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第十七話 そっくりさん

 目的の村が見えた。大きな学校が近くにあるので、校庭を借りて無事に着陸する。運転席から降りたファーストに続いて、俺も助手席から降りて地に足をつける。学校敷地内に人影はなく、耳を済ませても足音や話し声、車や自転車の往来する音も聞こえない。確かに、この山間の村には人がいないことが分かった。

 ファーストは、運転で固まった身体をほぐすように伸びをしている。今日も黒のワンピースを着ているのだが、これは非常に目のやり場に困る。丈が短いのだ。伸びをするとワンピースが持ち上がり、白い美脚が太ももから顕になってしまう。

「あら」

 まずい。一瞬でも、太ももを見てしまった。

 この一瞬を逃すほど甘い女でない、ということは分かっていたのに。

「えっちな目で見ないでくれるかしら。変態さん」

「ならジーンズを履け」

 口の端を釣り上げたファーストに背を向けて、俺は歩き出した。あの女、身長が恐らく170センチ以上はある。それだけの身長から伸びる色白の長い足は、男なら目を奪われる代物だ。俺は悪くない。

 俺の隣に並んだファーストは、ニコニコした笑顔で俺の顔を覗き込んだ。

「前、歩きましょうか。私が後ろじゃ見えないでしょう」

「変な気遣いすんな。もう見ねえよ」

「やっぱり見たんじゃない。なに、私のこと好きなの」

「違う。足フェチなだけだ」

「変態度が上がるわよ、その反論」

 こいつのからかいに付き合っている暇はない。とりあえず、学校の正門を抜けた俺達だったが、さてどこから探し始めるべきだろうか。

「どーするかな」

「あの幼女上司に、もっと具体的な場所を探知してもらえないのかしら」

「村内までは具体的に探知できないらしい。何とか探すしかねえ」

 ヘリコプターから村全体を見下ろしたが、それほど大きな村ではない。最悪の場合、一日歩き回れば村の全てを見て回ることはできる。だが、さすがにもっと効率的に片付けたい。

 日本に逃げたということは、ロシアの追手から逃げたということだろう。すると、極力発見されにくい場所、かつ霊石反応の探知がされにくい場所にいるはずだ。また、アリスの話ではこの村内で霊石反応が動いていないということは、しばらくここに滞在する気なのだろう。すると、長期的な滞在が可能で、かつ霊石反応をキャッチされない、見つかりにくい場所を優先的に捜索するべきだと思う。

「山小屋や、村外れの廃墟あたりから探すか」

「ええ、そ―――」

 ファーストの声が途切れた。何だ。俺は自分の右耳付近で爆音が響いたことに気がついた。煙が俺の頭から上がっていて、どうやら俺は今、攻撃されたということが分かった。

 ちら、と右の学校の校舎を見上げる。いや、校舎のさらに背後に立っている、大きな山を見る。すると、ピカッと赤い発光が見えた瞬間、俺の額にレーザーが炸裂した。

 再び爆音が響き、俺は空を仰いでいることに気づく。んー、痛くはないな。レーザーだからめちゃくちゃ早くて、視認も難しいが、威力が大したものではない。俺は首をコキリと鳴らすと、向こうから居場所を教えてくれたことに感謝した。

「ありがたいな。あの山の中腹あたりだ。見えたか、ファースト」

「ばっちりよ。先にあなたを狙うあたり、運のない子ね」

「あとは頼んだ」

「了解」

 俺はアリスから、事前に物質Nを使わないこと、『殺戮機械少女』に影響が出るほどの流出を避けることを命令されている。ロシアの個体を捕獲後、それを引き取ったロシア側に物質Nの『殺戮機械男子』がいることを知られないために、ということだ。なので、俺はオートによる体温上昇の防御以外に対応ができない。アリス曰く、防御機能だけなら、物質Nの兵器だとは判断されないから問題ないらしい。

(頭をレーザーで撃ち抜かれたのに無傷っていうのは、ロシア側にバレたら何て説明するんだろう。男装した『殺戮機械少女』ですとか言えばいいのかな)

