火の魔術師ヒートと。③【挿絵】
―――キワトの森―――。
「いい? 私はここで待ってるから。がんばってね、チカさんにヒートさん。」
カンラーはキワトの森の入り口に陣取った。
「あいあい。行ってきまーす。」
チカは能天気そうに返事を返す。
「がんばってレベルも上げて帰って来るんだよー。」
カンラーは二人を見送る。
「分かってるって! おかんか!」
ヒートは悪態を付きつつもチカを後衛に置き森に入る。
「いいか? 死んだら手間だからな。オレにまかせて後ろで身だけ守ってろよ。」
「うん、よろしく。」
チカはヒートを盾にしながら森を進む。ここはチカが一度挫折したダンジョンだ。足取りも重い。無理も無かった。地属性のチカには植物の魔物は天敵みたいな物だ。その植物系の魔物が大半を占める、それがここキワトの森だった。
敵だ! 『ラグンチュラ』。蜘蛛型のその魔物は二人に襲いかかる。チカは左手にこんぼうを構え戦闘体勢を取る!
「ああ、もう! 毒食らったらやっかいだ! おめーは後ろで身でも守ってろ!」
ヒートがチカを庇うように前衛に立つ。
ラグンチュラは素早いが、これと言って攻撃力は高くない魔物だ。だが動きを封じる糸と毒攻撃は厄介だ。特に序盤では受けた毒を消す手段は街の診療所で治療してもらうか、毒消しと僧侶のスキルぐらいしかない。
ヒートがさらに前に出て炎の魔法でラグンチュラを一気に焼き尽くす。攻略推奨レベル5程度の序盤のダンジョンだ。ヒートにとってここでの魔物はまるで敵では無いだろう。
それに加え、その火の属性は植物や虫系の魔物の前では優位以外の何者でもなかった。
ヒートはチカを守りながら進む。チカも背筋を丸め、身を守りながらヒートに続く。木や草で死角が多い場所だ。不意打ちに警戒しつつ森の中を進む。
早速樹の影から出会い頭に次の魔物に遭遇する。
『胚毒華』だ! 植物の花の魔物で再生能力が高い。胞子を飛ばしての攻撃がチカ達を襲う!
当たれば毒の厄介な胞子をヒートは全て焼き尽くし危なげなく胚毒華もろとも焼き倒した。
「全く神経使うぜ。大丈夫か、チカ?」
「うん。全く。」
チカはヒートが倒した胚毒華から何かを見つけ足元を調べた。
「あれ? これ……。」
「ん? おお! 毒消しじゃねぇか! ラッキーだったな! 持ってろ、持ってろ。」
ありがたかった。ヒートは急な事でここに来るのに毒消しを用意していなかった事に気づいたからだ。チカも金欠で毒消しは買えていなかった。
(これで一回は毒食らっても大丈夫ってわけだ。)
ヒートの緊張がわずかにほぐれる。
「先を急ぐぞ!」
チカとヒートはキワトの森の中を進む。
植物の魔物は機動力は高くは無い物が多い。むしろ鈍重。だが麻痺、毒、混乱、盲目等、こちらを状態異常にする特殊能力は脅威だ。他の魔物と組まれた時は優先的に倒すべき相手になるだろう。
一見貧弱で愚鈍に思えるかもしれない植物の魔物。だが植物は光を浴び、地に根付き、風を利用し、水を蓄える。地、火、水、風、光、闇の6つの属性の内、完全に植物相手に優位に立てる属性は闇の属性とヒートの持つ火の属性しかなかった。それゆえ苦手とする者は意外と多く、厄介な魔物が多い。
チカは格上の相手はヒートに任せ防御を固た。その反面芋虫の魔物モガル等の格下相手には果敢に立ち向かった。少しでも経験値を稼いでおきたかったからだ。
そんなヒートが戦いの中でふと気づく。
「あれ? チカ、お前左利きか? そう言やあさ、お前何で盾付けてないんだ? 戦士だろ? 両手持ちや二刀流でも無いのに……。」
「さあ? 何でか付けれないのよ。それに左利きってわけでもないけど戦いじゃ右手が上手く使えないのよ。武器も盾も装備できるの左手だけだし。まあ盾は攻撃出来なくなるから持った事ないんだけどねー。」
ヒートはチカの右腕が左腕とは違って篭手はおろか、手袋も、何も付けてない事に気づく。
「ふーん。不便なのな。……まあいいや、チカは後衛で身でも守ってろ。ここは昔攻略したし、今のオレならここのボス『害粒樹』なんて炎の呪文で一発よ!」
「おー、頼りにしてるわ。ヨロシク。」
ヒートはチカの右腕を気にも留めず、薄暗い森の中を進んだ。
チカはふと考えていた。この働かない右腕の事を。生活する分には支障はないし戦い以外では自由に動く。実際左手より右手の方が使いやすかった。ただ戦いの中では右手には感覚や感触が無くる。いや感覚も感触もあるのだが何かが、実体が無い。そんな感じだった。
(それに何か忘れてる気がする……。この前までは覚えていた何かを……。)
「おい! ボーっとすんなよ! 油断してたら不意打ちを食らうぜ?」
「お、おー!」
森の中は草原よりずっと敵が多く、強い。そして視界も開けない。チカは気持ちを切り替える。
(今はここを突破する事だけを考えなくちゃ!)
「たしか森の奥までもうすぐだったな…。居るぜ害粒樹が。気ィ抜くなよチカ!」
「うん!」
ヒートに言われチカはこんぼうを握りなおした。
これから始まる初めてのボス戦のために。




