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第三十話 娘は女子高生



―――怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ―――

    フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』










 俺は少女に手を引かれて街を歩いていた。肩まで伸びたカラスの濡れ羽のような黒髪をサイドテールにしており、黒い右目と青い左目を持った、オッドアイの特徴的な美少女だった。十五歳程度の容姿をしており、夏用のセーラー服に身を包んでいる。恐らく、どこかの高校に通う女子高校生だろうと思ったのだが、どうやらただの女子高校生ではないらしい。

 なぜなら……。

「パパ、僕はあれが飲みたいよ」

「……俺はお前のパパじゃない」

「娘が父親の顔を忘れるものか。あなたは僕のパパだよ」

「……」

 自称、俺の娘を名乗る女子高校生なのだから。

 少女が指を指したのは、一杯で相当な価値を持つ、お高めのコーヒー屋だった。俺は少女の手を振り払って、来た道をスタスタと早足で戻っていく。すると、力強く腕を引っ掴まれて再び少女に引きずられていく。見れば、少女は頬をぷくーっと膨らませていて、似たようなリアクションをするロシア生まれの少女のことを想起させられた。

 再び東京の街中を強引に歩かされていく。

「パパって意外とケチだったんだね」

「さっきからパパって何だよ、やめろよ。捕まりたくない。周りの視線がグサグサ突き刺さってるんだけど。視線でリンチされてるんだけど」

「パパは、僕のパパだよ。パパって呼んで何が悪いのかな。ああ、そうかい。パパじゃなくて、いい加減にお父さんと呼んで欲しいのかな。前にも言ったが、残念ながらそれは無理だよ。僕はずっと甘えていたいんだ。だから、パパ呼びは死ぬまでやめない」

「……最近のパパ活ってこんな強引なの?」

「む。パパはパパさ。しつこいよ」

「いや、しつこいって俺の台詞なんですけど。―――あ、待て。まじで待って。人を待ってるんだよ。さっきの店からこれ以上離れるのはまずい」

 今日は久しぶりの休日だった。明日もお休みなので、光と一緒にツーリングに行く予定なのだ。俺は一ヶ月近い特訓で霊石エネルギーの細かい調整ができるようになり、義手の扱いに慣れてきて問題なく腕や手指を動かせるようになったのだ。左腕が動かせる以上、再び趣味のオートバイに乗ろうということになって、明日は久々に光を乗せてオートバイで旅に出る。今日は、その準備のために、都内のオートバイ用品点で光のヘルメットやグローブなどを新調するためにやってきた。光が会計を済ませている間に、俺は店の脇にあった喫煙所でタバコを吸っていた。しかし、突然現れたこの少女に、吸っていたタバコを取り上げられて灰皿に投げ捨てられた。―――タバコはやめて、体に悪い。そう言われて、気づけば手を引っ張られて連行された。そして、現在に至る。光を置いて来てしまった。まだ店は見える距離だから、光から離れすぎて物質Nが漏れる心配はない。しかし、これ以上距離を取ってしまえば、どうなるかは分からない。首にかけた十字架のネックレス―――物質Nの流出を察知すると警告音を響かせる警報装置に視線をやった。

 すると、なぜか少女も俺のネックレスを見る。ああ、と何かに得心がいったように声を鳴らした。

「そうか。そうだったね。忘れていたよ」

「? とりあえず、もういいか。パパ活なら、もっと金を持ってそうなおっさんにしとけよ」

 俺は少女の腕をもう一度振り払うと、光のいる店に踵を返した。再び店の前にある喫煙スペースに戻ってタバコに火をつけると、追いかけてきた少女がタバコを取り上げて頬を膨らませる。

 ……さすがに腹が立ってきた。

「喫煙所で吸っているだろう。あれか、嫌煙厨か」

「違う。パパの体に良くないよ。やめて欲しい」

 少女は再び取り上げたタバコを灰皿に捨てる。ふざけるなよ、この小娘。増税に次ぐ増税で、タバコ一本にどれだけ金を払っていると思っているんだ。ただでさえ、俺は『アルカサル』から貰う給料の7割をファーストに奪われているというのに。俺は大きなため息を吐いてから、少女を睨んで言った。

