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第11話 住処

「わかった」

数馬はこうきっぱりと言った。

「わかった。君の言いたいことはよくわかった。……実を言うと僕もまだ決めかねているところがあるんだよね。笑っちゃうよね。まだそんな状態なのに、こんなところに来るなんて……。」

それにね、と言って続ける。

「僕もまた君に会いたいし……」

アリスは頬に流れる冷たいものを感じた。

「ありがとう。」

と言って俯くと、涙ににじんだありがとうを何度も繰り返した。

数馬はそっと彼女の背に手を掛けてさすり慰め、優しい声色を紡ぎ出した。

「いいんだよ。」

この優しい言葉は、感情を流出させむせぶ少女に残っていた力を奪ってしまった。数馬の腕に導かれるまま、少しの抵抗も見せることなくアリスは彼の胸へと顔を埋めた。ファンデーションや流れたアイライナーが彼のシャツを汚した。が、そんなことに構う余裕のなかったアリスは肩を揺らしてひたすら嗚咽を続けた。小刻みな呼吸の合間に仄かな男の体臭を嗅いだ。しかしそれを不快には思わなかった。

 彼女のすすり上げる声は、長い間この冷たい建物に響いていた。


「きっと僕達は……」

アリスの感情が落ち着いてきた頃、数馬の胸に押し付けた彼女の頭の上で彼がそうささやき出した。

「きっと僕達は闇の住人なんだろうね。ちょうどあの明るい街明かりと対比したこの暗い部屋みたいにね。普通の人達は明るいあっち側、で僕らは暗いこっち側。悲しいかな、僕らにとってこっち側はとても落ち着く場所なんだ。」

二人の顔は上下にあったまま、いつしか窓の外へと向けられていた。そのままの体勢でアリスは彼の言葉をじっと聞いていた。そして口を開く。

「そう、そうなの。……確かに私も闇の住人。」

アリスは暫しの間、思考を巡らせ言葉を展開させる。

「でも、暗いところにいると明るいところはとてもよく見える。それも眩しいくらいにね。……そしてその眩しさが羨ましいの。暖かそうで、笑っていて、楽しそうで……。でも、たとえどんなに憧れていても、私達にはそこに居場所はないの。だって……だって私達は闇に住む者だから。この暗さと湿り気を愛さずにはいられないのだから。結局のところ、私達にはあそこは苦痛にしかならない……」

 二人の瞳には闇に浮かんだ、染みるような眩しさの明かりが映っていた。心なしか、少女をいだく青年の腕に力が込められた。


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