トウカのハンマーを。①【挿絵.マップ】
修行を終え、ヒートのログハウスへと戻ってきたチカは何もやる気が起きなかった。
脱力、まるで抜け殻…。
「……チカさん、調子悪そうですん……。」
「修行から帰ってずっとあんなだな……。まあメシは食うから大丈夫とは思うが。」
「……燃え尽き症候群ってのでしょうか?」
「何でもいいけどよ、こっちまで気が滅入るぜ! でも働かしとけばその内本調子になるだろ。」
「ヒートさん、どうするんですん?」
「こうすんだよ!」
ヒートは立ち上がり、チカの部屋へと向かう。
「おいチカ! 狩り行くぞ、狩り! 今日のメシ代稼ぎに行くぞ!」
これではいけないとヒートは抜け殻のチカを無理に連れ出す。
今日の食い扶持を稼ぎに行くと言えば居候のチカは断れないだろうと言う判断。
それでヒートはチカを連れ出した。
チカのレベルは現在13、それなりに戦えるようになっていた。
特にチカが持ち帰ったS級の武器、光魔のハンマーは強力だった。
今まで倒せなかった敵も次々と倒して行く。
戦い方も目に見えて上達していた。
道すがら空の魔物、怪鳥『ヒシュルト』が現れた!
チカは鉤爪を交わし、重力魔法を飛ばす!
0.6~7G程の重力だったが鳥のヒシュルトのバランスを崩させるには十分だった。
飛行を維持出来ずヒシュルトは落下。
地上に引きずり下ろしたその敵にチカの光魔のハンマーが極まる!
チカはヒシュルトを倒した。
もうお荷物ではない、前衛の盾役としてはまだ不安定だが物理でのアタッカー能力だけならば魔術師のヒートはもちろん、僧侶のミズヒをも上回っていた。
「ち、チカさん、す、すごいですん! ほ、本当にがんばったんですね……。」
「フン! まあまあだな、レベル13ならこんなもんだろ?」
「うん。まあこんなもん。」
チカはヒートからの煽りに対し、得意気に鼻にかける訳でもなく淡々と平常心を保った返事をする。
当然だ。
チカには成長を一番見て欲しかった人はもう傍にすら居なかったのだから。
(前ならここらで有頂天になるはずなんだがな……。)
そうヒートは思った。
そうなってほしかったから。
「……じゃあ次行くか、次! 夕方まで稼げるだけ稼ぐぞ!」
ヒートは指揮を取り、気を取り直し次に進む。
こういう時は立ち止まってはいけない。
常に動き続けるのだ!
自分の経験と数週間のミズヒとの付き合いでヒートにはそれが分かっていた。
日が西に傾き始めた夕刻、ヒート達は『ドーザリィウィの町』に着いていた。
近くの坑道がダンジョンになってしまった街。
それで宿場街として今に発展して来た街だ。
「思ったより遠くまで来ちまったからな、たまには泊まりで狩るのもいいだろ?」
気分転換にとヒートの提案でここに宿を取ろうと来ていた。
―――ルマティウの隣町―――。
そう、チカがトウカとホーロー山での修行の拠点としてアパートを借り住んでいた街。
最初はチカの修行してた山、ホーロー山に向おうとしていた。
しかしチカはホーロー山へ行くのを嫌がった。
だから代価案で隣町のドーザリィウィに来ていた。
「あー腹減ったな。お、ケバブの屋台あんじゃねーか、どうだチカ、食うか? ケバブ。」
「ん? 別にいい、後で…。」
「……そっか、……じゃあ先に宿だな。どこがいっかな~。」
ヒートはチカに気を使いながら宿屋を探した。
「あー、どないすっかなー…。」
屋台脇でケバブを食べながら言う。
レベル29の風の属性のシーフ『ルティス』だ。
見た目は14~5と言った所か。
染めた髪のツインテールをなびかせて、品は良さそうではない、いわゆる不良と言った面持ちだった。
ルティスは焦っていた。
パーティから解雇されそうになっていた。
そう酒場でリーダーを中心に話をしているのを耳にしたから。
何とか手柄を立て役に立つと思われなければならない!
パーティに自分と言うシーフが居なければと思わせる働きをしなければならない!
―――どうするか―――?
自分にだけ出来て他のメンバーには出来ない働きをする。
ルティスの出した答え、それはシーフの特性を生かした窃盗術有用性の証明。
つまりパーティのために何らかのレアアイテムを盗んで来ればいいのだ。
しかし容易ではない。
いいアイテムは基本的に高レベルの強い魔物が所有してる。
どうにか楽をして最小限の労力で最大限の利益を上げる方法は無いかと考えていた。
「あー腹減ったな。お、ケバブの屋台あんじゃねーか、どうだチカ、食うか? ケバブ。」
「ん? 別にいい、後で…。」
「……そっか、……じゃあ先に宿だな。どこがいっかな~。」
そこで宿屋を探すチカ達を見かける。
ルティスはチカの持つ光魔のハンマーが目に入った。
強い魔物は無理でも相手が人間ならば、隙さえ突けば盗む事は容易に可能だ。
後はウンエイにバレさえしなければいい……。
宿屋を探しているチカ達に、ルティスは話しかける。
チカ達と出会うきっかけを作った。
「なんや、兄ちゃんらこん街初めてか? 宿探しとるんか? ええ宿知っとるで?」
ルティスは声を掛ける。
気さくな人間を演じるのは得意だった。
「何だ、突然? このねーちゃん?」
「や、宿屋の……、よ、呼び込みでしょうか………?」
突然の事でヒートとミズヒは警戒する。
「んなんやないって、親切やないの。アタイが泊まっとる宿でええかー?」
「……何だ、アンタ? 目的は何だ?」
「し、新規さん紹介したらな、次の宿代1割引きになるんやー。それでなー…。」
思ったよりも警戒されている、それを悟ったルティスは咄嗟にそれらしい理由を作る。
少しでも警戒を解き近づくために。
「……変な宿屋じゃなかったら、そこでいいんじゃない?」
チカは言う。
「さすが嬢ちゃん、話が早いやん♪ すっごい武器も持っとるし。さぞかしお強いんやろうなー。尊敬するわー。」
「そんなとこないわ、13だし。」
「へ? 13? レベルが? マジで……?」
「で、オメー誰だ?」
ヒートが聞く。
「ああ、アタイは、ル…、『ルシア』や! レベルは…、12のシーフや! アンタらと同じぐらいやな~。」
ルティスはチカ達を油断させようと嘘をつき、レベルの鯖も読む。
「――で、お付きの、あんたら職業とレベルは?」
「お付きって……、まあいいや。オレはヒート。レベル21の魔術師だ。」
「う、ウチは、ミ、ミズヒですん………。そ、僧侶やってますん………。お、お恥ずかしながら、れ、レベルは23ですん…………。」
「そっかー。よろしくな~。」
愛想を振りまきながら、ルティスは余裕で対処出来る相手と判断。
―――ルティスはチカの光魔のハンマー略奪を決意した―――。




