水の僧侶ミズヒと。②【挿絵】
次の日、相も変わらずミズヒは篭っていた。しかし篭っていても金はかかるし腹も減る。
「き、昨日は、あ、朝から散々だったん……。も、もう、き、今日は家から出たくないん……。あ~…、で、でもそろそろお金が……。な、何か楽そうな魔物で、お、お金稼がないと………。」
ミズヒは生きるのすら鬱陶しそうに、ベットから体を起こした。
ミズヒは心を閉ざしていた。
性分的に元々活発な方ではなく人と上手くやれない事もそうだったが、原因はレベルが上がらない事だった。
昔は、レベル20ぐらいまではどんどんレベルが上がってそれなりに楽しかったし仲間とも上手くやっていた。
しかしレベルが今の23になってからめっきりだった。
―――レベルが上がらない―――。
がんばってはいる。
しかしそれが成果になって現れない!
これほど手ごたえの無く辛い事は無かった。
その内パーティ内で差が付き仲間とも険悪に、そしてパーティからの戦力外通告……。
パーティを首になったミズヒだったが、何度かは再び頑張ろうとはした。
―――再起―――。
ギルドへの登録や新しいパーティへの参加……。
しかしその度に挫折した。
水の僧侶であるミズヒに期待されるのは回復役と言う薬箱代わり。
回復ばかり任されレベルが上がらない。
やはり戦わなければ強くはなれないのだ。
次第に回復役の拒否、水魔法での後衛からのアタッカー、そして格下パーティに入って前衛としての攻撃要員……。
(回復ばかりしているからこっちのレベルが上がらないんだ!)
次第にそう言う考えになって行った。
悪循環、そして孤立。
――結果この現状――。
打開しなければならないのは分かっている。
(でも今更どうやって……?)
気合いを入れ、一気にベットから立ち上がる!
(5分以内に、この部屋から出られなかったら……、死ぬ。)
そう考えながら素早く身支度を整えたミズヒが部屋から外に出たのは昼前だった。
「ま、まぶしい……。」
昼前の、真上からの日ざしがミズヒには心地悪かった。
一方一夜をこのミズヒの住むハイドイドラの街で過ごしたチカとヒートはミズヒのアパートの傍の川辺でケバブを食べながらミズヒのアパートを見ていた。
「……とりまミズヒさん、家から出て来てくれればいいのに。」
チカはケバブをモリモリ食べながら言う。
「引き篭もりだからな。……まあオレらもあんま人の事は言えねぇけど。」
ヒートもケバブを食べながら言う。
「しっかしよ、温泉はあってもイナカだなー、ここ。……いや、温泉があるからイナカか。」
「偏見かよ。ま、あたしらが住んでるとこも大して……、ってヒートハウスはもっと酷いけど!」
「ヒートハウス言うなし! いずれきれいにすんだよ! つーか住まわせてやってんだから庭の草ぐらい刈れよや!」
「雨どいと外の水道直したげたじゃん。あと漏電しかかってた電気配線も。……でもしくじったわー。」
「何が?」
「チキンよ! ビーフ以外の初めてだったからチキンにしたけどビーフの方が好きだわー。しかもここスパイシーソースも無いし! これじゃ星はあげられないわね!」
チカはこの街のケバブに対し不満を露にしつつも、食べるのは止めなかった。黙々と食す。
「そうか? オレはいいと思うけどな、チキン。」
ヒートはビーフとチキンのミックスケバブのホットソース掛けをゆっくりと食べながら言った。
「あ、出てきた! ほら、ヒート! ミズヒさん!」
「え? マジで?」
「ほら! おーーい……、」
「待て、チカ。今声を掛けても逃げ込まれるだけだ。声を掛けんならもっと家から離れてからだ!」
ヒートはチカを止め、続ける。
「オレに……、考えがある!」
「考え? どうすんの? ヒート。」
「まあ見てなチカ……、って言ってみたかっただけ~。」
「何よ、ポンコツか。」
「うるせー。ダメ元だろ? 行くぞ、チカ!」
「おうよ!」
チカとヒートは立ち上がり、二人は残ったケバブを口の中へと押し込んだ。
「さ、サイズSの、ち、チキンケバブ、お、お肉少な目にしてくださいん……。そ、それと、き、キャベツとトマト多目で……。そ、ソースは、よ、ヨーグルトソースのんで………。あ、あと、た、タピオカのミルクティーも一つ……。」
ミズヒはケバブの屋台に来ていた。遠出をする時は決まってここで弁当代わりにいつものヨーグルトソースのチキンケバブとタピオカのミルクティーを買って行くのがお決まりになっていた。
特に好物のタピオカのミルクティーはミズヒのテンションを上げてくれた。これで士気を高め、稼ぎに備えるのだ。
「こんちわー、ミズヒさ~ん。昨日はど~も~♪」
チカが背後から一気に近づきミズヒに声を掛ける。
「おわっ!? な、何ですん!?」
「いや~、昨日は悪かったな~。カンラーにはデリカシーのない事はすんなってオレらがよーく言っとくからよ。ああ、そのケバブ、オレらにおごらせてもらおうか!」
ヒートもチカに続く。
「な!? な、なんなんですん? あ、あなたたち!? う、ウチ困りますん!!」
「いいから、いいから。あ、おいちゃん! そのケバブ、サイズSじゃなくてLでね!」
「こ、こ、困りますん!」
ミズヒは二人を押しのけ走って逃げてしまった!
