トウカのハンマーを。③【挿絵】
「たしかこっちにウンエイの詰所があるんだ。」
ルティス一行のリーダーのナイトはチカを連れて歩く。
街の外れだ。
「最近悪い奴らが増えてるよな。知ってるかい? この間反逆者が出たそうなんだ。治安が悪くなってるから気を付けないと、な!」
ナイトの合図、そして女賢者のスタン魔法がチカを襲う!
「ぐっ!」
不意打ちの賢者のスタン魔法が決まる。
チカは倒れ動けなくなった!
チカは常態異常に耐性がある物は装備していた。
トウカのくれた指輪、ヴァンゲリングだ。
しかし所詮はまだレベル13の戦士。
戦士特有の低い魔法耐性。
レベル30を超える賢者の魔法の前ではその耐性はあって無いような物だった。
「今だ、ずらかるぞ! もうここには長居は無用だ!」
リーダーのナイトの指示で手馴れた手際でチカを処理する。
「へへへ…! 流石にーさん! ほならな~。光魔のハンマーありがとーなー♪」
ルティスがチカを足蹴にする。
しかしチカはルティスのその足を掴む!
「は…ハンマー返せ……! トウカさんの……。」
チカは光魔のハンマーを盗られ、トウカとの思い出を汚された事が許せなかった。
「低レベルの癖して!」
ルティスの足蹴が何度も何度もチカを襲う!
「おい、遊んでないで行くぞ!」
「はは……、しょうがないなルティスは。」
「イヤよね~。弱いのには強いんだから。」
しかしルティスはさらに蹴る。
チカは倒れた!
気を失ったチカは手を離す。
「舐めたマネしくさって!」
チカが動けなくなるとリーダーに付いて行こうとするルティス。
しかしチカは起き上がる。
何事も無かったかのようにルティスを掴み、押しのける。
「あ! こ、こいつ!」
チカはルティスを転ばせた!
「アハハっ。ダッサ。」
「もう、遊んでるからだよルティスは。」
しかしそんなルティスをからかうメンバーの女賢者、魔法剣士の横を通り越しハンマーを手にしているナイトに近づく。
「何だぁ? やろうってのかぁ? あいにくこのハンマーはもうオレ様のなんだ。」
リーダーのナイトは凄む。
そこへ追いついた二人、騒ぎを聞きつけ追いついたヒートとミズヒだ!
「おいチカ! 危ねぇから無理に追わずにカンラーかウンエイに通報して……、」
ヒートの忠告が終わるより早くチカの右手の一振りでレベル37のナイトが吹き飛ぶ!
一瞬だった。
一撃の拳で鎧は砕け散り、体はくの字に折れ曲がり、弧を描いて宙に舞いう!
地面に叩きつけられ、それでもう動かなくなった。
右腕の一振りで、素手の、たったレベル13の戦士に。
油断してほぼ無防備だったとは言え重装甲の、レベル37のナイトがだ。
「な…! どうなってるんだこりゃあ……!?」
「慌てずに離れた所からやれば大丈夫よ!」
素早く賢者と魔法剣士は戦闘態勢に入る!
リーダーが倒れたからと言って安易に浮き足立たない、吹き飛ばされたのは油断しすぎただけ。
『こちらの方がまだ強い!』
そんな確信と安心感がまだあったからだ。
チカがナイトが手にしていた光魔のハンマーを拾い上げる。
その隙を突き魔法剣士の剛炎剣と、賢者の即死魔法が来る!
もう弱い相手だからと手加減はしない!
窮鼠が猫に噛み付いたからだ。
爆炎、そして黒い死の霧がチカを包む!
だがそれだけ。
チカは頭上に魔力の超高重力を発生させる。
その頭上の黒い渦の中へと魔法はかき消されてしまった。
「なんて奴だ……! 耐性持ちかよ!?」
「かき消されたのよ! もう一度……、」
チカは攻撃してきた二人に両手をかざす。
右手から白い閃光、そして左手からは高重力がその賢者と魔法剣士を包む。
「な…、何だこればッ……!!!」
二人は一瞬で白い結晶になり、砕け、潰れて動かなくなった。
「ふ、フン! こっちはレベル29のシーフや! レベル13の戦士の鈍足や一生追いつけへんで!」
最後の一人になったルティスは一目散に逃げ出した!
「どうなってるんだこりゃあ……?」
ヒートは目を疑う。
ミズヒもそうだった。
「さ、さっきのあの白い光……、あ、あれは光属性の魔法じゃ……?」
「何なんだ、チカ…!」
ヒートはカンラーにもらった自分専用のステータスグラスでチカのステータスをチェックする。
「……嘘だろこんな……。」
「ど、どうしたんですん?」
――チカの属性は地と光の二つのエレメント、レベルは最大の99を指していた――。
「こ、ここまで来りゃあ……、」
レベル29のシーフの素早さだ。
逃げ切るのは余裕と思っていた。
ルティスは逃げ足だけなら絶対の自信を持っていた。
しかし途端に足が重くなる。
足だけではない、体が重い。
―――重力魔法―――。
高重力がルティスの足を止め、ルティスの身体がチカの側へと引き寄せられる。
「嘘やッ……!?」
チカは悠々とルティスを引き寄せる。
そして左手でルティスの喉元を捉えた。
「うグぅ…ッ!」
首を掴み、そのまま軽々と左腕だけでルティスを掴み上げる。
「…あ、アタイが悪かったって……! な、許してんか…。せ、せや! 金……! 持っとる金、半分やるさかい……。」
チカの左腕にさらに力が入りルティスを高らかと持ち上げる。
「う…ウソウソ! 金、全部やるって! …せ、せや、アイテムも…! 何なら装備全部やっても…、いや…、あげるから許して~!!!」
チカはゆっくりとハンマーを置いた。
「ああ…、ヘ…、ヘヘへ…、ど…どうも…、ありがたいこって…、ぐへぇッ!!!??」
そしてルティスが言い終わるより早く、チカの右手はルティスの脇腹を一撃!
