ウンエイのカンラーの館で。③【挿絵】
「カンラー、そっちはどう?」
外をあらかた捜したチカはもう捜す所は無いとカンラーを探してカンラーの部屋に入る。
何処からか騒ぎ声が聞こえる。
「何の騒ぎ? カンラー? カンラー!」
外からではない、この部屋の何処からかだ。
チカは耳を澄ます。
声はカンラーの机の下から聞こえた。
「地下室? ……隠し部屋?」
チカはカンラーの机の下で動く床を見つける。
そこから地下へと降りる。
薄暗く、広い部屋。
チカはそこで大怪我のトウカを見つけた!
「!! トウカさん!!」
薄れ行く意識の中、トウカはチカの声で我に帰る!
チカはマッダーとブロッカーの間を駆け抜けトウカを庇う。
「何? チカか!?」
指示外の事が発生しマッダーの動きが止まる!
マッダーはカンラーからチカに対する攻撃や拘束等の指示を受けていなかったからである。
「このっ! このっ!!」
チカは持ってきたトウカの光魔のハンマーを振り回す!
ブロッカー達はトウカを討とうとするがチカがジャマをする。
3体のブロッカー達もマッダーと同じだ。
チカへの攻撃は指示が無い。
―――指示が無い事は出来ない―――。
トウカは、チカの足首にクライアンクレットが戻っている事に気づく。
「チカちゃん……! そのアンクレットで……、」
「え? ああ!」
チカはトウカの言わんとしてる事を理解する。
アンクレットを発動!
倒れたトウカを抱えチカはカンラーの館を脱出、元の世界へと戻って来れた。
「…何で、……来たの?」
「これ。カンラーから返してもらったアンクレットで……。」
「そうじゃない……! どうして追って来たの? この私を……?」
「だって心配だったから。何も言わず居なくなって、このままトウカさんが帰って来ない気がして……。」
「………私はチカちゃんを……、」
その言葉をチカは遮る。
「行こ。いいから。」
「……そのアンクレットは捨てなさい……。きっとそれでウンエイに追われるわ……。」
チカはトウカの言われた通りにアンクレットを捨て、アパートのあるホーロー山のふもとのルマティウの町まで戻って来た。
まずはヒート達と合流し、ミズヒの治癒魔法でトウカを治すのだ。
だがウンエイの追っ手の兵はすでにヒートとミズヒの待つトウカのアパートに陣取っていた。
やむなくチカはヒート達との合流を諦める。
おそらく首都エトスのトウカの屋敷にも追手は居るだろう。
ヒートの家も、ミズヒのアパートもおそらく危険だ。
チカは考えた末、キワトの森の奥に逃げ込んだ。
辺境の、一度来るともう寄る事はない何も無い森。
誰もこんな所にトウカが居るとは思わないだろうとチカは考えたからだ。
チカはトウカを森の奥に隠しキワトの森近くのランササの町に薬を買いに来ていた。
チカが昔住んでた街、土地勘もある。
「これで買えるだけのポーションを……。」
チカは道具屋で今あるありったけの所持金で買えるだけのポーションを買った。
トウカの銀行口座は凍結されている可能性もあるので使えない。
それにお金を下ろそうとしても窓口での本人確認があるので下ろす事は出来ない。
窓口で手続きをすればすぐにウンエイが飛んで来るだろう。
チカが代理で下ろす事も出来ないのだ。
ここはチカの少ない所持金と、トウカの手持ちとで何とか乗り切るしかなかった。
帰り道、ランササの町の掲示板にはトウカの手配書が掲げられていた。
ウンエイの素早い対応。
「反逆者だってさ。」
「何やったんだ?」
「何でもウンエイに乗り込んで暴れたらしいぜ。」
「恐いもの知らずかよ!」
「どうだ? 細かい稼ぎなんて止めて俺らで捕まえてみないか? 賞金もかなりじゃないか!」
「レベル86のパラディンだろ? しかもクリア・クラウン付き、俺らじゃ無理だよ……。」
「でもよ、見つけて通報だけでもかなりの報酬だぜ?」
「クリア・クラウン持ってて何が不満だったんだか……。」
「戦闘ジャンキーだったりして。」
「いや、俺は単に泥棒だと思うな。現実的な所で。ヤバイ武器とかレアアイテムとか……。いくらでもありそうじゃん? ウンエイの家だし。それ狙いだと思うなー。」
トウカに対する人々の勝手な憶測が飛び交う。
(そうじゃない! トウカさんはこの世界の秘密を……。)
だがチカは耐える。
何も知らない人間にそれを言った所で状況が悪くなるだけなのは目に見えていた。
だから耐える。
「……ただいま……。」
「……チカちゃん……。」
チカが帰って来た。
ポーションや途中で採取した薬草、それらを全てトウカに使う。
「……だいぶ楽になったわ。ありがとう。」
しかし全快はしない。
傷が深すぎるのだ。
全力では戦えないし動けないだろう。
だがトウカはチカのために強がる。
回復を魔法に頼り、カンラーの館潜入のためにアイテムの重さを少しでも減らすためポーションはもちろんエリクサーすら持って来なかった事が仇になった。
―――自分のレベルが86と言う過信―――。
それが仇になった。
それと今は限られた逃走資金だ。
今は所持金全額を回復薬に注ぎ込む訳にはいかなかった。