「俺はお前のパパじゃねえ」

「僕のパパだよ」

「お前を生んだ覚えはねえ!!」

「そりゃそうさ。産んだのはママだからね。……ふむ。やはり、今のうちからタバコをやめさせるべきだね。まさかこの歳から吸い続けているとは……道理で僕の説得が通じないわけだよ」

「……」

 話にならない。九条竜次の筋肉理論といい勝負だ。

 俺は光のいるバイク用品店の近くにある、先ほど少女が指差したコーヒー屋に目をつけた。これ以上まとわりつかれても仕方ない。

「分かった。コーヒーを奢ってやるから、もうついてくるな」

「本当かい。やっぱり僕のパパだ。いつものパパらしくなってきたじゃないか」

「そりゃどーも」

 ぎゅっと腕に抱きついてきた少女を無視して、俺はコーヒー屋に入っていった。ちなみに、胸がかなり大きい。少女の顔を盗み見る。ニコニコと嬉しそうに笑う少女の横顔のせいで、本当に娘ができた気分になる。……かわいい。もっと甘やかしてもいいかもしれない。パパ活にはまる男の気持ちを少し理解したところで、俺たちは店内の席についた。

「何でも一つ、好きなものを飲めよ」

「なら、マンデリンがいいな」

「……気が合うな。俺も好きだよ」

「ふふ。パパの娘だからね。それはそうさ」

「はいはい」

 俺はマンデリンを二人分だけ注文すると、コーヒーが届く間に少女に話しかけた。

「なあ、金に困ってるのか。だとしても、あんまり男を引っ掛けるのは感心しないぜ。危ないだろう」

「相変わらず心配性だね、パパ。大丈夫さ、僕はパパに会いに来たんだ。パパ以外にこんなことはしないよ」

「はいはい。もうそういうことでいいや」

 俺が投げやりに言葉を返すと、少女が突然に俯いた。ポタポタと、涙がスカートに落ちていく。きつく言い過ぎてしまっただろうか。迷惑な相手とはいえ、さすがに泣かれるのはまずい。周りに通報されて警察沙汰になってしまう。

「お、おいおい。悪かったよ。言い過ぎた」

「ああ、いや。ごめんね。そういう涙じゃないよ」

「は?」

「―――幸せなんだ。また、こうやって構ってもらえるのが」

「……」

 どれだけ愛情を注がれない生き方をしてきたのか。愛されたいから、こうやって男に近づいてくるのだろう。おい親、しっかり愛してやれよ。俺は無理だよ、愛してやれないよ。捕まりたくないもんね。

 照れたように笑った少女は、涙を拭って俺を見つめてきた。

 愛おしそうに、懐かしむように。

(気まず……)

 俺はコーヒーが届くまで、少女に微笑みと視線を向けられ続けた。しばらくすると、少女と俺の前にコーヒーが運ばれてきた。上品な動作で口にカップを運んだ少女の姿に、どこかの殺し屋サド女が重なった。

 ……薄々気づいてはいたが、この少女は似ている。光とファーストのハイブリッドみたいな印象だ。だからなのか、俺は少女とのコーヒーブレイクをいつの間にか自然に楽しんでしまっていた。コーヒーを一杯、口元に運んで味わってみる。

 そして、俺は冷や汗を流した。

 真横のガラス・ウィンドウから視線を感じる。何度も味わった、蛇のようにからみつく視線だ。外の大通りから店内にいる俺を捉えて離さない視線に、俺は恐る恐る振り返った。

 そこには、デコピンと無機質な瞳を向ける光がいた。何か、言っている。声はこちらに届かないが、何を言っているのかは雰囲気と口元の動きから理解できた。

 ―――照射展開。レベル3。

「ぶふぅぅぅぅぅ!!」

「うわ。パパ、汚いって」

 思わず吹き出してしまった。財布から千円札を適当に引き抜いてテーブルに叩きつけると、全速力で店の外に走っていく。そこには、相変わらず無機質な目で俺を見つめる世界最強の光学兵器がいた。

