ウンエイのカンラーの館で。⑤【挿絵】
チカはキワトの森周辺で数日過ごした。
トウカがどうなったのか解らなかったからだ。
―――しかしそれは解っていても信じたくなかっただけの行動―――。
ここでこんな事をしていても状況は何も変わらないし、何も解らない。
ここ数日で変わった事と言えばキワトの森延焼跡を見に来る野次馬と、チカが滞在していたランササの町の掲示板のトウカの手配書が剥がされた事ぐらいだった。
チカは焼けたキワトの森を後にし、トウカと修行したホーロー山のふもとの街、ルマティウに戻って来ていた。
だがトウカの借りたアパートにはすでに別の入居者が入っていた。
チカは行く当てが無くなり、フラフラとヒートの家へと向かった。
「おお~、チカ!生きてたか! 一ヶ月かそこらぶりか? 修行は上手く行ったのかよ? レベル10は行ったか?」
相変わらずの漂々としたヒートが迎える。
「ひ、ヒートさん、チカさんが戻って来たんですん?」
家の中からミズヒの声がする。
「……ミズヒも来てたの?」
「あ……、じ、実はお部屋余ってるからって、や、家賃払うのも何だからって、ひ、一部屋頂いたんですん………。」
「一々呼びに行かなくていいし経済的だろ?」
ヒートは言う。
先ほどまでは気が付かなかったが、庭が手入れされ、家もきれいになっていた。
「と、所で、ひ、一人で大丈夫でしたん?」
「一人?」
「修行だよ。一人で山篭りするって出て行っただろ?」
「一人で修行? 何の事? あ、あたしはトウカさんと二人で……。」
「トウカ? 誰だそれ? ダチか?」
「ち、チカさんの、む、昔のお仲間ですん……?」
「え? あの…、あたし達を鍛えるために仲間になってくれたパラディンのトウカさんだけど……?」
「え? そいつオレらが知ってる奴か?」
「だから! このパーティの4人目の人よ!」
「よ、4人……? う、ウチらずっと、さ、3人でやって来たんじゃないですん………?」
「そのトウカっての誰だ? 一緒に修行してた仲間か?」
「こ、これ……。これ持ってた人……。」
チカはトウカのハンマーを二人に見せる。
「う、嘘……! こ、これ光魔のハンマーじゃないですか……? ど、どうしたんですん?チカさん、こ、こんなのん………。」
「何だそれ? すごいのか?」
「え、ええ……、確かレアリティS、最高位のハンマーですん……。」
「んなもんどうしたんだよ! チカ。」
「も…もらった。トウカさんに……。トウカさんがくれた……。」
「オメー嘘言うなよ、こんなのくれる酔狂な奴いるわけねーだろ! まさか盗って来たんじゃねーだろうな。ウンエイに目を付けられたら……、」
「本当にもらったんだ!!! トウカさんに!!!!!!」
チカの突然の大声に唖然とするヒートとミズヒ。
チカはそのまま家を飛び出した。
チカは一人首都エトスに来ていた。
まさかと思ったからだ。
首都城エトスポリス、そこのトウカの屋敷に急ぐ。
―――しかしそこは空き地になっていた―――。
街の人にチカは「ここにあった家は?」と聞いて回った。
だが誰も知らない。
ずっとそこは空き地だったと言う。
皆、トウカを覚えていないのだ。
『クリア・クラウン付きのパラディンのトウカ』を。
あんなに存在感があって、凛として綺麗で素敵な人だったのに、誰も。
―――トウカは死んだ―――。
いや、死んだかどうかは分からない。
死んだと言うよりは消されたのだ。
この世界から、存在自体を。
チカはフラフラとエトスの街を夢遊病者のように歩いた。
(そう言えば…!)
不意にチカは思い出す。
トウカから〝もしもの時のお金〟を預かっていた事を。
(合流場所が書いてあると言った! そこに居るのかも…!)
チカは袋を高まる鼓動を抑え、焦りつつ、きつく紐で縛られた袋を破るように開けた。
袋を開けたチカは小銭や札の中に紙を見つけた。
雑に四つに折りたたまれた紙。
それを開いた。
紙には走った字でこう書かれていた。
『どうせ赤い奴からも ウンエイからも逃げられない
私は多分ダメだろう』
チカは震える。
後にはこう綴られていた。
『でも安心して チカちゃんは助かるようにするから
あと私のハンマーはチカちゃんにあげる
それと私はわざと死ぬんだからチカちゃんは悪くないから
私の分もヨロシク!』
涙がとめどなく溢れ出す。
トウカはチカを守って、消された。
だが誰にも言えない。
伝えられない。
誰ももうチカ以外はトウカの事は覚えていないのだから。
ウンエイの本部では、カンラーがトウカの転生作業を行っていた。
「カンラー殿、この者をどうされるおつもりで?」
マッダーがカンラーに尋ねる。
そうプログラムされているから。
「う~ん、このまま消去してもいいけどここも人の減りが進んでるからね~。ちゃんと生きてる人は貴重だし。ここの外のエリアに送って新しく転生するようにしとくよ。元のトウカさんの記憶もちゃんと消してからね。」
カンラーは答える。
そうする事で今まで精神の安定を保って来た。
そしてこれからも。
安堵した気持ちを隠しながらカンラーは事務的にトウカの処理を続ける。
「―――そしてもちろん、トウカさんの事はみんなや、チカさんの記憶から消してね……。」




