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ジェノサイド・オートマチック・ガール  作者: 月光女神
フランケンシュタイン編
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第五十四話 極超音速機型伏線回収

 目を覚ますと、光もエカチェリーナも眠りについており、俺はぐっと伸びをしてから立ち上がった。トイレに行って用を足し、通路に戻る。光とエカチェリーナを起こさないように、二人から離れた後ろの席に着席する。

 すると、さらに後ろから聞き慣れた声がかかった。

「美少女を二人も侍らせて満足かしら」

「何人侍らせようと、エマさんには届かねえ」

 斜め後ろの席にいたファーストがいじめてきたので、屈せずに言い返してやる。呆れるようなため息が聞こえた。

「いつまでも桜木エマを口実に逃げ続けるなら、メンヘラレーザーに気をつけることね。それは守ってあげないわよ」

「やっぱりメンヘラなの、あいつ」

「メンヘラだしストーカー。結婚は考えるべきね」

「……」

「ロシア製の悪口はいいわ。それより、一ついいかしら」

「なんだよ」

 振り向かずに尋ねる。

 ファーストは、どこか躊躇うような調子で言った。

「……あなた、昔はどんな子どもだったの」

「は? 急になんで」

「なんとなくよ。教えて」

「なに。俺のこと好きなの」

「うるさい。あなたは、からかわれるだけでいいの。真似しないで」

 脈絡のない質問。ただの世間話にしては、重厚な雰囲気が漂っていた。

 よく分からないが、別に話さない理由もない。

 俺はふと、子どもの頃を思い返してみた。

「……小学校高学年あたり、くらいまでしか覚えてないな。初めて会った時にも言ったろ、あのログハウスで。親父に本ばっか読まされて育っただけだ」

「そう。幼馴染みとか、仲の良かった子はいないの」

「人並みにはいたさ。それがなんだよ」

「……いえ。なんでもない。少し、気になっただけ」

「?」

 首を軽くひねってしまう。

 彼女らしくない、意図の読めないやり取りだった。問い詰めて魂胆を暴いてもいいが、俺を助けてくれる彼女にそんな無作法な真似はしない。

 妙な空気になったので、俺は話題を変えようと思い立った。ファーストに振り向いて話しかけようとする。

 その時、驚愕の現象が炸裂した。目を疑う、とはまさにこのことだった。凄まじい風の流れが発生して気づく。見れば、上空三千メートルを飛行中の機内と外を隔てる搭乗口のドアが開いていた。

 そして、それはすぐに閉められる。



 たった一人の少女が、雲の上を飛ぶ機内に平然と乗り込んできた。



 言葉が出なかった。

 見間違いかと思った。

 しかし、機内に乗り込んできた少女が腰元からハンドガンを抜き出して、俺の額を撃ち抜こうと引き金を指にかけた。それで理解した。

 敵襲。

 これは、見間違いではない現実だと。だが、問題ない。俺の身体は物理的攻撃に対して、瞬間的に体温が三千度以上に上昇して攻撃を無力化できる。

 やってくるだろう弾丸に身構えた時、俺の背後から銃声が轟いた。突如現れた少女の持っていたハンドガンが吹き飛ぶ。振り返れば、ファーストがいつの間にかハンドガンを手にして銃口を少女に向けていた。

 さすが最強のボディガード。頼りになる。

 椅子に座って膝を組んだまま銃口を突きつけているファーストは、冷めた目で謎の少女を見つめていた。視線は敵に固定したまま、俺に告げる。

「学習なさい。あれが、あなたが以前食らった劣化ウラン弾だとしたらまずいでしょう。食らわないことに越したことはないわ」

「いや、さすがに避けれねえよ。まあそうだな、サンキュ」

 ファーストに礼を言い終えると、頭に疑問が泡立つように浮かんでくる。

(……霊人、『方舟』の刺客か? 停戦宣言ってのは嘘だったのか?)

