ウンエイのカンラーの館で。②【挿絵】
「この機械は……?」
トウカはカンラーの部屋の地下室で見つけた機械を調べていた。
薄暗く広い部屋の一角、その机に置かれたいくつもの絵や文字が浮かび上がって光る立て掛けられている横長の額縁が3つ。
そして「コオオオー…」、「プココッ…」と、小さく低い音を立てている机の傍らに置かれたいくつかの四角く黒い鉄の箱。
トウカは小さな穴から中の様子を覗く。
中は何やらが回転し、所々青、赤、緑……と光っていた。
その箱からは何本もコードが出ており、その光る額縁や、壁の中の何処かに繋がっていた。
普段使うラジオや電熱器、蒸気機関等とは全く違う未知の機械、しかしトウカには始めてではない、どこかでこれを見た事がある物、そう感じていた。
光る額縁の前に無数のボタンが並ぶ板がある。
「これで動かすの?」
トウカは机の上の板の一番大きなボタンを押してみる。
すると突然部屋に発生する光の円柱。
「これは……?」
トウカは恐る恐るその光の柱に歩み寄った。
「あら、トウカさん。よく似合うじゃない、その兵士の鎧。もしかしてウンエイに就職希望? でも今はあいにく募集してないんだよね~。」
「!! カンラー……セウ…!」
光の円柱に触れようとしたその時、突然の背後からのカンラーの声にトウカは身構えた!
「いけないな、トウカさん。クリア・クラウンを持つ人が不法侵入なんてしちゃあ……。」
「―――カンラー、これは何?」
トウカはカンラーから目を離さず机の上の機械を指差す。
「ああこれは……、電波機器でね。狭い範囲だけど趣味でラジオ局やってるの。」
「そう……。いいご趣味ね。ご一緒させてほしいわ。」
「でしょ? 一緒にどう?」
「なんて信じるわけ無いでしょ! ―――これが外の世界と繋がる装置かしら?」
「ん~、半分正解。正確には外の人間として、この世界に干渉するための物。だからこれをいくらいじっても外の世界には行けないよ。」
「―――本当かどうかはこっちで勝手に調べさせてもらうわ、カンラー。」
「……そうは行きません。それは弄られたら困るのでね。」
対峙したトウカとカンラーはお互い身構える。
「あ! そう言えば試してみたい物があるんです。まだテストもしてない出来立てでお恥ずかしいんですけどね。ぶっつけ本番ですが、ちょうどいい! 見て頂けますか?」
不意に何かを思い出したカンラーは、手のひら大の3つのサイコロ状の赤いキューブを懐から取り出した。
「それっ!」
放り投げられたその3つの正六面体は巨大化し展開、そして変形。
それは3体の四角い人型のゴーレムに姿を変えた。
全高は3メートルはあろうか?
その色は血のように真っ赤だった――。
「何!? ゴーレム系か……!」
「何? ああ、うーん。そう言えば名前決めてなかったなー。赤い、ブロック兵だから……、『ブラッド・ブロッカー』なんてどうでしょう? ――ありきたりな名前ですかね?」
「ふざけるな!」
トウカは携えた二本の短剣を抜きカンラーを狙う!
「さあ、ブラッド・ブロッカー諸君! あの人をやっつけちゃって!」
カンラーは指示を出す。
その声に反応し3体のブラッド・ブロッカーは臨戦体制、そして行動!
一体目のブラッド・ブロッカーが弓矢で先制攻撃を仕掛けた!
アーチャーらしいが所詮はゴーレム、狙いは荒い。
トウカは、ブラッド・ブロッカーのアーチャー(以後ブロッカーA)の矢を交わしブロッカーAに接近!
矢継ぎ早で撃ち出されるブロッカーAの矢を、ショートソード『アサシンソード』と、短剣『リージスのナイフ』の二刀流が弾き落とす!
そしてブロッカーAにリージスのナイフを首の関節の隙間にねじ込むように突き立てた!
「ドウ!」と倒れ込むブロッカーAを後ろに即、踵を返しカンラーに迫る。
「カンラー! 滞納分の年貢、納めてもらうわ! その首貰い受ける!」
「いけないな、可到先生! あなたは治す方の人間なのに! いや、今は『トウカさん』か……。」
右手に剣を付けた二体目のブラッド・ブロッカーが、カンラーに迫るトウカの前に立ちふさがる。
そしてトウカに魔法剣を放つ。
火炎の魔法剣だ。
しかしゴーレム系らしく動きは鈍い。
トウカは難なくそのブラッド・ブロッカーのブレード(以後ブロッカーB)を交わす。
後ろで「ゴトン…」とブロッカーAが生きてる音がした。
(やっぱりゴーレム相手に短剣だと効きが悪いか……。それなら!)
