水の僧侶ミズヒと。①【挿絵】
「あーしんどー。……やっぱキツイっスよ、ヒーさん……。」
ひょんな事からパーティを組んだ戦士チカと魔術師ヒートだったが前に進む事は出来ずにいた。前に進もうにもパーティを組んだレベル18のヒートに対しチカのレベルが6と低すぎたからだ。
「しっかりしろチカ!ホラ、あと一戦!」
「もう今日はムリっスわ……。」
今日もチカはヒートと共にレベル上げのために経験値稼ぎをしていた。だがチカのレベルに合わせた敵の経験値はヒートにとって雀の涙程にもならない。かと言って今のチカをヒートのレベルに合わせた狩場に連れて行ってもあっさりと沈むだけだろう。
「やっぱ回復役が居ねーと薬草やポーション代もバカになんねーな。回復出来る僧侶や賢者とか人気職だから中々パーティに入ってくれる奴いねーし。特にオレらみたいな弱小パーティにはな。」
チカにポーションを使いながらヒートはぼやいた。回復をポーションに頼らなければならない金銭的にも悪い効率。
「……行くかチカ、アイツんとこ!」
「アイツ?ああ、そうね……。」
「で、カンラーのとこに来たんだけど。」
チカが悪びれず言う。チカは『クライアンクレット』を使いカンラーの館まで来ていた。チカには特別に事前予約等無しで直接カンラーに会う事を許されていた。
「もー、チカさん? たしかに特別にクライアンクレット渡して困ったらいつでも気軽にいらっしゃいね、とは言ったけどスナック感覚で来ないでよ! この間なんか勝手にポーション持っていくし! 少しはギルドに行くとかして自分たちで探した? 私ギルドの女将でも何でも無いのよ? これでも私一応ウンエイの管理職なんだから他の冒険者とかに知られたら秩序とかがね……。」
「そこを何とか頼むわよ、カンラー♪」
「いい奴いんだろ?」
「……まあ回復する人がないとそろそろきついかなって思ってリスト整理してたらレベル的にも君らにピッタリで紹介しようと思ってた人は居るには居るんだけど……。えーと、はい、この人。」
カンラーは一枚のリストをチカに手渡す。
「お! どんな奴だ?」
ヒートが乗り出す。
「えーと、僧侶で水属性。レベル23のミズヒって人。」
「お! いいじゃねーか! レベルも23あるし。」
「属性もあたしの地とヒートの火にかぶってないしね。」
「よし! 決定だな。こいつ仲間にすんぞ!」
「おー!」
「……まあチカさん達に停滞してる人を冒険に連れ出してくれたら私も仕事減ってうれしいんだけどね。はい、これミズヒさんの家までの地図ね。」
カンラーはチカにその〝ミズヒ〟が住んでる所までの地図を渡す。
「うん、どうも~。」
チカは地図を受け取る。
「じゃあカンラー、ハイ!」
「〝ハイ!〟って、何?」
「いや、このミズヒって人の所まであたしら送ってってよ。」
「そうだな、オレもここ行った事ねーし。カンラーならひとっ飛びだろ? それにレベル低いオレらだけで行ったら相手にされねーかもしれねーしさ。頼むわカンラー。」
「そうね。何せレベル23のヒーラー様だもんね。絶対相手にされないわ~。また引き篭もり冒険者に逆戻りだわあたしら。」
「せっかくオレらやる気出てきたのに! なー?」
「ねー。」
「もう、分かったよ! 連れてきゃいいんでしょ、連れてきゃ! いい? これで最後よ? パーティに回復出来る人が加わったら今後は自分の力で……。」
「OKス♪ ねー、ヒーさん?」
「ああ、もちろんだわ。」
「もう! 本当に分かってるの!?」
カンラーの移動魔法に連れられてチカとヒートはミズヒの元へと向かった。
「ここか?ずいぶんボロアパートだな…」
チカとヒートは郊外の寂れた宿場街に来ていた。ハイドイドラの町。通り過ぎるだけの温泉が少し沸く小さな街。そこの川のほとりの一角にある少しひび割れた灰色のモルタルの壁に茶色い屋根の木造二階建て。その二階の一室、それがミズヒの住むアパートだった。
「どっかの魔術師のボロ小屋よりはマシでしょ?」
「うるせー! 住まわすのやめるぞメガネ。」
「はいはいケンカしない! ……じゃあ紹介はするけど交渉は自分らでしなさいよ?」
「おい~ス。なーチカ?」
「うぃ、おまか~。」
「もう! 本当に大丈夫なの? まあいいや、……ミズヒさ~ん、いる?私、ウンエイのカンラーだけど。」
カンラーは寂れたアパートのミズヒの部屋のドアをノックした。
「………な、なんですん………?」
ドアを狭く開け長い髪をかき上げ部屋から覗き込むように〝ヌッ〟っと出てきた辛気臭そうな二十歳前後の女。手足は華奢だが女性にしては背は高かった。そんな、人間不信でコミュ障の水属性の僧侶、それがミズヒだった。
カンラーに連れられたチカとヒート見るや、
