ウンエイのカンラーの館で。④【挿絵】
森の木々に隠れるチカとトウカ。
トウカはもうすぐウンエイ最強の兵、マッダー=ヴァーンとの戦いになる、逃げ切れる相手ではない事をチカに告げた。
―――トウカよりも強い相手―――。
絶望感がチカを襲う。
それに今度は、場合によってはチカも処分して良いと言う指示はカンラーから受けているだろう。
「――作戦があるの。」
トウカはチカに自分の武器、光魔のハンマーを渡しながら言う。
『光魔のハンマー』、威力はチカが持っていたスチールハンマーの十数倍……。
そもそも威力、レアリティ共に天と地の差がある武器だ。
「それチカちゃんにあげるわ。…………貸すだけだけどね。――で、作戦だけど、それで私を全力で攻撃して来て。」
「そ、そんな事できるわけ……。」
「仲間割れしたって見せかけるのよ、あの赤いのに。シナリオはこう。私の武器を盗ったチカちゃんを私が追いかける。もちろんチカちゃんは赤い奴の方に逃げるのよ。あの赤いマッダーってのに助けを求める感じで。「助けてー!」って……、――上手くお芝居出来るかしら?」
チカは無言でうなずく。
まっすぐこちらを見つめる眼差しと、真一文字に食いしばったチカの口元で、真剣さと緊張感がトウカに伝わる。
「よし、いい子……。マッダーに近づいたら降り返って私を全力で攻撃するの。私は攻撃を受けたフリをして吹っ飛ぶ……。そして倒れる。」
「そ、そんなこと出来ない……!」
トウカはチカの今にも泣きそうな顔を気に掛けないふりをする。
「大丈夫よ。いくらそのハンマーでもチカちゃんじゃ、私にはかすり傷も付けられないから。」
チカの頭を撫でくり回しながらトウカは笑いながら言った。
「それで……、倒れたらどうするの? 攻撃が通じない相手じゃ何も……。」
「倒れてからが勝負! あいつが近づいたら〝コレ〟を使うわ。」
そう言いトウカが取り出したのは『電光の秘石』だった。
高威力の攻撃アイテム。
ダメージは使用者の距離に比例し、相手に近ければ近いほど効果が高く、使用者が光の属性ならば呼応し、威力は倍化する。
「これは光ダメージはもちろんスタン、スリップ、暗闇なんかの状態異常も併発する――。武器を持っていない丸腰の私じゃ、アイツも不用意に近づくわ。そこで近距離でこの電光の秘石をありったけ使う……。倒せはしないけど攻撃は効く、ウンエイはそう言う相手よ。マッダーが動けなくなった所で二人で逃げ切りましょう!」
「うん!」
チカは力強く頷いた。
「あと、いい事? これからはこの世界が作り物って事は信用できない人間には言っちゃダメよ。特にカンラー……。アイツは絶対に信じちゃダメ。アイツは、ウンエイはチカちゃんを監視してるだけ。――最初は憶測だったけど分解してみてはっきりしたわ。あの眼鏡は、ステータスグラスは便利で高性能なのは上辺だけ。本来の目的はチカちゃんの〝本当の記憶〟を消す為の物。だから私はあの眼鏡を取った。取り上げて、チカちゃんに同じ形のメガネをかけさせた。」
「あたしの本当の記憶? 何それ……?」
「さあ? それはチカちゃんがこれから取り戻して行くのよ。自分の力で。」
「……それじゃあ今、あたしのステータスグラスは?」
「そんな物…、とっくにゴミ捨て場よ。」
トウカは笑いながら言う。
ウンエイのカンラーに一矢報いたと言うそんな笑顔。
「親切なんかじゃない。カンラーはチカちゃんに目をかけてるわけでもない。カンラーの前では無知、記憶が無いフリを演じるのよ。でないと私みたいに目を付けられるからね……。―――上手くやんなさいよ~。」
トウカは笑顔を装う。
しかし隠せない緊張感は否でもチカに伝わる。
「あ、そうだ! あとこれも……。」
トウカは思い出したかのように何かをメモし、それをゴールドと一緒に袋につめた。
口をきつく縛り、チカに手渡す。
「……これは?」
「少ないけど何かあった時に使って。万が一はぐれて帰れない…って事もあるだろうし。あ、今開けちゃダメよ。」
「何……、書いたの?」
「………待ち合わせ場所よ。もしもの……、はぐれた時用の。使わなかったらお金は返すのよ? 絶対だからね。」
「うん……。」
チカは袋を受け取りつつ、不安そうに頷いた。
決行の時は来た!