「……何だよ、ダメじゃねーか。チカの奢り作戦。」
「おっかしいわねー。『奢りケバブ接待作戦』、失敗するなんて……。あたしならついてっちゃうわよ?」
「犬猿雉レベルかよ。お腰か、お前の脳みそ!」
「じゃあ次はヒートがやってみなさいよ! あ、おじさん。そのケバブ、ヨーグルトソースじゃなくてホットソースでね! それとトマト抜きで! …今からビーフに変更出来る? あ、出来ない。え?もう出来てる? じゃあトマトだけ抜いて、トマト! 肉の量も通常で!」
「おいチカ、置いて行くぞ! 作戦プランBに移行だ!」
「待ってよ! あ、おじさん、はいお金!」
ミズヒはチカとヒートの二人から逃げ、屋台でのタピオカもケバブも諦めて早足で街の外へと向かっていた。そして街の正面出入り口まで来ていた。
(なんなん? あの人ら? ……もうこのまま行っちゃおう。戻ってもまた絡まれるだけだし。今日は仏滅かもだし!)
「ああ、ミズヒ!ちょうどアンタのとこに行こうと思ってたのよ。」
不意に声を掛けられる。聞き覚えのある声。ミズヒはその声のする方に目をやる。それはミズヒがかつてパーティを組んでた仲間達。魔法剣士、武術家、狩人、の3人だった。
「あ、ど、ども………。」
「久しぶりねー。ミズヒ。どう?最近調子は?」
「……ま、まあまあ……。で、な、何の用………?」
ミズヒは気まずそうに、恐る恐る返事を返す。
「ミズヒさぁ~、アタシらレベルが上がらなくて困ってんのよー。鍛え直してんだけど、回復にポーション使ったり、街に戻るのだるいのよねー。だからまた回復とかやってくんない?」
「……う、ウチは………。」
「あら、何? 先約? お仲間居るんじゃないの。」
物陰からミズヒらを見ていたチカはケバブを食べながら言う。ミズヒが食べるつもりだったサイズSチキン少な目、キャベツ多目、ヨーグルトソースのトマト抜きをだ。
「……キーマカレーとかの付け合せで食べるならいいけど、メインで食べるならヨーグルトソースは無いわね~。ホットソースかけてもらえば良かったわ~。」
「……いや、違うな。」
同じく物陰からミズヒを見ていたヒートはそれに難色を示した。
「え? ヒート、あんたヨーグルトソース行ける派?」
「そっちじゃねーよ! 〝おともだち〟じゃないって事だ! ちょっと行って来る!」
「あ、ちょっと! ヒート!」
ヒートは飛び出した!
「あー、ここにいたか~。ミズヒー、何? 友達?」
「え!? い、いや……。」
「あんたら、ウチのヒーラーに何か? まさか引き抜きしてるんじゃあないだろうな? 不正な引き抜きはウンエイに言っちゃうぜ~?」
ヒートは思わず出任せを言う。牽制。そしてさり気なくミズヒの隣に回る。
「ところでオレらこれから狩りにいくんだけど、そうだ! どうよ、アンタらも一緒に?」
「な、何コイツ……?」
「ミズヒの仲間?」
「まあ、そんな所かな? で、どう?」
「いや、間に合ってるんで……。」
「そっかー? じゃ、また今度なー。」
去っていくミズヒの元パーティメンバー、ヒートは3人を追い返した。
「……アンタ、嫌ならハッキリ言った方がいいぞ? ああ言う他人を利用する事しか考えてない連中にはな。……まあオレも人の事は言えないか。」
「……ど、どうも……。そ、それじゃあ……。ど、どうもですん………。」
「ああ、じゃあな。」
ミズヒは足早に去っていく。軽めに手を振るヒートにチカはケバブ片手に近づく。
「……ちょっとカッコつけすぎちまったかな!」
「そんなにかっこよくなかったわよヒート。……むしろキモイ? つーか無いわー。」
「は? 嘘だろ! そんな事ないだろ?」
「あるわよ。残念ながら。」
「マジでか!?」
「……ヒート、前々から思ってたけど……、」
「何だ?」
「あんた言動かなり痛い時あるわよ。」
「んな事ないだろ!?」
「いやあるって。気づいてないの? ヒートのかっこいいって思ってる事って、基本反抗期の男子レベルよ?ミズヒさん、困ってたし。」
「いや、オレはそんなつもりは無いし、そもそもミズヒのために言ったんじゃねえよ! オレがオレのために言ったんだ! アイツらが、人を、ミズヒを良い様に使う事しか考えて無い態度が単に気に入らなかっただけだっつーの!」
ヒートは顔を赤くしながら反論する。
「……そう言う所よ。で、追わないの? そのミズヒさんを。」
「あ、ああ……。……追っても今日は無駄だろ。オレらも今日の宿代だけでも稼ぎに行くか。」
チカは満腹なのか口に会わないのか食べるスピードは遅い。
「そうね、宿代……。じゃ行きますか!」
チカは食べ切れなかったケバブをヒートに押し付ける。
「ん。」
「おう。」
ヒートはチカから食べかけのケバブを受け取る。そして一口、
「……ないな…、ヨーグルトソースは…。」
「でしょ? ケバブはやっぱスパイシーソースじゃないと。」
「は? ホットだろ?」
2個目のケバブを二人で半分ずつ食べ終わると、チカとヒートは街の外に狩りへと出かけた。
ミズヒも狩りに向かいながら考えていた。カンラーが連れてきたあの人達と一緒にまたやり直すべきではないのかと。これがもし、もし本当の本当に最後のチャンスだとしたら?
(……でもまたいい様に使われるだけだったら?)
ミズヒは昔を思い出す。強張った表情、頬と眉間に無意識に力が入る。
(もし、もしも明日また仲間に誘われたら? ―――考えるだけ考えてみるべきだろうか? 話だけでも……。)
ミズヒは少しだけそう思った。しかし根付いた性分はそう変えれる物ではなかった。