「か、カンラーさん、ま、前にも言いましたけどウチ、だ、誰とも組む気はないし、や、やる事は全部一人でやってますんで………!」
「うん。それは分かるけどやっぱり一人より三人の方が何かと便利だしこの子達やる気はあるしレベルこそ低いけど戦士と魔術師だし。属性も君には無い火と地だし。試しに一日だけ組んでみるのもいいんじゃないかなって、ね?」
「………そ、そんな事言って、ほ、本当は、ぽ、ポーション代浮かせたいだけなんじゃないんですん? そ、その人達……。と、ともかくウチ、だ、誰とも、く、組む気はありませんので………!」
ミズヒはそう言うとドアを閉めてしまった。
あっさりミズヒに拒否されたチカとヒートはカンラーと街の広場にある足湯に来ていた。
「しっかしよ~、何だアイツ?」
「うん、ひねくれてたわね。……まあポーション代浮かせたいのは合ってたけど。」
「まあな。……つーかオメーのせいだろ! ポーション代食ってんのは! 盾、着けれないんならもう少し避けろよ! いずれ前に出して壁にすんだからよ。このボンクラ戦士!」
「うっさいわねー。どーせあたしレベル一桁ですー。クソザコですからー。そう思うんならも少し労われ! 援護しろよ、魔法で!」
「もー! チカさんもヒートさんもやめなさいよ! ……みんな冒険しない冒険者ばっかで胃が痛くなるよ……。」
「……カンラー、アンタ苦労してんのね。」
「ああ、あんなんまで更生させないといけないとは同情すんぞ。」
「……ありがと、分かってくれた? でも君も大概だからね?」
「ハッハー♪ ヒート、言われてやんの。」
「チカの事だろ?」
「君ら両方だよ! とりあえず紹介はしたからね? 後は自分らで何とかしなさいよ。」
「あいあい。分かってますって。で、どうするヒート? ミズヒって人かなり気難しそうだったけど。」
「ああ、でもなチカ、腐っても僧侶だ。戦力には入れるぞ。」
「そうね。使えなかったら捨てりゃいいしね。次の回復役捕まえるまでの繋ぎぐらいにはなるでしょ。」
「そう言うこった。」
「君ら酷いね……。」
「まあそれ程でもあるかな~。で、どうするかだな。……なあ、カンラー。どうしてミズヒってのが一人でいるのか何か知らね?」
「え? さあ、そこまでの経歴は…。私が知ってるのは冒険に出ない、クリア・クラウン取得に意欲的じゃないって人のリストだけだから。」
「そっかー……。」
(そもそも何でアイツがあそこまで拗れてるかだ。オレみたいに周りの奴が先に行っちまったとかか? それとも女特有の、一人だけレベルが上がって仲間はずれにされて、……とかだろうか? どうにかしてアイツの心を溶かす、なんてカッコつけすぎか! いや、所詮オレらは他人同士。他にいい話があれば今を捨てて簡単にいい方へと行く。オレもそうだし、それが人間だ。例え今は仲間でパーティを組んでいてもだ。なら利用してやろうじゃねぇか。腐ってもレベル23の僧侶様だ。手札に加えて利用してやる!)
ヒートは頭をかきむしり、一息つき考えた。
「…じゃあもういいや。後はこっちで何とかしてみるわ。」
「え? ヒート行けんの?」
「ダメ元だろ? ダメならダメでオレらは何も損はしねーしな。」
「…そう、そうね。損はないけど。」
「つーわけでカンラー、ホラ!」
ヒートはカンラーに向け手を出す。
「〝ホラ!〟って、何?」
「ここでの宿代。」
「んもう、そこまで面倒見切れないよ! 私帰る! まだ仕事もあるから!」
そう言い捨てるとカンラーは帰って行った。
「チェッ! 魔術師ジョークだったのになー。」
「ヒート、あんたが言うと冗談に聞こえないのよ。 魔術師要素何も無かったし。で、こっからどうすんの?」
「んー、腹減ったしまずは飯だな。食いながら考えるか。宿も探さねーと。」
「さんせー。おなかペコリンだし。で、何食べる?あたしケバブがいい! 屋台あったし! よし決定! ケバブケバブケバブケバブ!」
「しょうがねーなこのケバブ小娘は。オレには選択肢無しかよ。まあ他にどこも無さそうだしそれでいいけどよ。」
二人はケバブ屋台へ向かった。
「あら、ここチキンケバブなんてあるの? う~ん、どうすっかなー。」
ビーフにするか、チキンにするかと頭を捻るチカに反し、ヒートは全く別の事を考えていた。劣等感、己のふがいなさについてだ。
『劣等感が無ければ、負い目が無ければ人間引き篭もり等はしない。』それがヒートの持論だった。ヒートには少しの自信があった。それは『おだてて自信を付けさせる。』と言う事だ。
(豚もおだてりゃって奴だ。向こうの方がレベルも高いし上手く行くだろ!)
そんな根拠の無い自信がヒートにはあった。しかしミズヒの心中はもっと深刻だった。




