光のパラディントウカと。④【挿絵.マップ】
―――七日目が終わろうとしていた―――。
この一週間で、チカのレベルは11にまで上がっていた。
ハンマーによる力任せだけではない、地の属性、〝重力〟を生かした戦い方をトウカはチカにやらせる。
チカはトウカの指導で、地属性を生かした簡単な重力魔法を使えるまでになっていた。
そのチカの重力魔法は短い時間でわずか0.5G程だったが、この山で最弱の鳥の魔物、グライディラーならば空から引き摺り下ろし、チカ一人で倒せるまでになっていた。
戦士と言う職業に陥りがちなフィジカルだけに偏ってはいない、インテリジェンスな部分も鍛える。それが後の上級職になった時に生きるのをトウカは知っていたからだ。
チカは今では翼竜の魔物、『プラテス』を相手にしていた。グライディラーより1ランク上の空の魔物。
『不利なハンマーで上空の敵を倒す!』
これが後にハンマーで地上の敵と戦う時にも生きる。空中戦をマスターするのだ。
トウカは重力魔法をチカの頭上に発生させるように唱えた。3Gと言った所か。
チカはトウカが発生させた魔法の重力に向かってジャンプする。
「たーーー!」
チカは飛んだ。しかし一直線な読まれやすい動き、だが最初の内はそれでいい。
(磁石に引っぱられてるみたい……。)
その空に引っぱられる感覚にチカはまだ慣れない。
敵の、プラテスのいる高さを超えてしまう。まだ感覚が掴めていないジャンプに力が入りすぎたのだ。
「あ! やっば……、」
慌ててチカはハンマーを振るうが当たらず、攻撃は空を切り、そのまま地面へと落下する。
「力みすぎよ! チカちゃん!」
トウカが地上でチカを受け止める。
「……でもいいわよ、その調子!」
「は、はい!」
チカが体勢を立て直し、敵に向い再び走る! 一生懸命なチカをトウカは横目で見る。
(私にもあんな頃があったわ。……もう少し要領は良かったけれど。)
チカはトウカに回復されつつ戦う。信頼しているトウカのおかげで無理も無茶も自由に出来ていた。
ヒートやミズヒのように、クリア・クラウンを持ったレベル86のトウカの前だからと肩に力は入っていない、リラックスした、けれど緊張している最もいい状態。
(動きが軽やかね、心が安定している。……チカちゃんは気づいているかしら?)
しかしチカは、地に足が着いてない状態での重力魔法は全くおぼつかなかった。
足場の無い空中では敵に上手く重力魔法が定まらない。
無理も無かった。今のチカでは空の敵にハンマーすら満足に当てられないのだ。
(でもやっぱり重力魔法と同時に攻撃はまだ無理ね……。)
ハッと気づく。トウカは自分の悪い癖が出たと思った。自分に出来るからとチカにやらせようとしてた事に気づく。
「―――いけないわ……。」
自分に言い聞かす。
「は?」
「いいえ、何でも……。チカちゃん! 今はまだ重力魔法とのハンマーの同時攻撃は地上の敵だけに使って、宙での戦いにはまだ使わない方がいいわね……。今は丁寧に、空の敵には武器攻撃を当てる事だけを考えて、初心、忘れない感じでね。」
「はい!」
素直な、一生懸命なチカがトウカには心地いい。
チカは飛ぶ。トウカの重力魔法で頭上の魔物を捉えられるように。
数刻後、日が山に陰る。
「今日はこれで終わりにしましょう。チカちゃん、よく観ててね。移動で重力魔法を3回、攻撃で1回、合計4回使うわ。」
トウカが飛ぶ!
頭上に重力を発生させ、消す。――と、同時に別の進行方向に発生させては消し、発生させてはその方向へと飛ぶ。
トリッキーな動き、そして速い!
チカと違って直線的な動きではない、慣性も地上の引力も利用しての孤を描く。
あっという間に慌てるプラテスの頭上を捕らえると、プラテスとハンマーの間に高めの重力を発生させる。
チカの手本になるようにと一応加減はする。それでも10G。
トウカのハンマーの軌道上に引き付けられるプラテスに、高重力のハンマーの一撃が炸裂する!