歪な形に凹ませた。
一発だった。
「おーい! チカー!!」
「ち、チカさん! こ、これは………!?」
ヒートとミズヒが追いついた時にはもうルティスは落ちていた。
「ど…、どうした……? 何が起きたチカ?」
ヒートは恐る恐るチカに話しかける。
「……つーかよ、本当にチカか?」
動かなくなったルティスの身体を投げ捨てると、振り向き、チカは二人に歩み寄る。
緊張。
そして、
『チカちゃん……、たのんだ…。』
そう言うとチカはそのまま動かなくなり、その場で崩れるように倒れた。
「お、おいチカ!」
「ち、チカさん…!」
咄嗟に二人はチカを抱き支えた。
それから30分ぐらいだろうか?
カンラーがマッダー=ヴァーンと数名のウンエイの兵を従えやって来たのは。
「で、もう一回訊くけど、何があったの?」
カンラーがヒートとミズヒに尋ねる。
「―――いや、さっきも言ったけどオレらも何だかさっぱり……。チカが襲われてたんだ。そこにクッソ強い戦士が来て……、いや、パラディンだったかな? それが来て助けに来ててくれたんだ。どこの誰かは分からないけど……。」
「そ、そ、そうですん……、そ、そんな感じでしたん………。み、見たことも無い……、ひ、人でしたん…………。」
「フム、今の話を要約すると『光属性の何者かの戦士が通りがかってチカを助けた。』と? 嘘ではないな、光属性の魔法を使った形跡がある。ここの地面の白い結晶化……、カンラー殿―――。」
「そうだねー。でもこれ以上捜査しようにもねー。あ、そうだ! 私が君らにあげたステータスグラスあるでしょ? あれで名前とか見てない? あれで見ると記録が残るから誰だったか探せるんだけど……。」
「あ、ああ! そっかー! うっかりしてたわ! あまりにいきなりだったから! 惜しい事したな~! そっかー、ステグラかー! 全く思いつかなかったわ!」
「―――ミズヒさん、あなたも見てないの? ステータスグラスで。」
ヒートの本能がこの事は言っちゃいけないと告げる。
カンラーにばれないよう、足でミズヒの足をつつく。
合図。
ミズヒはそれを汲む。
「え……え、ええ! い、いきなり……、だ、だったんで……、み、身構えててその……、じ、自分の身を……、ま、守るのに精一杯で…………。」
「そう。――で、チカさんは?」
「ああ、こいつ一番最初にやられて伸びてたから何も……。」
「ふーん。そっか、そっかー、いい武器持ってると襲われる時があるからねー。私らも注視するけど個人でも気をつけないとね~。」
「カンラー殿、被害者の身元が判明しました。4人とも荒らしていた形跡がある半盗賊団ですな。我々ウンエイにも数十件、対処依頼が来ています。」
「そっかー。やっぱりねー。よくいるんだよ。魔物を狩らずに、荒らしてる人たちを狩る正義の味方気取りが。多分その自警団気取りの類いだね。そう言うのは私らウンエイに任せてくれればいいのに。……まあ君らに言ってもしょうがないか! じゃあ後の捜査は私らに任せて。」
「ああ…、何も出来ずにスマン……、カンラー。」
「そ、それじゃあ……、う、ウチらはこれで………。」
「うん、気をつけてね~。」
ヒートとミズヒは伸びているチカを連れ、帰って行った。
「―――カンラー殿、あの二人何か隠してるようですが…?」
「うん。分かってる。嘘を付いてるねー。それにね、ステータスグラスで見ていると思うよ? 『何か』を。でもまあいいや、あの二人のステータスグラスはいずれ隙を見て取り替えましょ。」
「……この4人の処遇は? このまま消されますか?」
「うん、ちょっと荒らしてる連中だったしね~、そのまま〝バン!〟と、行きたいけど一応復活させましょ。色々訊きたいし。それにここもずいぶん人が減ったし……。」
「承知しました。」
マッダーはウンエイの兵に指示し、現場を処理させる。
「この世界は絶対に壊させちゃあいけないから。―――ここにいる、みんなのためにも。」
カンラー=セウはゆっくりと空を見上げた。
この偽物の空を。
そして思い出していた。
臨時の二代目船長にさせられ、疲弊し、滅入っていた時に、かけられた言葉。
『―――あなたにこそカウンセリングが必要ね。責任感が強いカウンセラーなのはいいけど、たまには甘えてもいいのよ? みんなに。白衣を着ていない時はね。……でないと参ってしまうわ。この宇宙の中じゃ。私も、あなたも、人間だから。』
────そんな医療主任の言葉を────。




