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光のパラディントウカと。⑤【挿絵】

 二人は夕食を済ませると、アパートに帰って荷物を置き、夜の勉強会の前に湯葉へと赴く。

 夜の時間は大体を魔法の勉強に割いていた。

 魔法は戦士のチカでも味方から掛けられたり、敵から受けたりと、その知識があるに越した事は無いからだ。

 トウカはチカとここに住むまで温泉は入った事はあるが、公共の湯葉、つまり銭湯初めてだった。

 人前で裸になる事と不特定多数の人間が浸かる湯にトウカは抵抗があったからだ。

 だからせめてできるだけ早い時間に行く。


「チカちゃん、右手、まだダメなの?」

 トウカがチカの右手を湯船の中でマッサージしながら言う。

「うん、まだ……。」

「チカちゃん、そろそろ本格的に右手を使わない戦い方を考えないとね……。」


 トウカは最初、チカの事を単なる不器用な子かと思っていたが、そうではないらしい。

 チカの右手は普通に動くし、感覚も感触もある。物を食べる時の箸やスプーン等を持つ手も、ペンを握って文字を書く時も右手だ。

 しかし、戦闘になると全く使えなかった。

 なので左手で武器を持ち、右手で魔法を放つ――、等と言った事は出来ないし、武器を握れば盾も持てなかった。

 戦いでは何をするにも全て左手。右側が丸々隙になる。

 足を使う武術家や、盾が必要ではないシーフ、呪文に特化した魔術師等、チカの職を変えるのも一つの手では? 等と考えつつチカの右手を揉んでいると、既視感がトウカを襲う。


(前にも誰かの右手を……、いや、チカちゃんの右手をこうしていた気がする。でもどこで……?)


「トウカさん。」

「あ! な…、なぁに?」

 突然チカに呼ばれトウカは我に帰る。

「頭、洗ってくるね。」

「ああ、そうね。私も……。」


挿絵(By みてみん)


 湯浴み、髪を洗いつつトウカは思い出せない何かを思い出そうとしていた。

 全く思い出せない昔あったはずの何かを。



 夜、電灯が照らす銭湯の帰り道、決まって二人は手を繋ぐ。チカの左手、トウカの右手。

 喋りながらのこの帰路が二人には何とも言えず心地よく、好きな時間だった。


「今日は属性における魔法効力の割合と、明日から戦う小竜の魔物『ドラレー』の勉強をしましょ。」

「えー。魔物はそうでもないけど魔法は苦手ー。」

「そうは行かないわ。知る事は喜び。知れば知るほど世界は広がる、やれる事も増える。チカちゃんには地の魔法はもちろん、簡単な水の魔法の基本ぐらいは出来るようになってもらうわ。」

「あたし、戦士なのにー…。」

「戦士でも魔法は出来る事に越した事は無いわ。それに重力魔法は使えたでしょ? 平気よ。それに戦士で今は魔法は使わなくても、使えなくても。将来パラディンになった時に絶対に役に立つから。」


 チカは将来、トウカと同じパラディンになる事をトウカに伝えていた。同じ道ゆえ、トウカも自然と力が入る。

 常春のこの世界の夜風が火照った身体に心地よかった。



 夜は基本、魔法の勉強。インプットの時間。これから寝るまでだ。

 魔法の力を高めるのは、知識と集中力。

 魔法の効力を知り、理解する事。そして理解した事をいかに早く、的確かつ正確に呪文でアウトプット出来るかだ。

 魔法だけではない。

 道具も、武具も、そして魔物に対してもだ。

 感覚だけの行動ではいずれ行き詰る。理解し、仕組みを知るのだ。

 それが結局は一番の近道になる事をトウカは良く知っていた。


 『知る事は喜び、無知は罪。』


 それがトウカの考えの基本で、チカに対する教示でもある。



「えーと…、火の威力が2倍で、水とはお互いに繋がり合って1/2になって、いい効果は1・5倍になって、風は1/4っと……。」


 頭を掻き毟り、行き詰る。

 チカは頭で覚えるのは苦手なタイプだった。元々感覚で覚えるタイプ。

 インプットとアウトプットを繰り返す学習スタイルのトウカに対し、まずはとりあえず動いて失敗をし、解決策を模索するトライ&エラー型。

 つまりトウカが電化製品等の説明書をしっかり読むタイプだとしたら説明書は読まないタイプ、それがチカだった。


挿絵(By みてみん)


「あー、メガネ外そっと。」

 チカは勉強する時はよく眼鏡を外す。

 遠くの物は見えないが、近くの物は見える、いわゆる近視だとトウカは思っていた。

 だからチカの眼鏡は特に気にも留めなかった。

「……トウカさんもこれ掛けてみる?」

 眼鏡を外したチカを見るトウカの視線にチカが気付き、トウカに言う。

「いいわよ、眼鏡なんて。」

「ああ、これメガネじゃないから。」

「その眼鏡、眼鏡じゃないって伊達眼鏡って事?」

「あれ? トウカさんには言ってなかったっけ? これ、メガネに見えるけどメガネじゃないの。カンラーからもらったの。ステータスグラスって言って相手のレベルも分かるし、麻痺や混乱耐性もあるし、能力も上がるし、けっこう便利なんだよ。」

「カンラーから……? ちょっと貸して。」


 〝カンラーから〟と言う言葉に眉をしかめる。本能的に何か仕掛けがあると感じた。

 トウカがウンエイのカンラーを良く思っていなかったのもある。どこか生理的に受け付けないのだ。


 ステータスグラスをいじり、チカに使い方を教わる。

 レンズを通しチカを見る。『レベル11、名前・チカ、属性・地、……』たしかにその他諸々のステータスが丸見えだった。

 魔物のステータスも計れるらしい。それで強い敵との危険な戦闘も回避出来ると言うのだ。


「なるほど……、よく出来てるわ。」

「でしょ? けっこう便利に……、」

「ねえチカちゃん、これ私にちょうだい。代わりに何でも買ってあげるから。」

 トウカはチカの眼鏡、ステータスグラスを手にしながら言った。

「たしかにいいアイテムで便利だけど、チカちゃんにはまだ必要ないんじゃないかしら? たしかに視覚や精神への耐性とかは大事だけど、他の人の事を気にする時期じゃあまだないわね……。それに人の事を自由に覗き見れるって言うのは、これからのあなたに何もプラスにはならないわ。」

「――でもそれカンラーからもらった物だし。貴重だから手放すなって言われてるし……。」

「……じゃあこうしましょう、チカちゃんがレベルが20になるまで私が預かる。それまでは同じような眼鏡で過ごすのは?」

「……ん。……じゃあそれで……。」

 チカはトウカにそこまで言われると断れなかった。トウカに絶対の信頼を寄せていたからだ。

「――今日はこのぐらいにして明日は朝から、首都のエトスまで行きましょう。」

「え? 何しに?」

「買物よ。」

「買物?」

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