 俺は光に駆け寄って、事情を一瞬で説明する。

「パパ活で食ってる性悪JKに捕まってコーヒー奢らないと解放してくれなかったから奢ってました周りに通報されたらおっかないので仕方なくです他意はありません!!」

「照射展開。レベル2」

「さっき3だったよね!? レベル一個分の弁明だった!?」

「爆撃機全壊レベルから、装甲車破壊レベルまでは下がった。スピードは少し落ちてるよ」

「ならまあ―――ってなるわけねえだろ!! すぐ脅迫しやがって!! レーザーよりもその顔をやめろ!! 怖いんだよ、結構、いや相当!!」

 光の顔を直視しないように右手で隠しながら、彼女の首から下だけを視界に収める。待て。なぜこっそりデコピンの構えを左手で取っているんだ。さり気なく脅してきてやがる。マフィアが胸ポケットの拳銃をちらっと見せつけるような感じで、爆撃機も落とせるデコピン構えの左手を腰元に垂らしている。

 こいつ、だんだん性格が裏社会の人間っぽくなってないか。機嫌を損ねるとレーザーをちらつかせる癖、悪質すぎるだろ。

「浮気されたら、誰でもこうなる。それもセーラー服の女子高生。私がセーラー服を着ていれば、こんなことはしなかったの」

「そういう問題じゃない……」

「セーラー服でえっちなことをしていれば、浮気しなかったの」

「そういう問題じゃないって言ったよね? え、言わなかったのか。言ったよな、お前が話を聞かないだけだよな」

「セーラー服、買いに行こう。選んでいいよ」

「はいやっぱり!! やーっぱりお前が話を聞いてないだけだね!! いいか、光。耳に全神経を集中させろ。世にも珍しい難聴系脅迫型ヒロインのお前にもう一度教えてやる」

「なに」

 光が耳を寄せてきた。

 俺は耳元で、はっきりと真実を語る。

「女子高校生にたかられて、通報されるのが怖いから、コーヒーを奢った。他意はない。いいか、他意はないんだ」

「私とその子、どっちがかわいい」

 何だよ、その質問。光の機嫌を損ねた、この状況だ。答えなど決まっているじゃないか。耳を寄せてきたまま、光が目を瞑って返事を待っている。

「ひ、ひかる」

「んっ……。光が?」

 妙な声を漏らしたが、何だろう。少し頬も赤い気がする。

 俺はもう一度、綺麗な形をした耳に口を近づけて答えた。

「光の方がかわいい」

「あっ……んっ……」

 羽織っている白いカーディガンの裾をぎゅっと握りながら、また変な声を上げた光だった。なんだろう。ちょっと色っぽいと感じたことは胸のうちに留めておこう。

 満足そうに微笑むと、光は俺の手をぎゅっと握りしめた。そのまま俺を引き寄せて、ぎゅっと腕に抱きついてくる。いろいろぎゅっと掴みすぎだろう、こいつ。

「許した。帰ろう、テツヒト」

「なぜあの流れで許されたのか……。ってか、恋人つなぎするな!! 俺には―――」

「―――エマがいるなんて言ったら、それこそ警察沙汰。もう300回近くプロポーズして断られているのに、しつこく付きまとっている立派なストーカー」

「う、うぐぅ……!! お、お前だって俺にべったりじゃねえか!! 人のこと言えるのかよ」

「そう。私はストーカーのストーカー。だから、遠慮なくテツヒトをストーキングできる。だから、テツヒトは私のもの。エマと付き合っているならアウトだけど、エマとテツヒトは付き合っていない。もう一度、言っておく。テツヒトはエマと付き合っていない、ストーカー」

