水の僧侶ミズヒと。③【挿絵.マップ】
「さ、サイズSの、ち、チキンケバブ、お、お肉少な目にしてくださいん……。そ、それと、き、キャベツとトマト多目で……。そ、ソースは、よ、ヨーグルトソースのんで………。あ、あと、た、タピオカのミルクティーも一つ……。」
昨日、大して稼げなかったミズヒは警戒しながら家を出た。家に居てもチカとヒートのせいで落ち着かなかった事もあるが。
辺りを警戒しながらミズヒは屋台でケバブとタピオカミルクティーを買い、街の外へと急ぐ。
水属性のミズヒなら火の魔物相手が一番効率よく稼げる。しかしミズヒは火の魔物が多い火山地帯や砂漠が好きではなかった。どちらかと言えば静かで落ち着く川沿いや湿地帯、森等が好きだった。
(――でも効率良く狩らなきゃ――。)
ミズヒは買って来たタピオカミルクティーを飲みながら気分を上げる。飲みながら水に弱い魔物のいる砂漠へと向かった。火山地帯より砂漠の方が幾分居心地が良かったから。
ミズヒには覇気が無かった。覇気と言うより魂が無い、まるで抜け殻……。チカにはそう感じた。掴めそうですり抜ける蜃気楼のような不思議な感覚……。
「どうした、チカ?」
「ん? いや、……どこまで行くのかしら? ミズヒさん。」
ケバブ屋の影で待ち伏せていたチカとヒートはミズヒを遠くから尾行していた。
「この方向ならベンドトア砂漠だろうな。あそこは水に弱いモンスターが多いからそこで狩りをすんだろ。よしチカ、先回りだ! 偶然を装うぞ。今日ダメだったら諦めっか!」
「……そうね。三日粘ってダメだったらね……。」
目的地を推理した二人はミズヒを追い抜き先回りを急いだ。
(ケバブおいしい……。)
当のミズヒはベンドトア砂漠に行くのを止め、道の脇の草原にある大岩の上で、来る時に買ったヨーグルトソースのチキンケバブをモソモソと食べていた。
ここはベンドトア砂漠とゲレゲ火山との丁度分岐点。ミズヒは二人の尾行に気づきルートを変更。砂漠に行くと見せかけUターンしていた。
ミズヒは自分の悪い癖が出てしまったと分かってはいた。目の前の決定事項から逃げ出し問題を先送りにしてしまうと言う悪い癖。
――性根、それが悪い。分かっているが自分を偽る。
(や、やっとあの二人も居なくなったし。ひ、一人の方が気楽だし。)
そうする事で自分を守ってきたのだ。
ミズヒはヨーグルトソースのチキンケバブを食べ終わると一人、火山地帯へと向かった。
ゲレゲ火山。ここもミズヒの狩場の一つ。辿り着くまでの距離が長い事や、山岳地帯もあって便は悪かったが水の属性のミズヒなら安全に、かつ一気に稼げるので砂漠ほどではないがよく狩りに来ていた。
そして夕暮れ。ミズヒは1日かけてゲレゲ火山で火属性の魔物、フォックス、フェニックス、フロッグ等を狩った。
(今月はこれでいいか。1000Gにはなったし。……でも何でウチ、レベル上がらないんだろう? ……まあ悩んでも仕方ないけど。)
「……さ、帰ろ……。こ、これでまたひと月は篭れるし……。」
ミズヒは帰り支度を整えるとゲレゲ火山を降りた。
―――そしてミズヒが、チカとヒートを最後に見かけて3日が経った―――。
「ミズヒさん!いる? 私、カンラーだけど!」
翌朝、ミズヒはカンラーのドアをノックする音で目が覚めた。
「な、何ですん、か、カンラーさん? う、ウチもうパーティは………。」
「いや、今日は別件で来たの。あの時の二人組の事なんだけど。……ちょっといい?」
ミズヒがドアを開けるとそこにはカンラーだけでなく、身長2メートルのカンラーより背が高く、屈強なミスリルの鎧を着込んだ蒼銀の騎士が傍らに立っていた。
「そ、その人は?」
「ああ、彼は『コエースト』さん。私の助手と言うか、雇い傭兵みたいなモノかな? 人探しに人手がいるかもしれないから来てもらったの。」
「よろしく。」
「は、はあ……。ど、どうもですん………。」
地鳴りのようなコエーストの低い声に、ミズヒは恐れおののく。
「あ、あのぅ……、 で、う、ウチに、な、何の用ですん? ひ、人探しって?」
「うん。この前、私が連れて来たチカさんとヒートさんって居たでしょ? あの二人組知らない? ミズヒさん、あの人達と一緒に行動とかしなかった?」
「え? こ、この前、み、見かけてから、あ、会ってないんですん……。」
「この前って?」
「え、えと、た、たしか、み、三日前? ま、街のちょっと外で、み、見かけて、そ、それっきりですん………。」
「そっかー、参ったな……。」
カンラーは頭を掻きながら言う。
「ど、どうかしたんですん?」
「行方不明なんだよ、あの二人……。」
「え……、ええ!?」
ミズヒは渋々ながらカンラーとコエーストを部屋に通した。事が事だったからだ。
「お、お構い、な、何も、で、出来ませんが……。」
「いや、いいよいいよ。いきなり来た我々が悪いんだし。……で、あの二人がどこに行ったか心当たりはない?」
「さ、さあ……?」
「んー、じゃあミズヒさん、その日どう行動したか覚えてる?」
「え、ええ。そ、それはまあ……。」
「じゃあ悪いけどちょっと協力して。あの人達ミズヒさんを仲間にしたがってたから。その日のミズヒさんの軌跡辿れば何か分かると思うし。」
「う、ウチには、か、関係ないで………、」
「一応お礼もするから。それと今日一日、この『コエースト』さんをお供に付けてあげるし。ね? レベル35のディフェンダーナイトだから心強いよ。だから心当たりを探して! 私も別方面から捜すから。じゃあ悪いけどよろしく!」
「あ、あのっ……!」
カンラーは用件を伝えると足早に出て行ってしまった。コエーストと二人っきりにされたミズヒは対応に困った。
「では参ろうかミズヒ、よろしく頼む。」
「は、はあ、ど、どうも……。た、頼もしいですん……。」
断りきれずなし崩しにミズヒは人捜し引き受けてしまう。
ミズヒはコミュ障であった。物事を断る事が出来ない。それ故に損をする事ばかりだった。面倒ごとばかりに巻き込まれてしまう……。
昔、そんな自分を変えようと志願し、家から出た。そしてここに来た。
ミズヒとコエーストはアパートを出て街の出入り口に通じる大通りに来ていた。大通りと言っても田舎の郊外の商店街と言った感じだ。
「え、えーと…、ま、まず何をすれば……?」
ミズヒは恐る恐るコエーストを見上げ尋ねる。
「ウム。ではあの日、チカとヒートを最後に見かけた時の行動を再現してもらおう。」
「え、ええ……、は、はい。あ、あの日は、た、たしか昼食用に、け、ケバブを買ったんですん。そ、そこの屋台で……。ち、チキンで、よ、ヨーグルトソースのですん………。」
「ほう。」
ミズヒはコエーストを連れ、最後にチカとヒートを見た三日前を思い出しながら再現を始めた。
その頃、当のチカとヒートは砂漠の遺跡にある小部屋に篭城していた。チカが動けない状況にあったからだ。