 風の流れと発砲音で、光もエカチェリーナも目を覚ましたようだった。突然の事態のはずだが、歴戦の『殺戮機械少女』たちは動じない。光は立ち上がってデコピンを構え、エカチェリーナは懐から大型のナイフを取り出した。

「迷子か、あんた」

 一応尋ねるが、答えてくれるとは期待していない。ショートボブの髪は輝きのあるチャコールグレーで、白いカチューシャをつけた少女だった。瞳はブラウン。ミリタリー調の茶色のジャケットに、動きやすそうなライトブラウンのチノパンを穿いている。腰のベルトには大きなナイフホルダーが左右に一つずつぶら下がっている。確認できるだけでも、相手の武器はナイフが二つある。

 少女は俺から視線を外すと、同じくナイフを武器にしているエカチェリーナを見た。

「ようやく殺せる。飛行機にわざわざ乗って移動してくれるなんて助かったよ。極超音速機は速すぎて奇襲をかけられないから」

「……おや。これはこれは、びっくりです」

「ありがとう、お姉様」

 珍しく微笑みを崩して、目を見開いたエカチェリーナに少女は言った。

 お姉様、と。

 














「極超音速機並みの伏線回収だな。エカなんとか」

「そう仰られましても……」

 俺のツッコミに、再び微笑みを貼り付けたエカチェリーナは肩を竦める。

 エカチェリーナの妹なのか。

 確かにあの少女は、エカチェリーナを見てお姉様と言った。

「アンナ。生きていたんですか」

「霊石を埋め込まれて兵器になっていることを生きていると言えるなら、生きていたね」

 対照的な姉妹だ。

 姉のエカチェリーナは笑顔、妹のアンナは無表情で冷徹な目をしていた。姉は妹に近寄っていく。通路で向かい会った二人の姉妹は、無言でお互いを見つめていた。

 エカチェリーナがナイフを逆手に持ち直した。対して、妹のアンナも腰のホルダーからナイフを一本引き抜いた。

「なぜ生きているんですか。そして、なぜ『殺戮機械少女』になっているんですか」

「答えてどうなるの」

「どうにもなりませんね」

 緊張感で機内がいっぱいになった。コックピットにはアリスとエマさんがいる。俺の物質Nを使えば、飛行機は壊れて墜落してしまうことは想像に難くない。ファーストの銃器も、光の持ち味である大火力攻撃も際どいところだ。

 アリスとエマさんが機内にいることを把握していたのか。そうして、俺たち兵器の能力を制限させるつもりだった。

 そして、先ほどの口ぶりからエカチェリーナを狙ってここに来たことは間違いない。妹は大戦に巻き込まれて死んだ、確かにエカチェリーナはそう言っていた。

 実の妹が、実の姉を殺しに来た。

 その妹の瞳には見覚えがあった。冷たくて、手段は問わない、初めて会ったときの九条篤史とまったく同じ目をしていた。

「しかし妙ですね。あなたのことは一切国連に伝わっていません。未確認の『殺戮機械少女』がいれば、九条哲人みたいにニュースになるんですが」

「黙って。どうでもいいよ、お姉様」

「おや辛辣。感動の再会だというのに、どうしてしまったんですか」

「とぼけないでくれる。私がお姉様を殺しにきたってことは、私は知ってるんだよ。覚えてるんだよ」

「……」

「私の恨み、分かってくれるよね」

「ええ。十分に」

「なら答えて。なんで、あんなことしたの」

「それ、答えてどうなるんですか」

「……ああ、うん。そうだ、そうだね。どうにもならないや。どんな答えがあっても、やることは何も変わらないや」

 ナイフを握り直したアンナは、ようやく笑顔を見せた。姉のエカチェリーナと似た、血の繋がりを感じさせる笑顔だった。

 だが、決定的に違うことがある。

 エカチェリーナの笑顔は仮面だが、アンナの笑顔は心からの綺麗で明るい表情だった。

 歓喜そのものを意味する、最高の表現だった。

「壊してあげるよ、お姉様の全部」

「―――結構です」

 ふっとエカチェリーナの姿が消えると、アンナの背後に回ってナイフを振り下ろしていた。笑ったまま、実の妹の首に真横から刃を突き立てる。エカチェリーナはSクラス極超音速機型『殺戮機械少女』だ。霊人の『霊石解放』を除けば、スピードにおいて敵はいないはずだ。

