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13話 強者の気配

 タラミ村での生活が始まり、もう二週間ほど経過しただろうか。


 有事の際に即座に対応できるよう、俺は基本的には村の中や周囲の見回りをしている。


 時折、農作業やら力仕事で村人が助けを求めてくるので力も貸している。


 今世でも鍛え抜いていた体は、しっかりと辺境の生活でも役立ってくれていた。


「……だとしても、時間が余るなぁ」


『急にどうしたのです?』


「いいや、平和ってのは思ってた以上にのんびりできるってこったな」


 昼食のサンドイッチを作りながらセラが言う。


 セラは器用で料理も教えたらすぐ作れるようになったので、最近の料理は当番制だ。


『そんなに平和に退屈しているなら、私と手合わせしていただけませんか』


「ああ。人間の姿でブレスなしならいいぞ」


 セラの希望で手合わせをする際は、もっぱらこんな条件だ。


 ドラゴンの姿のセラと手合わせするため逐一村を離れたのでは、護衛も務まらないと判断したからだ。


『リーンと肉弾戦を演じる度、対人間……もとい対リーンへの理解が深まり反応速度が増していきます。強者との戦いの素晴らしい点はここですね。自らの強さの向上を感じ取れる』


「お前は見た目と真逆で本当に戦闘狂だなぁ……」


 実はセラ、この村で三度は若者から交際の申し入れを受けている。


 黙って微笑んでいれば「お淑やかな聖女」といった題材で絵画に収まっていそうな美貌なのだから、交際したいと思う男がいるのも頷ける。


 だがその中身は戦闘狂のドラゴンで、人間の姿でさえ時に小さな口で噛み付こうとしてくると知れれば彼らはどんな反応を示すだろうか。


「セラ」


『はい?』


 完成したサンドイッチを持ってきたセラに、俺は言う。


「若人の夢だけは壊すなよ?」


『……? そういうリーンだって十代の若人でしょうに』


 セラは不思議そうに首を傾げた。


 俺はいいんだよ、前世合わせたら三十歳余裕で超えてるし。


 前世の記憶を思い出してから、何となく世に冷めたと言うか精神的にも落ち着いた気がする。


「それじゃあとっとと食事をとって、村近くで適当に手合わせを……」


 そう言ってサンドイッチに手をのばしかけた時、北から強い魔力を感じ取った。


 正確には魔力の主は自身の魔力を隠しているつもりなのだろうが、肌が痺れるような魔力の残滓までは隠しきれていなかった。


 明らかに魔物かそれに類する魔力で禍々しさは人間のものではない。


「セラ、今の分かったか?」


『当然。これはリーン並みの強者と理解しますが如何でしょう?』


 セラは狂犬めいた笑みを浮かべる。


 こいつもう戦う気なのか。


「俺も行く。流石に村まで来られたら戦いの余波で滅茶苦茶になるから」


『それがよろしいかと。食事は後回しにいたしましょう』


 セラは魔力でサンドイッチを包み、乾燥しないようにした。


 それから俺たちは村長に少し遠出すると伝え、村を飛び出した。


 木々から木々へ飛び移るように移動し、セラが叫ぶ。


『気持ちがいいですわね! まるで竜の姿で飛んでいるかのような!!』


「あまりはしゃぎ過ぎるなよー。こっちの居場所が向こうにバレかねないからな」


『承知していますよ』


 とはいえセラは戦いの前で明らかにテンションが上がっている。


 本当に承知してるのか?


 俺たちは山一つを超え、魔力を感じた地点へと突っ込んだ。


 魔力源の気配は動いていない、俺たちを誘っているのか?


「セラ、あっちが待ち構えてる可能性が高い。一気に詰めるぞ!」


『これで終わるならその程度だった、というところでしょうか。構いません、参ります!』


 跳躍したセラは魔力を解放し、正面に魔法陣を展開した。


 これは人間の魔術行使に似ているが、人間が魔術を起動するには専用の【魔術師】や【賢者】のようなスキルが必要だ。


 体内の魔力を火属性や水属性魔術に変換する力を、生来人間は持たないからだ。


 けれどセラは高密度魔力弾のブレスも生来撃てる種族だからか、人間の姿でも魔法陣展開による大技も使用可能らしい。


『ドラゴンの姿でのブレス改め、さしずめ《竜ノ咆哮》とでも名付けましょうか!』


 セラの魔法陣から射出されたのはAランク相当の炎の爆炎弾だ。


 小山程度なら着弾と同時に爆散できる威力。


 俺も同時に抜剣して技名を詠唱。


「《銀嶺流剣撃術・星風!》」


 これは独特の緩急を付けながら剣を振って、丘を駆ける風のように斬撃を広範囲に飛ばす技だ。


 強大な魔力源がセラのブレスを躱したとしても、この広範囲斬撃からは逃れられない。


 これで追い込み、次の一手で仕留める。


 そう考えていたからこそ、セラのブレスが森の奥に着弾して「きゃわわわわわーーーーっ!!??」と悲鳴が上がった時には耳を疑った。


 セラのブレスで爆炎が上がり、その中から逃げてきたのは頭に小さな二つの角を生やした少女だった。


「な、何よ何何!? あなたたち、魔王軍の追っ手!? あ、あたしはぜーったいに戻らないもんっ!!」


 涙目で俺たちに猛抗議し出したのは、どう見ても魔族の少女だった。


《作者からの大切なお願い》


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