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トウカのハンマーを。②【挿絵】

 ヒート達はその『ルシア』と名乗るルティスに案内され宿に入る。

 宿は別段何とも無い普通の宿屋だった。

 ヒートはここに決め一部屋取る事にした。


「別に怪しくはねーな、この宿屋。いいんじゃねーか、ここ。新し目だし。」

「そ、そうですね。……あの人は怪しかったですけど。」

 荷物を置き各自のベットを決めていると、部屋のドアをノックされる。

「何だ? はーい!」

 ヒートがドアを開け対応に出る。

「ああ、あんたか。……ルシアだっけか?」

「うん。さっきはどうもなー。……あんなー、アタイ実はなー、今パーティ外れて一人なんよー。ギルドに登録してもレベル12やろ? 反応あらへんし……。で、どや? アタイをあんたらのパーティに入れてくれん? 試しにまず2・3日でええねん。」

(ああそれで手頃なオレ達に近づいたのか。)

 ヒートは思った。

 ヒートはこのままではいけない、このチカの停滞している状態には新しい風が必要と考えたからだ。

「おう。じゃあとりあえず一晩みんなと話し合ってからでいいか?」

 ヒートはその『ルシア』に言う。

「ええよええよ~。おおきに~。」

「チカもミズヒもいいよな?」

「うん、まあ試しになら。」

「え? ええ……、ま、まあ……、ひ、ヒートさんが言うなら…………。」


 半分無関心のチカと明らかに歓迎していないミズヒ。

 しかしこの状況をヒートは何とかしなければならない!