 一秒でマッハ3にすら達する、と言っていたはず。状況を飲み込めていない俺だったが、それでもエカチェリーナが勝つことは予想がついた。

 しかし、事態は一転する。

 ころりと簡単に。単純に。

「遠慮しないでよ、お姉様」

「っ」

 背後を取ったはずのエカチェリーナの一撃が回避された。いつの間にかエカチェリーナと背中合わせで立っていたアンナが、持っていたナイフをそのまま逆手で振り下ろした。エカチェリーナの太腿に突き刺さった刃から血が溢れる。

 ガクン、とエカチェリーナの膝が折れる。根性か気合か、床に膝をつくことだけはせず、震えながら妹の背中に振り向いた。

 アンナも身体ごと回してエカチェリーナを見下ろすと、血の滴るナイフを無造作に振り下ろした。脳天めがけて、必殺の一刀を。

「……やっぱり邪魔だね。物質N」

「その呼び方は、訂正を求める」

 循環状態に入っていた俺は、一瞬でアンナとエカチェリーナの間に入ってナイフの一撃を防いだ。具体的には、振り下ろされたナイフを右手で握って防いだ。物質Nの体温上昇が発動して、ぎゅっと包んだ刃が溶け落ちていく。

 アンナは瞬間移動にしか見えない速度で俺から距離を取った。やはり、エカチェリーナの一撃を回避したことと、今の動きからして、間違いないだろう。

「極超音速機だな。それも、エカチェリーナより速い」

「名前、覚えていらっしゃるじゃないですか。意地悪ですね」

「お前、喋んなって。足はどうだ」

 ついに膝をついたエカチェリーナを見ると、出血がひどいことが分かった。太い血管をやられたのだろう。的確に急所を狙ってくるあたり、アンナは本気で姉の命を摘み取りに来ていることが分かる。

 エカチェリーナは俺の袖を引っ張って、微笑みに汗をかきながら頼んできた。

「止血、お願いできますか。火傷で」

「いいけど、超痛いぞ」

「相当深くやられました。失血死の可能性があります。痛いくらいわけないです」

「……死ぬのが怖いのか」

 俺の問に、エカチェリーナは首を振った。

 手に持っているナイフを見つめて、呟く。

「アンナには、殺されたくないだけです」

「……よく分からんが、まあ噛んでろよ」

 俺はエカチェリーナのスーツのジャケットを脱がした。軽く折りたたんで、痛みに舌を噛まないように咥えさせる。黒のパンツを軽く引き裂いて太腿をあらわにすると、傷口に右手を添えて物質Nを発動しようとする。

 しかし、そこでふと可能性に気づいた。

 超人に身体を乗っ取られていた時の記憶に、千凪が光に霊石エネルギーを『供給』して傷を治していたはずだ。霊石エネルギーを他者に『供給』することは難しいらしいが、俺は元に戻っている自身の左腕に目を向ける。