「ぐ、ぐはぁ……!!」

 エマさんへの思いがある以上、あまり光と恋人らしいことをするのは気が引ける。しかし、それを光が許さない。俺はエマさんと付き合っていないし結婚もしていないこと、光がアピールすることは法的に問題ないこと、あらゆる事実をもって論破してくるのだ。

「や、やめろ……付き合ってないとか……言うな……」

「なんで。事実」

「脳内では、付き合っているんだ……。結婚もして、子供も、もういるんだ……」

「ストーカーの発想。きもい。エマが聞いたら絶対に嫌う」

「き、きも……!? い、言うな……エマさんには、言わないで……」

「ちなみに、私の脳内では、既にテツヒトと結婚して3人は子供がいる。昨日の夜の妄想で、上の子は就職までしたよ」

「俺より何倍もズブズブのストーカーだよね!? お前にきもいって言われる筋合いがないよね!?」

 歩き出さずに、腕を組んだまま振り返った光は涙を浮かべていた。

「……私に好かれるのは、いやなの? 私、かわいくない?」

「い、いや、そんなことはない。とんでもないくらい、かわいいさ。鏡を見てこい、鏡を」

「なら、これからも好きって言っていい?」 

「……こ、困るから、そこそこで頼むよ」

「あと、また寝ている間にいろいろしていい?」

「おうおう、ちょっとその辺は詳しく聞こうか。かわいいからって善悪の判断基準を覚えずに育ったのか? 産声を上げて二足歩行して義務教育で習うよな、悪いことしちゃだめって習うよな?」

「ごめん……ロシアじゃ普通だから……」

「カルチャーショックでまとめようとするなコラ」

 俺がため息を吐いて先に歩き出そうとすると、義手の左手を誰かに引き寄せられた。振り返ると、そこには先ほどのパパ活JKがいた。

「パパ、お待たせ」

「待ってないよね? え、待ってたの。俺ってお前のことを待ってたの?」

「ああ。待ってるって言っていたじゃないか」

「え、まじで。嘘でしょ。嘘だよね」

「今、目が言っていたよ」

 どこかで似たような会話のやり取りをした気がする。にっこりと微笑んだ少女は、俺から光に視線を移すと、眉根を寄せて軽く頬を膨らませた。

「うわー。この頃からべったりなのかあ。さすがにないよね」

「……っ」

 目を見開いた光は、俺を勢いよく引き寄せた。

 少女の手が離れていく。俺に向けて名残惜しそうに手を伸ばしている少女の前に、光は大きく歩み出た。デコピンの構えを作って、少女を睨みつけていた。

「……東京の人混みの匂いで気づくのが遅れた。さっきはあなたが店内にいたから、気づけなかった。あなた、どこの機体。何が目的」

「機体? 匂い? それって……『殺戮機械少女』ってことか?」

「ん」

 頷いた光から、少女に目を向けた。

 少女はにっこりと微笑んで、青と黒のオッドアイで俺を見つめ返した。

「だから、僕はパパの娘で、パパに会いに来たんだ。どこかに所属しているわけじゃないさ」

「俺に娘はいない。それも『殺戮機械少女』の娘なんて」

「今は、ね」

「今?」

 首をひねった俺に、少女は微笑みを崩すことなく語り出した。

 自分が、どこからやって来たのかを。

「パパはさ、相対性理論って知っているかい。相対性理論で考えると、光の速さで動く物体の時間がどうなるか、とか」

「光速に近い速度で運動する物体は時間の流れが遅くなる……。だったよな、確か。それくらいしか知らないけど」

 俺が大雑把な知識で解答すると、少女は頷いて解説を始めた。

「そうそう。それを応用すると、過去にも遡れる可能性があったんだよ。まず、地球から宇宙船を光速に近い速さで打ち上げるんだ。そして、地球上である程度の時間が経った頃に、地球から宇宙船に向けて超光速で動く僕を送る。超光速で飛ぶ僕は、すぐに宇宙船に追いつくよね。このとき、光速で動く宇宙船の中の時間は、僕を送った地球の時間よりも大きく遅れているから、仮に地球の時間で2020年に超光速の僕を送ったら、宇宙船の時間では2020年よりも前に僕が届くことになる」