 そんなリーダーとしての責任感が自然と湧いていた。


「ほな、お近づきの印や!」

 ルティスは部屋に入り、持って来た何枚かのピザと酒を差し出す。

「出会いに乾杯やー。奢りやでー! ささ、食ってんか。」

「おお、気が利くじゃねーか。晩飯これでいいか。な、チカ?」

「うん。これでいい。」

「ささ、兄さん。」

「おお、悪いな。」

 『ルシア』はヒートに酒を注ぐ。

 そしてミズヒにも。

「あ……。う、ウチ……、お、お酒……、の、呑めないですん…………。」

「まあミズヒも少しならいけるだろ?」

 人間関係で消極的すぎるミズヒにも、こう言ったパーティ外の人間との交流に少しは慣れさせるのもいい機会だとヒートは思ったからだ。

「じ、じゃあ……、一杯だけ…………。」

 ミズヒはヒートに促され仕方なく付き合う。

 そして一口、

「か、変わった味ですん………。な、何かこう……、ぼ、ぼんやしした味…………??」

「はは、ここらの酒やないからなー。合わん人には少し合わんかもしれんなー。」

「……じゃあ、あたしも呑む。」

 チカは呑みたい気分だった。

「おおう、嬢ちゃんも呑みなー。ほれ、一気や~。」

 チカは注がれた酒を一気に飲み干す。


 チカは忘れたかった。


 ――ヒートやミズヒのように何も覚えてなければどんなに楽だったろうと――。


「ルシアも、ホラ。」

 ヒートはルシアに注ごうとする。

 ―――しかし、

「あら? アタイの分のコップ無いやん! ちょっと下に行っても一個借りてくるわー。適当にやっててやー。」

 そう言うとルティスは部屋を出て行った。

「じゃ、適当に摘まむか。」

「う、ウチ、エビ食べれないんれ……。え、エビが入ってないピザはどれれすん?」

「これ入ってる、そっちのサラミのは入ってないんじゃないの?」

「あ…、さ、サラミ苦手れすん………。」

「ミズヒは好き嫌い多すぎんだよ。ホラ食え、エビ!」

「ちょ! エビはアレルギーですん!」

「ああそうだったな……。しょうがねー、じゃあサラミだけオレのに乗せろ。」

「じゃあお願いしますん。」

「―――ミズヒさ……。」

「ち、チカさん、何れすん………?」

「ヒートと喋る時、ちょっとどもらなくなった? それに小綺麗になった気がする。前はボサボサだった髪とかも……。」

「そ、そんな事ないですん! も、元々こんな、か、感じじゃないですか! ね、ひ、ヒートさん!」

「あ? おお…、そだ……な………………。」

「何よー、もうダウン? ヒートの分も…食………う……………。」

「あ…あれ……? ち、チカさんも……、も………う………………。」



「オイ! チカ! 起きろ!」

 朝、ヒートにチカは叩き起こされる。

「んあ……、は、ハムじゃなくてベーコンがいい……。」

「おい寝ぼけんな! 大変だ、チカ! 無いんだよ! お前のハンマーが無い!」

「んあ…? え…?  え!!!?」


 ―――その朝、宿の部屋からチカの光魔のハンマーは消えていた―――。


「酒に眠り薬…、やられた……! 警戒するべきだった……! ルシアって名前も嘘……、偽名だろうな……。ステータスグラスで見とくべきだった!」

「あ、あの人、こ、ここの宿の客じゃないんですん? も、もしかしたらどこの誰か分かるかも!」

「そうだな! フロント行ってみるか! チカはウンエイに届けてくれ!」

「そ、そうですね……。さ、幸いチカさんは、か、カンラーさんに、れ、連絡無しで、あ、会えますし…………。」

「そうだ、早い方がいい! な、チカ!」

「いや、いい……。」

 チカはウンエイに頼る気は無かった。


 あの赤の戦士だ。

 ウンエイの一員、『マッダー=ヴァーン』。

 だからだ、意地だった。

 それにトウカにも言われていた。

 

『ウンエイのカンラーは信じるな』と。


 トウカを消した者の力は借りたくないと言う意地。

 それにチカにはカンラーの館へと飛べるアイテム、クライアンクレットはもう無かった。

 それどころかステータスグラスさえ、カンラーにもらった物は全てもう何も持ってはいなかったのだ。


「あたしはあたしで探す!」

「あ! チカ! 闇雲に行ったってな!!」

 ヒートが止めるのも聞かずに、チカは単独でその『ルシア』を追った。



 街の酒場に、ルティスは光魔のハンマーを持って来ていた。

「おいおい、やるじゃねぇか。」

 ルティスのパーティのリーダーが言う。

 レベル37のナイトだ。

「ふふふ…。アタイやってなー、やる気になればこんくらいや!」

「こんなのどこで盗ってきたの?」

 派手目な化粧の女賢者が不思議そうに言う。

 レベルは35だ。

「トロそうなんが持っとってな、ちょいとや!」

「ちょいとや! ……ってこれ持ってた奴だろ? 相当なレベルだぞ?」

 太目の男の魔法剣士が心配そうに言う。

 レベルは34だ。

「大丈夫、大丈夫。ちいっこい、レベル20もない戦士やったし。」

「本当かよ? 何でそんなのがこんなの持ってたんだ?」

 不思議そうに魔法剣士は光魔のハンマーを食い入るように見る。

「まあいいじゃねぇか。このハンマーで俺様もパーティも安泰ってわけだ。」

 得意そうにリーダーのナイトが光魔のハンマーを掲げながら言う。

「せや、にーさんにこの武器さえあれば怖いモン無しやで!」

「いいわね~。アタシらにも何か頼むわよ。その腕前でさ。」

「ああ、もちろや! 任せてんか!」

 女賢者に煽てられルティスはいい気になっていた。


「泥棒! 返せ! そのハンマー!!!」


 しかしそこへ追ってきたチカが酒場に飛び込む!


挿絵(By みてみん)


「な、何やアンタ!」

 ルティスは驚く。

 チカが追ってくるとは思ってなかったのだ。

「あらヤダ、付けられてるじゃない。ダッサ!」

「やっぱ下手こいたな、ルティスは……。」

 女賢者と魔法剣士は案の定と言った感じでルティスを見る。

「いや……、これは、その……。」

「返して! そのトウカさんのハンマーは私の……!」

 酒場の注目がチカとそのルティスのパーティに集まる。


(まずいな。こんな街の中だ、ウンエイが来るかもしれない。最近出た反逆者のせいで今のウンエイは殺気立ってる……。取り締まりも厳しい。)


 リーダー格のレベル37のナイトは咄嗟に考えを廻らし、策を立てた。

「お嬢ちゃん、このハンマーはこいつが拾ったって持って来たんだが?」

「え? そ…、そう! ひ、拾ったんや!」

 ルティスはリーダーの言葉に乗る。

「違う! そいつに盗られた!」

 チカは真っ直ぐ指差し、ルティスを睨みつけ指差す。

「アンタ……、いい加減に………!」

 まあ待てとシーフのルティスにそのナイトは手をかざし、静止する。

「そうか……、分かった。それは悪かった。――だけどこれが君の物と言うはっきりとした証拠は? もしかして本当にルティスが拾って来た物なのかもしれない……。俺達にはそれは判断しかねる。――つまり公平に判断するにはここじゃあ証拠が足り無さすぎるんだな。そこでだ! ここじゃ何だし他のお客さんの迷惑にもなる……。だから一旦外へ出よう。そしてこれが本当に君の物なのかウンエイに判断してもらいに行こうじゃないか。―――これが一番だと思うんだが、どうだい?」

「ちょ、そんな……。」

「いいわ、ハッキリさせてやる!」

 慌てるルティスに対し、チカは堂々とそれを受ける。

「よし、それじゃあ行こうか。」

 ナイトを先頭にルティスのパーティメンバー4人全員が酒場を出る。

 それにチカは付いて行く。



 しかしこのパーティは大人しくウンエイに判断を委ねる連中ではなかった。 

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