ウンエイのカンラーの館で。①【挿絵.マップ】
次の日、チカが目覚めるとトウカの姿は何処にも無かった。
あったのはトウカの使っていた光魔のハンマーとチカに向けた短い手紙だけ。
手紙にはこう書かれてあった。
<チカちゃんへ
クライアンクレットはもらっていく。代わりに私のハンマーあげる。
トウカ>
そう短く一文だけ。
チカは手紙を握り締め、ヒートの家へと急いだ。
「お? 何だチカか、久しぶりだな。朝っぱらからどうした? 修行は終わったのか? それともアイツから逃げて来たのかよ?」
「それ…、所じゃない……。」
息を切らせながらチカはトウカの手紙をヒートに見せる。
「『クライアンクレットはもらってく』? 何だこりゃあ?」
「朝起きたらこの書置きだけあって……、トウカさんが居なくなってて……、カンラーのとこに行くアンクレットも無くなってて……、」
「何!? つまりアイテム持ち逃げされたってわけか!」
ミズヒにも知らせようとヒートはチカを連れ、ミズヒの住むハイドイドラの街へと急いだ。
「こ、これは……?」
「な? あいつはこんな事する奴だと思ってたんだ。どんな手段で伸し上がったんだか。」
「トウカさんはそんな事しない!!」
チカはヒートに怒る。
「でもなー、現に……、」
「こ、これカンラーさんに、し、知らせたんですん?」
「……ううん、知らせようにもアンクレット無いし、こっちからカンラーには会えないし、どうする事も……。」
「じゃあウンエイに泥棒として通報するしかねーんじゃねぇか?」
「それじゃあトウカさんはどうなるの!?」
「そりゃあ普通に捕まって処分……、って形になんだろうな。」
「それはダメ!!」
「そうは言ってもだなー……。」
「トウカさんはそんな事する人じゃないから!!」
「い、一応ウンエイには、い、言うだけは、い、言った方がいいんじゃないですん?と、トウカさんの、ゆ、行方も、わ、分からなくなってるんですし………。」
チカは渋々ヒートとミズヒに連れられて、ミズヒの住むハイドイドラの街にあるウンエイの出張所へと向かった。
その頃カンラーの館では大変な事が起こっていた。
トウカはカンラーの館の潜入に成功していた。単独。
建物内では取り回しの悪いハンマーを捨て、武器は取り回しの良い短剣を装備していた。
盾も捨ててのショートソード『アサシンソード』と、短剣『リージスのナイフ』の二刀流。
破壊力は劣るがその分軽く、速い。
短い剣は正面切って戦闘になるとは限らない潜入活動では最適だった。
―――もしかしたら発見されず、最後まで突き進めるかもしれない―――。
トウカはカンラーの館に来ると同時にクライアンクレットを外し、屋敷裏の木の枝に
隠した。
アンクレットに追尾機能がある事を警戒したからだ。
不意にウンエイの兵に出くわす!
庭仕事か何かをしていたのだろう。
完全に先制を取ったトウカは、迷わずアサシンソードで兵を切り裂いた!
「使えるわ…、ちょっとベタだけど。」
トウカはその兵の身包みを剥ぎ、赤い鎧を身にまとう。
ウンエイの兵士の格好だ。
そして身包みを剥いだ兵と着て来た防具を植え込みに捨てた。
潜入には上々過ぎる出だし。
それから音も無く館に潜入し、この世界の外に繋がるであろう〝何か〟を捜す。
だがそれが何かは分からない、全く闇雲な特攻行為だった。
―――約5分後―――、
「チカさーん、来たんじゃないの? 屋敷の中は私の部屋以外は勝手にうろつかないでって前にも……。」
カンラーは自室のドアを開け、廊下に出て玄関へ向かう。
カンラーはクライアンクレットを使いチカが来たと思い込んでいた。
昨日トウカとそう話をしたから。だから部屋から出るのが遅くなった。
前日トウカがカンラーに仕込んで誘発させた油断が見事に決まっていた。
「チカさーん。居るんでしょー? リスト出来てるよー。」
カンラーはチカが何かイタズラでもしていると思い込んでいた。
以前にもポーション等を勝手に持って行かれた事があったからだ。
だがそれは一気に払拭される。
ウンエイの兵の一人倒され、屋敷の裏の植え込みに誰かの防具ごと投げ捨てられていたからだ!
その近くでクライアンクレットも発見された。
(これはチカさんの? まさか、だとしたら……!)