走るチカ、手には光魔のハンマーが握られている。
「待ちなさーーい!! ハンマー泥棒!!!」
それを追うトウカ。
手には密かに電光の秘石が数個が握られている。
「―――助けてー、ウンエイ! ここよ……、反逆者はここよ!!」
チカは叫ぶ!
マッダー=ヴァーンに聞こえるように。
お互いにもう目視で確認出来る距離だ。
マッダー=ヴァーンが現れた!
マッダーがチカ達の方へ迫る。
それを目で確認したチカは踵を返す!
お互いに目で合図、わずかにうなずき微笑むトウカ。
(ちゃんと演技って感づかれないように…!)
チカは全力で光魔のハンマーを振り抜いた!
だがチカの振り抜いたハンマーには手ごたえはない。
しかしトウカは吹き飛ぶ!
チカもだ。
トウカは自分とチカとの間に反転での超重力魔法を掛け、お互いに吹き飛ばされた事を演じたのだ。
「ぐっ!」
吹き飛ばされ、木々の茂みに倒れるチカ。
木々がチカのクッションになった。
よろりとチカは起き上がる。
マッダーは状況がよく飲み込めていない!
予想外の事には動きが止まる、それがウンエイの兵やマッダーの唯一の弱点でもあった。
吹き飛ばされ、動かないトウカの様子をマッダーは窺う。
(成功!? さすがはトウカさん!)
チカは心の中で賛辞を贈る。
「あ……、あの人が、反逆者です!」
チカが恐る恐るマッダーに倒れたトウカを指差す。
「うむ。」
マッダー=ヴァーンが倒れたトウカに近づく。
倒れたトウカの生死確認をするために。
(来る…!)
チカがトウカの電光の秘石に備え身構えた次の瞬間、電光が走る!
閃光と爆発。
それが何度も波状に起こる。
森の木々も閃光に焼かれ、キワトの森の形も変わる!
「うわあああああああ!!!!!!???」
眩い閃光の中でチカは吹き飛ばされる。
爆風で吹き飛ばされたチカは、閃光の中へと消えた―――。
マッダーは予想していた。
『トウカはいつも何かを企んでいる。あの人は、そう言う人だ。注意するように!』
そうカンラーに念を押されていた。
トウカはマッダーが自分に触れるのを感じると、電光の秘石を発動!
第一波。
閃光。
そして爆発!
「やはりな。雌狐のような人間だと聞かされていた……!」
マッダーはトウカから距離を取ろうとする。
しかしトウカは電光の秘石から逃れようとしたマッダーの足を掴んだ!
「……よく言われるわ……。――まあ付き合ってよ。」
ありったけの十数個の電光の秘石。
爆発にも似た眩い閃光。
それが連続しプラズマが広がる。
「うわあああああああ!!!!!!???」
チカも絶叫し、吹き飛ばされる。
森も形が変わる。
しかしそれに屈する事無くマッダーは大剣を抜いた。
(……チカちゃん……。)
―――電光で煌く大剣の切先が真上からトウカを捉えた―――。
「う…、ん……。」
チカは気が付く。
どれぐらい経っただろう?
「トウカさん!」
チカは我に返り起き上がる!
チカは無事だった。
『光魔のハンマー』だ。
光属性への耐性バリアが攻撃に反応し自動的に発生、光属性の攻撃を軽減し、それを防ぐ。
それがチカを守った。
暗く、西も東も分からなくなった黒い森の中、チカは見渡す。
「トウカさーん!!」
チカは捜す。
必死でトウカを。
「パキリ、パキリ、」と小枝を踏みしめる音が聞こえた。
チカはその方へ振り向く!
「……トウカ…さん…!?」
煙の向こうから、ゆらり一つの影が見えた。
「……ご協力、感謝する。」
暗くなった森の中から現れたのは、鎧が半壊したマッダーだった。
マッダーはトウカの戦闘不能を確認し、やっと回復し追いついて来たブラッド・ブロッカー達に動かなくなったトウカを運ばせる。
「え…? あ…、いや…、ああ…。」
(し、失敗……? まさか、そんな……、だってトウカさんなのよ?)
「名前、チカ、ID照合―――、確認。」
マッダー=ヴァーンはチカの恐怖と驚きの入り混じった表情など気にも留めず、自分のステータスグラスで事務的な照合を行った。
「違反者確保のご協力感謝する。後日、違反者確保協力の表彰式を執り行う。日程等はこちらから追って知らせる。――では。」
マッダーはブロッカー達を従え、動かなくなったトウカを連れ、何処かへ転移する。
「ま…、待って!!」
それはチカがクライアンクレットを使った時と同じような消え方であった。
チカは何が起こったか分からず、その場にへたれこんだ。