トウカは重力魔法を唱えた!
10Gを超える魔法の重力はブロッカーBを自重で動けなくさせる。
やはり重いゴーレムに重力魔法は有用だ。
15、18、20G……、トウカは重力を強める。
完全に動けなくなったブロッカーBにトウカは追い討ちの氷の魔法を見舞う!
先ほどの重力で発生したボディのひび割れ、そこから浸透した水気と冷気がブロッカーBの身体を砕いた!
次にトウカの前に、両腕に巨大な爪を持ったブラッド・ブロッカーがカンラーを守るように格闘戦を挑んで来た。
両腕の爪がトウカを襲う!
だがトウカは、すでに先に戦った二体のブラッド・ブロッカーで大体の特性は理解していた。
(体感でこのゴーレムのレベルは50前後。硬く、重く、動きは鈍い……。何ら代わり映えしないゴーレムの特性そのまま。武装は違うけど対処法は同じ! カンラーが繰り出した物だから、何かがあると思ってはいたけど……。――いや、油断は禁物!)
トウカはアサシンソードで小手を取り、ブラッド・ブロッカーのクロー(以後ブロッカーC)を弾く!
さらなる弱点を探るためにトウカは、製品テストをするかのごとくブロッカーCに魔法を放つ。
火、水、地、風、そして光の魔法……。
火はかき消され、風の魔法が特に効いた。
――風の属性は水を吹き飛ばす。
水は細かい雨粒となり、水の雫は空気中に霧と溶ける。――
(属性は水? ならば!)
トウカの疾風魔法がブロッカーCを襲う!
ブロッカーCは一撃で吹き飛ばされ、動かなくなった。
(これなら…!)
辺り一帯に疾風魔法を放つ。
タフなゴーレムに止めを刺すのだ!
しかし効いているのはブロッカーCのみ。
ブロッカーA・Bには疾風が半減されているように見えた。
(このゴーレム、属性が全部違う? 剣と弓持ちは火か風属性かしら? 厄介だわ…。)
それでもレベル86の魔力だ。馬力で押し切りる!
トウカはブラッド・ブロッカーを倒した。
「―――並の冒険者ならやれてたかもね。それでもまあまあの出来じゃないかしら、カンラー=セウ。」
バラバラのブロッカー達をを横目に、トウカはカンラーに近づきながら言う。
「フム……。命令は良く聞く…、か――。間に合わせでAIはここの兵士の流用データのままだったから動きはまだまだだけどこれなら及第点かな。レベル50台だし。―――元の人格を部分開放して戦闘回数もこなして、もっと調整すれば……。」
「カンラー、覚悟!」
トウカは駆ける!
カンラーとの間合いを一気に詰め、有無を言わせぬトウカの攻撃がカンラーに炸裂する。
レベル86の、パラディンの重火力の二刀流だ!
空を裂き、強靭に、電光石火でカンラーの身体を切り刻み、一瞬で喉笛にナイフを突き立てた!
―――しかし何事も無かったかのようにカンラーはトウカに語りかけて来た―――。
「いやー、まいった、まいった。流石は医療主任の『可到 香』先生だ。何でも手際良く効率的に事を進める、相変わらず要領の良い人だ。現実でも、このゲームでも。降参ですよ。いや―――、今はパラディンのトウカさんでしたね。」
手ごたえはあった。が、その喉笛に付き立てたナイフを押し退けカンラー=セウは再生する。
「何! どう言う…!?」
「すいませんね。可到先生のレベルがいくら高くても我々ウンエイには攻撃その物が効かないんです。現実ではないこの世界では、そうプログラムしてあるから。例えこちらのレベルが1だとしても倒す事は出来ないようになってるんですよ。―――そしてこんな事も出来ます。」
カンラーは自分の喉元から引き抜いたトウカのリージスのナイフを握り締め、何かを念じるかのように力を込める……、すると朽ちた!
一瞬。
美しい玉鋼色の刀身が色赤黒く、あっと言う間に。
ナイフと言っても攻撃力三桁、S級のナイフがだ!