「記憶が戻ったのか……!」
カンラーは館に警報を出す。
『侵入者を捕らえろ!』
前代未聞だった。
館の中、そして外で、マッダー=ヴァーンを先頭にウンエイの兵が出撃する。
(感づかれたようね……。さて、どうしたものかしら……。)
屋根の上に隠れながらトウカは考えていた。
一通り屋敷を探ったがそれらしき部屋も設備も何処にも無かった。
(地下室や隠し部屋が何処かにあるはずだ。大事な物、見られて困る物、私なら何処に隠す? 一番安心出来る場所……、それはやはり自分では目や手が届き、他人には届きにくい場所、つまり自分の部屋……。)
トウカはカンラーが部屋から慌しく出るのを確認すると、無人のカンラーの自室に潜入、探索を始めた。
屋敷全体が騒がしくなっているのも幸運だった。
雑音がトウカの立てる音を掻き消す。
本棚、壁、引き出し、ベット、全てを探る。が、それらしき物は見当たらなかった。
(ここでもないの?)
焦る気持ちを抑え冷静になる。
(――絶対に人には知られたくない秘密、私なら何処に隠す――?)
トウカはカンラーの椅子を退け、机の下を探る。
違和感。
手の感覚で床に空洞があると感じる。蓋がしてあると分かった。
トウカは地下に続く入り口を見つけた。
「これが…、そうなの……?」
トウカはそこに乗る。
「ガシュウ…!」と言う音と振動と共に床が下がる。
「きゃっ?」
覚悟をしていたトウカも突然の事で思わず声も出る。
体感で10メートルは降りただろうか?
上下する床を降りたそこには、見たことも無い機械があった。
一方チカ達はトウカの事をウンエイに届け出ていた。
「み、見つかるといいですね……。と、トウカさんも……、ち、チカさんの、く、クライアンクレットも…………。」
「どうだか。レア物みたいだったからな。チカのあのアンクレット。パラディンじゃなくアイテムハンターだったりして。」
「だったら! このハンマー、置いていくわけないもん!」
チカの腕には自分のスチールハンマーを置き、抱えて持って来たトウカの光魔のハンマーが大事に抱きかかえられていた。
「もう、ヒートさん!」
ミズヒがヒートを小突く。
「何だよ、冗談じゃねーか……。」
「ち、チカさん、い、一旦、と、トウカさんと住んでるアパートに、か、帰った方がいいんじゃないですん? な、何か、れ、連絡あるかもだし………。」
「そうする……。」
目を真っ赤にし今にも泣きそうなチカは、ヒートとミズヒに付き添われ、ルマティウのトウカとのアパートに戻って来ていた。
「あ! チカさん! 居た居た!」
アパート前でチカを待っていたカンラーは、チカを見つけ駆け寄る。
「カンラー!」
「チカさん! これ…、チカさんの?」
カンラーはクライアンクレットをチカに見せる。
「そう! それあたしの! どこにあったの?」
「私の家の庭に。……そっか、チカさんじゃない、それにヒートさんやミズヒさんでもないとすれば………、」
「やっぱトウカだろ? そうか! アイツ、カンラーの家に泥棒に……、」
「そんな事、トウカさんはしないもん!! 泥棒なんか…。」
ヒートに突っかかるチカの様子をカンラーは伺う。
(チカさんの記憶が戻っている様子も無い。ステータスグラスが効いてるはず。――とするとトウカさんの記憶が……!?)
カンラーに案が浮かぶ。
チカを利用し、トウカを屋敷内から誘い出すのだ!
兵士にチカを襲わせる。そうなれば否でもトウカは出て来なければならない……。
「───チカさん、付いて来て!トウカさんを捜そう!」
「うん!」
「おい、オレらは? ……ってお呼びじゃねーか。」
「君達はここに残ってトウカさんが戻って来たら連絡ちょうだい! ウンエイの出張所から直通で私に連絡が行くようにしとくから!」
「ああ、分かった!」
「お、お気をつけて……!」
カンラーはチカを連れ館に戻った。
館は騒然とし、カンラーの部下の赤い鎧のウンエイの兵達が闊歩し、トウカを捜索していた。
(トウカさんは、ここで何を……?)
無意識にトウカの残した光魔のハンマーを抱く腕に力が入る。
カンラーの帰りを待っていたリーダーのマッダー=ヴァーンは、巨大な体躯で主に駆け寄る。
(カンラー殿。あの部屋に侵入形跡が……。)
マッダーはチカが居るのを気にかけ、小声でカンラーの耳元に告げる。
(そう、やっぱり狙いは………。)
「チカさん! 屋敷の中は我々に任せて外の方をみんなとお願い出来るかな? トウカさんが遠くに行っちゃったり、ここで迷子になったら帰って来れなくなるかもしれないから。」
「まかせて! おーい! トウカさーん!」
チカはウンエイの兵に交じって大声でトウカを捜す。
季節や時間すら分からない緑と赤紫色の空の下、チカはト必死になってトウカを捜した。