足の着かない宙でナイフを振るうようにハンマーが素早く走り、プラテスは吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
プラテスを倒した。
(羽の無い鳥みたい…。)
宙を舞うトウカを見てチカは素直にそう思った。トウカは鮮やかに地上に着地する。
「今日はここまでにしましょう。」
「はい!」
チカとトウカはハンマーを手に、山を下りた。
下りながらチカは思った。
(いつかあたしにも出来るようになる日が来るのだろうか? トウカさんみたいに。)
と。
トウカが今ハンマーを使ってるのは、チカがハンマー使いだった事もある。
トウカは、ハンマーしか使えないと言う訳ではなかった。全ての武器を一通り扱える。
どちらかと言えば剣や槍の方が得意だった。実際トウカの光の属性は、剣や弓、槍等との方が相性が良く、逆にハンマーとは相性が悪い。
だからハンマー用にと苦手な地の技も多少は身につけていた。
地だけではない、相反する闇属性の魔法以外は初歩的な物ならば火、水、地、風と一通りは習得していた。
トウカは自分が出来ない事は他人には強要しない、そんな主義だった。
それとトウカには『使いづらい装備を使いこなす!』そんな所に喜びを見出す趣味もあった。
ダメと言われる物ほど何とかしたくなる、そんな性分――。
「そろそろプラテスより少し強いドラレーやレスノイを相手にしてみましょうか。」
トウカはもうそろそろ戦おうとしている魔物、小型のドラゴン『ドラレー』や翼竜『レスノイ』の事を話しつつ、トウカの借りたアパートのあるホーロー山のふもとの街『ルマティウ』に戻って来た。
チカと二人でトウカは一週間前からここで暮らしている。
六畳程の広さの一部屋、それが二人の場所。一々自宅に戻るのは非効率だからだ。
「もう少し探せばもっといい所あるんじゃない?」
「ここでいいです。」
そんな感じで二人の仮の家は軽く決まった。
下が道具屋等が入ってる店舗で、二階がアパートになってる、その二階の一室。二人が寝に帰るだけの部屋。
「ずっと宿屋じゃ休まらないでしょ? 予定じゃここでひと月過ごすんだし。」
と、トウカがチカ用に借りた部屋だった。
「もっと高い部屋で、ちゃんとした部屋が良いんじゃない? 遠慮はしなくていわ。」
そうチカには言ったがトウカに悪いと思ったのだろう。貧乏性のチカはここに決めた。この町で最低ランクより3番目ぐらいの家賃のアパート。
それでもチカが前に住んで居た始まりの街、ランササのアパートの4・5畳程の寂れた部屋よりはずっと立派だった。
一緒に住もうと言い出したのはチカの方からだった。
トウカは自分と一緒ではチカの気が休まらないと思っていた。だから別に自分用に部屋を借りようとしていた。
「どうせ寝に帰るだけなんだし。」
そんなチカの提案で、ひと月だけの予定だが二人は六畳一間に住んでいる。不便な暮らしが昔を思い出し、トウカには懐かしかった。
「先にごはん! ごはん!」
チカの足が早歩きになる。街まで帰ってくると決まってアパートに戻らず、そのまま食堂へと向かう。一直線。
「はいはい。」
連れられるトウカ。いつもの大衆食堂に入る。
「今日もカレー? もっと違うのや、高いの頼んでもいいのよ?」
「いや、これがいいの。カレー最高!」
もぐもぐとしながらチカは言う。
「そう、ならいいんだけど……。」
トウカも今日はチカと一緒のカレーを食べる。本格的ではない、いかにも食堂と言った味だが、あまりに連日美味しそうにチカがを食べるのでトウカも釣られて注文した。
「今度、修行が終わったら首都にあるおいしいカレーのお店に連れてってあげるわ。私も一回しか行った事しかないんだけど……。何てお店だったかしら。……たしかインドルとか言ったかしら?」
「本格的!? どんなのがあるの?」
「インドカレーって言うか、そんな感じのよ。キーマカレーとか。タピオカとかもあったわね。黒いツブツブが入った飲み物……、私が飲んだのはヨーグルト味だったわ。」
「他には!?」
「え? 私はそんなにカレーに詳しくないから分からないけど……、普通の辛さでもけっこう辛いって感じかしら。」
予想以上に食いつくチカにトウカは若干引き気味になる。
「ナンは?」
「ああ、ナンもあったわね。私は食べなかったけど……。」
「フー♪ 本格的ィ! 楽しみ! 約束! 絶対!」
「…じゃあ約束ね。」
チカの無邪気な笑顔がトウカに向けられる。
トウカは気付いていなかった。
何時からかトウカはチカの事を〝チカさん〟から〝チカちゃん〟と呼ぶようになっていた事に。
何時からそう呼んでたの忘れてしまったが、いつの間にか自然にだった。
光が地を照らすように、地が光を受け止めるように、自然に。