「何!? こんな…」
「装備破壊……、とでも言いましょうか。当然こんな事も出来ます。」
カンラーはトウカの鎧に触れる。
レベル3~40程のウンエイの兵への支給品とは言え、高強度で高耐性のA級の赤い鎧、その『モンザアーマー』がナイフと同じように朽ちた。
「くそっ…!」
残ったアサシンソードを手に身構え、カンラーを再び切り刻もうとした次の瞬間、背後からの不意の剣がトウカを貫く!
「ぐうっ…!!」
――背後から胸を貫かれ、トウカは崩れた――。
「ご無事ですか、カンラー殿。」
「もう、過保護だねー、マッダーさんは。来なくて良いって言ったのに……。――まあいいけど。」
「ぐっ…、くそっ……!」
トウカは回復魔法を使おうとする。
「おっと!」
カンラーはトウカの行動を予測し、机の上のボタンがたくさんある機械をいじり始めた。
カタカタと音を立てボタンを急がしそうに押す。
「よし!……これでトウカさんは回復魔法は使えませんよ。」
トウカは何をされたか分からなかった。
だがトウカの回復魔法はかき消される。
「魔力が……、呪文が魔法にならない……?」
「回復以外の魔法は使えますから、どうぞご自由に。」
カンラーは言う。
気が付くと先程倒したはずのゴーレムも再生されつつあった。
起き上がるブロッカーA、B、C。
ブロッカーCがその鉤爪でトウカを持ち上げる。
「可到先生……。実は私、あなたの事はあまり好きではなかったんですよ、残念ながら……。私も人間ですから。」
「………カンラー……セウ……!」
「―――何処まで思い出されましたか? 可到香先生。」
「カトウ……カオル……? さっきから……誰の……事………?」
「あれ? そこまでは記憶は戻ってらっしゃらない? この船やエンジン事故の事は? ………私のあっちでの名前は?」
「……船? ……エンジン? ……事故? カンラーのあっちでの名前? な、何の事……?」
「あー何だ、放っておいても問題ないレベルでしたね。ただ意識が高いってだけって感じの。ま、この世界で変な団体立ち上げられて教祖様になられても困るのでいずれは処分させてもらうつもりでしたけど。」
「―――カンラー……、あなたの目的は何?」
「目的も何も、私はこの世界を平和に維持したいだけ。――終わりまでね――。可到先生、あなただけなら放置していても問題は無いみたいでした。しかしチカさんに悪影響が出ては困ります。偶発的とは言えやはり出遭わせるべきではなかった。――チカさんは現実世界の記憶が濃い。ヒートさんやミズヒさんみたいな一般人と違ってね。あなたはチカさんと一緒にいると危険だ! ……ここから消えてもらいます……。」
「……ち、チカちゃんが……、憶えている……、げ、現実…世界って……?」
カンラーはそれには答えずトウカに背を向けた。
「じゃ、悪いけど後は頼むよマッダーさん。私はトウカさんが開けちゃった穴、チェックして塞いで来なくっちゃ。あ、そうだ! このブラッド・ブロッカーくん達の育成も兼ねてトウカさんとはブロッカーくん達だけで戦わせてみてあげて。マッダーさんはトウカさんを逃がさないようにするだけでいいから手出し無用、ね? その場でトウカさんがデッド状態になるのを見届けるだけでいいから。後は帰ってから私がやるから。」
「はっ、お任せを。」
「―――チカさんを連れて来るまでもなかったな……。チカさんにはトウカさんは見つからなかったって私から話しておくよ。じゃ、後はよろしく~。」
「かしこまりました。」
「ち、チカちゃんが…来てるの……?」
「ああ、チカさんならご心配なく。後でヒートさん達の所にでも帰しておきますので。――チカさんからあなたの記憶や形跡は消してね……。」
カンラーはそう言うと光る円柱を通り何処かへと消えて行った。
「か、カンラー……ッ! ま、待て……ッ!!」
トウカにはカンラーを追う余力も、立ち上がる力さえももう残されてはいなかった。
マッダーと3体のブロッカーがトウカに迫る。
力が入らない身体と薄れる意識の中で、トウカは自分の事は半ば諦めかけていた。
しかしただ一つ、この館に連れて来られているチカの事だけがトウカの気がかりになっていた。