「……光速で動く宇宙船の方が地球より時間が遅い。そこに超光速で動くお前が一瞬で宇宙船に到着するからか。地球で五十年経ってから超光速で動くお前を宇宙船に送れば、時間の流れが地球よりも遅い宇宙船に、つまり五十年も経っていない宇宙船に―――過去にお前はたどり着くってことか?」

「ああ、そんな感じだよ。たださ、この時、宇宙船側からは、地球のほうが光速に近い速さで遠ざかっているように見えているよね。つまり、宇宙船からすれば、地球のほうが時間の流れが遅くなっていると言える。そして、宇宙船から地球に向けて、さっき到着した僕を送り返すと、宇宙船の中の時間よりもさらに過去の地球に、ようは僕を宇宙船に送った2020年よりも前に、僕が帰ってくることになる」

「宇宙船からすれば、地球が光速で移動しているようなもんだからな。実際は宇宙船が動いているけど。だったら、宇宙船から見れば地球が光速で動いていて、光速で動いている地球の方が時間の進みが遅いことになる……のか?」

「理論上はね。そして、この相対性理論は正しいことを僕はたった今、実証してみせた」

 少女の言わんとしていることを俺は察知した。地球よりも進みの遅い光速移動中の宇宙船へ超光速で移動し、宇宙船よりも進みの遅い地球に超光速で帰ってくる。その結果、理論的には過去への移動が可能になる可能性があった。それが正しいのかどうかは誰にも分からないはずだ。実験が、実証ができないのだから。

「……嘘だろ」

 しかし、この少女は言ったのだ。

 それをたった今、実証してみせた、と。



「嘘じゃないさ。僕は千凪せんな―――パパに会うために未来からやってきた、超光速移動型兵器。タイムマシンの愛娘だよ、パパ」



 時間が止まった。

 一瞬、呼吸を忘れる。しかし、呆然と立ち尽くしている光を一瞥した後、咳払いをしてから俺は千凪に言った。

「今すぐ帰れ。去れ」

「む。愛娘が未来から必死になって会いに来たのに、そいつは随分な態度じゃないのかな」

 俺が空に指をさして未来への帰宅を命じると、千凪は頬をぷくーっと軽く膨らませてから、ぶつぶつと文句を呟く。

「帰れるだろう。今度は、お前が超光速で宇宙をぐるーっと回ってくればいいんだ。お前だけ時間の進みが遅くなって、地球がガンガン時間を進めていくはずだ。ちょうどお前の過ごした時間の地球になったら帰ればいい」

「おやおや、随分と簡単に言ってくれるなあ。ぴったり目的の時代にタイムトラベルすることが、どれだけ至難の技なのか、パパは分かっていないよ」

「え、じゃあお前、元の時代に帰れないの?」

「可能性は限りなく低いだろうね。僕がなんとなくこれくらいかなーって地球に戻ってきて、そこが僕の時代とは限らないよ。帰れない覚悟はしていた。だから、そう邪険にしないで欲しいな、パパ」

 肩をすくめた娘の姿が、妙に痛々しく感じられた。二度と元の世界には戻れない。千凪は、自分の存在など誰も認知していないこの時代で、生きていかねばならなくなったのだ。

「……一回きりの片道切符。そこまでして、なぜ今の俺に会いに来た」

「伝えなくちゃいけないことが、あったんだ。パパから、パパにね」

「未来の俺から、俺に?」

「ああ。驚くだろうが、聞いて欲しい」

 千凪は俺に真剣な眼差しを向けてきた。

 いや、俺だけではなく、光にも視線をやってから口を開く。

「50年後、世界が『方舟』によって創り直される。その過程で、『殺戮機械少女』と人類の全てが殺される。これを食い止めるために、僕はパパに会いに来た」



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