「――どうして……、」
「……カトウ…、カオル……。」
「え?」
「―――それが私の本当の名前、そうカンラーが言ってたわ……。」
「カトウ、カオル……。」
「……向こうの世界で私はお医者様の先生らしいわ。道理でお節介で世話好きな所があるわけね、私は……。」
「ぴ、ぴったりだと思う…。トウカさんに……。」
「―――やっぱりこの世界の外に、本当の世界があるのよ……。カンラーは、チカちゃん、あなたの事を恐れている……。現実の記憶がとても濃いって。だから親身になってる、味方のフリをしている。チカちゃんが話してくれた事は全部本当かもしれないわ。夢の事も、そして曖昧に覚えてる右手の事も……。」
「喋っちゃダメ! 傷に響く……。やっぱりもっと薬を……、」
チカはトウカの喋るのを止めさせようとする。
医療の知識がないチカでも危ないと分かる状態だ。
「い……いいの……。これだけは、今、言いたいの……。だから自信を持って、思い出して! そして忘れないで! 本当の、自分自身の事を……。」
「う、うん……。」
「―――カンラーが言ってたわ……。『船』、『エンジン』、『事故』……。……そしてカンラー自身の『本当の名前』……。―――ここは、エンジンが何らかの事故で壊れた、動かなくなった船の上なのかも……。大昔の地動説の、亀の上の地上みたいな……。」
「そう…、そうね! そうかも……。」
チカはそれは違うと思った。
(そんな亀の上なんかじゃない、あたし達はもっとこう空間的な広い場所で……。)
しかし今はその議論をしてる時ではない。
チカは表面上トウカに賛同する。
議論は無事逃げ切れた時にすればいい。
『いかにウンエイからトウカを逃がすか?』
今のチカにはこの事しか頭になかった。
「……それを隠すカンラー……、何故…? 何故隠すの? 自分の本当の名前も……。 ―――『船』の『エンジン』が『事故』を起こせば操作は出来なくなる、つまり漂流……。漂流すれば乗組員は危険に晒される……。カンラーがしてる事は事故の隠蔽? 証拠隠滅? 隠して、隠し通して逃げる気? ……だとしたらやっぱりカンラーは逃がしちゃいけないのかも……。」
「船……。そうだ! ねえトウカさん、行こ、別の大陸! そこならカンラーの管轄外かもしれないし……。」
「……そうね。それが一番現実的だわ。……ごめんなさい……、私の軽率な行動でチカちゃんまで巻き込んで…。」
「いい、いいよ、トウカさん。」
こうなった以上もうここに長居は無用だった。
脱出ルートを模索する。
夜に紛れて越境もしくは渡航するのだ。
しかしすでにトウカをかくまっているキワトの森にはウンエイの刺客が差し向けられていた。
トウカは気づく。
小枝を折り、歩く、重量感のある足音。
「敵よ…!」
チカがカンラーの館で対峙した真っ赤なゴーレム、『ブラッド・ブロッカー』だ。
剣を携えたブロッカーBが、チカ達に迫る。
「どうしてここが…?」
チカは戸惑う。
トウカの傷は浅くは無い。
カンラーはトウカを治すためにチカが大量に薬を買い込むはずと踏んでいた。
だから迅速に、周辺の道具屋に賞金を出し情報提供を求めていたのだ。
それが見事に的中した。
「チカちゃん逃げて! この赤いゴーレムは……、ウンエイの奴らには何も通用しない! いくら攻撃しても倒す事は出来ない! 倒しても何度も復活して来る!」
トウカは立ち上がり、武器を構える。
チカが大事に抱えて来た光魔のハンマーだ。
チカだけでも逃がそうと言う考え。
しかしチカはトウカの前に出る。
「なら、……これなら!」
チカの重力魔法!
渾身の力を振り絞っての全力の足止めを試みる!
修行の成果をトウカに見せるのだ!
しかし負荷は1G程度。
それも物の数秒――。
ブロッカーBにそれはあっさり弾かれる。
「そ、そんな……!」
騒ぎを聞きつけてかブロッカーBの仲間、弓を射るブロッカーAと、両腕に巨大な鉤爪を持つブロッカーCもやって来た。
3体のブラッド・ブロッカーがチカ達に迫る!
「さ…3体も!?」
戦士で少ない魔力のほとんどを使い果たし、心が折れかかっているチカの前に今度はトウカが出る!
「……がんばったわねチカちゃん……。でも後は私に任せて。」
この赤いゴーレムの強さはレベルにすると50前後とトウカは一戦交えて分かっていた。
だから今のレベル13のチカでは何をしても無駄だろうと言う事も分かっていた。
しかし倒せなくともバラバラにし、時間稼ぎは出来る相手だ。
強固でタフなゴーレム相手にはやはり剣よりハンマーだ。
トウカは光魔のハンマーを重力魔法と合わせ、振るう!
破壊力が頼もしい。
トウカはその大怪我にもかかわらず鮮やかにブラッド・ブロッカー3体全て破壊すると、チカを連れここから離れようとする。
しかし最悪の相手、マッダー=ヴァーンがそこまで迫っていた。
トウカはその気配を感じた。
森の緑の木々の間から目立つ赤い鎧を目視すると咄嗟に姿勢を低くする。
「どうしたの?」
「……一番ヤバイ相手よ……。」
二人は森の奥へと引き返した。