 ガゥン!! と、考え事をしていた俺の横から銃声が響いた。スナイパーライフルを持ったファーストが、スコープを覗いて狙撃したのだ。一発だけ引き金を引いた彼女は、スナイパーライフルをすぐに消滅させる。蛍が飛び散っていくように消えたライフルは綺麗で、思わずぼうっと眺めてしまった。

「はい。終了」

「え、殺してないよな、お前」

「足を撃ち抜いたわ。使ったのは、バレットM82。コンクリートの壁も粉砕できるパワーがある。Bクラス程度なら、問題なく通じる威力よ」

「前から気になっていたんだが、どの銃がどのクラスの『殺戮機械少女』に効くか分かるのか」

「嫌ってほど大戦で戦ったからね。経験則」

「すげえな」

 さすがにくぐり抜けてきた戦場の数が違う。退屈そうにあくびを手で隠しているファーストを連れて、俺は校舎裏にそびえ立つ山の中腹へと向かった。ファーストがふわりと浮いて、空にのぼっていく。飛行能力だ。霊石のエネルギーを足元から流すことで可能になる。しかし、俺はその扱いにまだ慣れていない。練習はしてきたが、少し時間をかけて、ゆっくりと空に上がっていく。

 すると、どうだろう。先に飛んだファースは短めのワンピースを着ている以上、下着が見えてしまいそうなのだが……。あ、待って、本当にパンツみえそう。

「ちょっと、変態さん」

「ならお前先に行くなよ、嫌でも見えそうなんだよ!!」

「嫌なの?」

「……」

「本当、バカ正直よね、あなたって」

 スカートを押さえながら俺の隣に並んできたファーストは、肘で脇腹を突いてきた。まだ飛行能力に慣れていない俺は、ふらふらとその辺をさまよってしまう。

「ちょ、待って。まじで。落ちるからやめて」

「霊石エネルギーの扱いが、上手になったのね。飛行できるようになるには、結構な時間と訓練がいるはずなのに」

「心臓が霊石だし、この間の戦いで、感覚は掴んだからな」

 竜次と共闘した時、物質Nに頼っていても、霊人篤史には通用しないことを嫌でも理解した。よって、あれ以来は霊石エネルギーを体内循環させる訓練を行ってきた。走り込んで限界まで身体を追い込み、霊石エネルギーの供給量を強制的に引き上げる。慣れてくると、運動で身体を追い込まなくても、霊石エネルギーを体内にある程度循環させることはできるようになった。少し身体能力が上がる程度で、まだまだ実戦では役に立つことは少ないだろうが。

 微量の霊石エネルギーならば、頭から足元までに走らせることができる。その要領で、今は足元に向かってのみ霊石エネルギーを流しこんでいるのだが、これで推進力が生まれるようだ。

 俺はファーストの足元を見るが、そこには何もありはしない。実際は、不可視の霊石エネルギーがあるのだろうが。

(ファーストや光からも、視認できる量の霊石エネルギーは見たことがない。やっぱり、心臓が霊石でないと、あれだけの質量は生み出されないのか)

 親父が見せた奥の手『霊石解放』は、やはり膨大な霊石エネルギーを自由自在に肉体へ供給できるようにならなければ、扱うことができないのだろう。今の俺に、認識できる質量の霊石エネルギーは意識して生み出すことができない。

 そうして自己分析をしながら目的の場所にたどり着くと、生い茂る木々の中に転がっている少女を見つけた。

 そして、俺は絶句した。

 見覚えのある顔立ちだった。まったく同じ、と言っても過言ではないかもしれない。綺麗な銀髪が足元にまで伸び切っていて、サファイアのような瞳が震えながら俺の驚いた顔を映している。怯えきった様子の少女は、大きな布で身体をくるんでいるだけで、どうやら衣服を着ていないらしい。

 裸の少女は、俺のよく知るロシア製光学兵器にそっくりだった。ぽつりと、少女を見下ろして尋ねる。

「光……?」



 


 

 

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