 以前は義手で、超人の再生能力によって復活した左腕。義手だった頃は、霊石エネルギーを通して重たい義手を操作していた。

 あの時の要領で、エカチェリーナに霊石エネルギーを流せないだろうか。俺は左手を彼女の肩に置くと、義手を動かすように霊石エネルギーを『供給』する。

 すると、深い溝を作って血を吹き出していた太腿の傷が、みるみる内に塞がっていった。

 それを見て驚いた様子で、エカチェリーナが言った。

「ありがとうございます、では終われません。そんなことができるなら、なぜジャケットを脱がされてパンツを破かれ、太腿を触られたのでしょうか」

「今、気づいたの。焼かないで霊石エネルギー送れるかもって気づいたの」

「パンツを破って太腿を撫でた後にですか。意外とえっちなんですね、九条哲人」

「責めてくれる方がマシなんだが。冷静に分析しないでくれる」

「ともかく、助かりました」

 エカチェリーナは立ち上がって、ナイフを握り直した。俺も隣に立って、アンナの一挙手一投足を監視する。

「さて、妹が極超音速機になって殺しにかかってきているわけですが、どうしましょうか」

「なにその一期だけアニメ化しそうなラノベタイトル。問題は、エカなんとか、お前よりあいつは速いのか」

「初速がマッハ3の私より、確実に速いですね。あなたの娘さんほどではないですが、極超音速機としてのスペックでは負けているかもしれません」

「……まじかよ」

 ちらりと、右に視線をやった。光とファーストが立っており、手持ち無沙汰な様子でいる。レーザーや電撃で暴れられたり、ガトリング砲をぶっ放されたら墜落は間違いない。

 しかし、そもそも機内で戦闘を繰り広げること自体、コックピットのアリスやエマさんが危険だと言える。戦う場所を変えるべきだ。

 しかし、相手はファーストや光、俺の物質Nを無力化するために機内での戦闘を望んでいるはずだ。外でやろうぜ、と声をかけても一蹴されるに決まっている。

 初速はマッハ3を超える、か。

 循環状態の俺と、どちらが速いか勝負になるわけだ。

 幸いにも、アンナはエカチェリーナに視線が固定されていて、俺に集中はしていない。本気で循環状態に入る。頭の先からつま先まで、体内で熱が行ったり来たりする。その回転を高めていき、最も熱の往来が激しくなった瞬間に飛び出した。

 予想以上、と言うべきか。

 ポヨン、と顔に何かあたった。なんかすごく幸せな気分になる。とぼける余裕はなかった。一瞬でアンナの胸の下に滑り込んだ俺は、顔にあたった双丘に狼狽して油断する―――なんてことはありえない。

 なぜなら、俺は恋をしているから。

「エマさんのおっぱい以外、俺には効かん」

「っ、お前―――」

 俺のスピードに度肝を抜かれたアンナが、咄嗟に距離を取る前に右脇腹に拳を叩き込む。物質Nを込めた一撃だ。しかし、わずかにかするだけで手応えはなかった。俺の本気だぞ、どれだけ速いんだよこいつ。

 後ろに下がっていたアンナだが、どうやら実戦経験の差が出たらしい。アンナの回避パターンが後ろへ下がることだと判断したエカチェリーナが、こっそりと妹の背中に回っていた。

 強烈な回し蹴りが、アンナを捉える。腕でガードされるが、ふっ飛ばされて搭乗口の扉に激突する。一瞬、動けなくなるのを見逃さない。俺はすぐに搭乗口の鍵を解除して、扉を強引に開いた。空に投げ出される風圧が発生し、アンナが外に広がる星空に吸い込まれて消えた。

 俺も即座に外へ飛んだ。

 あの機体は逃がすわけにはいかない。『方舟』の関係者なのか、まったく別の組織の追手なのか。それを確かめる必要がある。

 スカイダイビングをしたところ、雲の上だったために、目の眩むような星空が視界の端から端まで広がっていた。そうだ、もう真夜中じゃないか。

 真下には雲の湖があった。そこに落ちていく影を捉える。

 俺も、雲を突き抜けて落ちていく。突き破った先には、街の明かりがイルミネーションのように灯っていた。アメリカからロシアまで直行していたから、あれはもうロシアの街だろうか。

 俺は物質Nを使う。この距離なら、街にまでは届かないはずだ。銃の形を手で作って、指先から最強の破壊物質を放射する。

 狙うは足だ。

 戦闘不能にして尋問する。

「え」

 だが、視界の中心に収めていた影が消えた。嫌な予感がしたが、案の定それは的中する。極超音速機型『殺戮機械少女』は、機動力としてその速度を操ることができる。それは空中においても同じことだ。

