬を膨らませながら、呟く。

「むう。殺す」

 光の目の色が変わった。右手で地面に電流を流す。激流のように走っていった電流は、男を中心に半径20メートルほどを飛び回った。再び動けなくなった男を前に、光は左手の人差し指を突き出して『何か』を作り始めた。

「発動―――『プラズマ』」

 青白い蛍のような光が指先に集まっていき、気づくと直径50センチメートルほどの幻想的な蒼い球体が出来上がった。あれは、とんでもない破壊力を秘めていることが分かる。光の周囲一体の空間が歪んでいるのだ。ビリビリとした圧が、離れた場所にいる俺の肌にも伝わってくる。

「そいつはまずいな」

「なら良かった」

 口の端を釣り上げて笑った男に、光は皮肉を返して美しく破壊的なプラズマ砲を炸裂させる。

 視界が真っ白に塗りつぶされて、頭上の雲を吹き飛ばし、一部だけ晴天を見れるほどの破壊が巻き起こった。地面が隕石でも落ちたかのようにえぐれていて、直径50メートルほどのいかれた大穴が出来上がっていた。 

 なのに、穴の中から声が聞こえた。

「危ない危ない。マッチョじゃなければ死んでいた」

 ……まじかよ。

 俺は目の前の事態を飲み込めずにいた。光のプラズマ砲を食らっておいてなお、大穴の中から男が浮かんできたのだ。頬に焼けたような傷があるだけだった。地面に着地すると、光のことを腕を組んで睨みつける。

「それだけの強さがありながら、なぜ鍛えない。筋肉がなければ、それ以上の高みへは至れんぞ、電撃女」

「今のは軍艦すら沈む。なぜ生きているの」

「マッチョだからだ」

 ……話になってねえ。脳筋すぎるだろう。

 俺は光一人では荷が重いと判断し、右手で銃の形を作る。先ほどの装甲車を破壊した時と同様に、中指と人差し指から物質Nを放射した。

 背中に直撃したのか、猫背になって膝が曲がった。歯を食いしばって耐えているが、これは耐えてどうにかなるものではない。この間、秋乃さんから頂戴した資料で学んだが、物質Nは記録上、火炎放射機に使われた場合、2千度以上3千度以下までの出力を導き出したらしい。くわえて、俺の物質Nは絶え間なく心臓の霊石から生成されるので、この熱照射は浴びれば浴びるほど無限に熱温度が上昇するはずだ。

 これで、終わりだ。



「……『核分裂反応展開』」



 男が何かを呟いている。

 何だ。何かおかしい。一向に男の体が焼失する様子がない。光も異変を感じ取ったのか、デコピンの構えを取って追撃しようとする。

 その時、今度ははっきりと声が聞こえた。

「確かに物質Nだな。九条哲人、我が弟よ」

「まじか」

 熱放射の攻撃は緩めていない。むしろ、どんどんその威力は上がっていっているはずだ。なのに、男はぴっと背筋を伸ばして振り返ると、俺に向かってゆっくりと歩み寄ってくる。熱放射に意味がないことを悟った俺は、攻撃の手を止めた。

 男は、腰元のベルトに挟み込んでいた、大きなリボルバーを右手で引き抜いた。左手は拳を作っており、開かれた掌にはどす黒い弾丸が6つあった。その弾丸をリボルバーの弾倉に丁寧にねじ込んでいく。

「物質Nは強力だ。恐らく、Sクラス『殺戮機械少女』でも、今の熱放射で半壊は免れない。運が悪ければもう死んでいる。マッチョか否かは関係なくな」

「なら、お前は何で平気な面してんだよ」

 男は不敵に笑うと、ようやくその正体を明かした。

「俺が、ウラン兵器型『殺戮機械男子ジェノサイドオートマチックメール』だからさ。我が弟よ」









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