 逃げられた。

 一瞬で姿を見失った。俺に攻撃が通用しないことは、既に向こうも理解しているはず。周りを見渡すが、そこにアンナはいなかった。

(まさか、機内のエカチェリーナを狙って戻ったんじゃ―――)

「絶景ですね、九条哲人。あれはモスクワですよ」

「……」

 耳元で聞こえた声に振り向くと、俺と同じように真夜中のスカイダイビングを楽しんでいるエカチェリーナがいた。普段は長い前髪に隠れた素顔が完全に顕になる。……光もそうだけど、かわいいな。ロシア美少女。

「私を狙っていたみたいなので、とりあえず飛び降りておきました。これで機内の方々は無事かと。ファーストと光もいますし、大丈夫でしょう」

「ちょい待て。なら、お前の妹はお前を狙うんだから、俺が大丈夫じゃないだろ」

「物質Nがあるじゃないですかー」

「あるけどさー!! あるんだけどさー!!」

 超人の一件でクタクタだった身体に、今度は謎のSクラスレベルの極超音速機型『殺戮機械少女』を相手にはしたくない。国防任務でもなんでもないし。エカチェリーナの問題だし。

「私は一度モスクワに降ります。一般人のいる中で、堂々と襲ってくるとは思いません。ひとまず身を潜めます」

「おいおい、大丈夫か」

「ええ。あれは私が撒いた種。自分で摘み取りますから、お気になさらず。あなたは機内に戻ってください」

 エカチェリーナはそう言って、軽く手を振ってきた。今にも一瞬で街まで消えてしまいそうだったので、すぐに声を上げた。

「付き合う!! 連れて行け!!」

「はい?」

 首をひねった彼女に、もうやけくそ気味に大声を張り上げる。

「俺も連れて行け!! あいつが『方舟』に関係しているのか気になる!! お前にゃ助けられた、ついでに恩も返す!!」

「……ですが」

「あと、お前に乗せてくれって言ったろ!! 乗せろ!!」

「んー、バイクじゃないんですけれど」

 困ったように苦笑いを浮かべたエカチェリーナは、俺の手を握ってきた。そのまま引き寄せられると、恋人のようにぎゅっと正面から抱き締められる。

 首元にエカチェリーナの口が触れて、さすがに悲鳴を上げた。

「ぎゃー!! 待って、待ってなんで!! やめろ柔らかいエマさんとすらまだなんだやめてくれ!! ああくそドキドキする!! ふざけんな!!」

「んー、寝取られ真っ最中みたいな発言はやめていただきたいです。私も恥ずかしくなります」

「なんでハグすんの!? 超人にぶっ殺されるよ!?」

「殺されないうちに、街へ急ぎましょう。今もアンナが狙っているかもしれません」

「もうなんでもいいから、早く―――」

 直後、俺はエカチェリーナが抱き締めてきた理由を体感することになる。あまりにも激しい加速に、ぐんと首が持っていかれた。エカチェリーナとくっついていないで、下手な態勢でいたら相当な負担が身体にかかったはずだ。

 目を瞑ってしまい、音が消える。しかし、直後には人の声と車の往来の音が聞こえてきた。見てみると、モスクワ市街の路地裏にいた。

「私の乗り心地はどうでしたか」

 また耳元で声が響いた。しかし、背中にエカチェリーナの腕は回っていない。はっと気づいた。俺がエカチェリーナに抱きついているのだ。

 慌てて手を離し、彼女と向かい合った。

「さて、アンナをなんとかして、『トリグラフ』まで戻りましょうか」

 微笑みに変化はなく、実の妹に暗殺されそうになっている状況でも、エカチェリーナはエカチェリーナのままだった。

「付き合ってくれるんですよね、九条哲人」

 



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