光のパラディントウカと。③【挿絵】
チカとトウカの修行は続いていた。
「たー!」
チカはヒートとミズヒの事は一旦は忘れようとトウカの指導の下、集中し上空の敵を相手にハンマーを振るっていた。
「おーい! チカさん、トウカさん、がんばってる?」
「あ、カンラー! うん、もうレベルは8になったわ。」
「おー、チカさんがんばったねー。その意気だよ。で、トウカさんのレベルは、……って上がってるわけないか。」
「そりゃあ86だからね。もうそう簡単には上がらないわ。で、カンラー、何しに来たの?」
「いや何、近くまで用事で来たからついでにね。はい、チカさん、これ差し入れのポーション。疲れてるだろうし。」
「おー、ありがたい! 早速使っていい?」
「どうぞどうぞ。……ところで山のふもとでヒートさんとミズヒさんに会ったんだけど、聞いたよ。パーティから外れたって。……トウカさん、何かあったの?」
「別に。付いて来れない人がパーティを出て行っただけ。よくある事だわ。」
「うーん、でもトウカさんと違ってあの二人まだレベル20前後だし、チカさんばかりじゃなくって、もう少しやさしくあの二人にも指導を……。」
「私はチカさんだけをひいきにはして居ないわ。それにレベルの均一化はパーティを強くするための近道よ。それに私は自分に出来ない事は人にはやらせない。」
「うん、でもみんな仲良く……。」
カンラーは言うが、トウカにはクリア・クラウン取得までに培った確固とした持論があった。
悪く言えば石頭の頑固者……。それ故に理論詰めで論破しなければ違う考えは聞き入れないだろう。トウカはそう言う人間だった。
カンラーはそんなトウカが昔から少し苦手だった。
「さ、チカさん。十分休んだでしょ? そろそろ再開するわよ。」
「はい、師匠! それじゃカンラー、あたし修行に戻るわ。ポーションありがと。」
「あ、そうね。それじゃ私もこれで失礼するよ。邪魔したね。修行、がんばってね。」
そう言うとカンラーは帰って行った。
「……ところでチカちゃん、私の事は師匠じゃなくトウカでいいわ。」
「はい! トウカ師匠!」
チカは懐いた犬みたいに真っ直ぐトウカを見つめる。
「……まあいいけど。」
トウカはチカのそれがくすぐったかった。口元が僅かに緩んだ。
カンラーは山を降りながら考えていた。ヒートとミズヒのレベルの事をだ。
「……しょうがない。あの二人には私からレベルアップのプレゼントを差し入れしてあげようかな。」
カンラーが念じると銀色の金属の泡の形の魔物が出現した。
「頼んだよ『メタルホップ』くん。悪いけど倒されて来てね。」
カンラーはメタルホップに命じる。メタルホップはヒートとミズヒの居る方へと素早く駆けて行った。
「―――メタルホップ、すぐに逃げるけど大量の経験値の持ち主……。ちょっと硬いけど今のヒートさんとミズヒさんなら大丈夫でしょ。―――レベルが上がらない人はこの世界にはいらないから。」
カンラーは自らが解き放ったメタルホップを目で追っていた。
トウカの元から出て行ったヒートとミズヒは夕方、街へと続く道を歩いていた。
「―――で、どうするよ? ミズヒはこれから……。」
ヒートは重い口を開く。
「う、ウチは、い、一応は、ひ、ヒートさんと………。」
「ん!?」
「ど、どうしましたん…?」
「あ、あれ…! メタルホップじゃねえのか?」
「あ! ほ、本当ですん!ど、どうして、こ、こんな所に………?」
『メタルホップ』。ホイップ状の銀色の魔物で、経験値が異様に高い事で有名だ。一匹倒すだけでレベルが一気に上がる程の。
しかし倒す事はもちろん、遭う事もまれな幻の魔物である。
しかもすぐに逃走するので倒す事が出来る可能性は低い。それに加え魔法は一切効かず、物理防御力も極めて高い。攻略法は殴り倒すしかなかった。
それゆえに魔法を主とするヒートとミズヒには相性が最悪の魔物だった。
「ど、どうせ、に、逃げられますん………。」
日頃消極的なミズヒも、無意識に胸の鼓動は早くなる。
「ダメ元じゃねぇか! ミズヒ、行くぞ!」
弱気になるミズヒをヒートは叱咤し、メタルホップに向かい駆ける!
「あ! ま、待ってん……!」
特攻! ヒートはロッドで殴る! 不意打ちの成功。
メタルホップが吹っ飛ぶ!
「行け! ミズヒ!!」
「は…はいん!」
レベルが上がらないコンプレックスもあるのだろう。いつもは消極的なミズヒも、流石に莫大な経験値の魔物を前に積極的に動く!
ミズヒのメイスがメタルホップに命中!
「あ、当たったん………!」
「よし! いいぞ!」
ヒートがミズヒに飛ばされたメタルホップの前に回り込む!
メタルホップ得意の炎の魔法攻撃がヒートに当たる!
しかしヒートは怯まない。
炎の攻撃は火の属性のヒートには相殺され威力は半減される。それにメタルホップの魔法攻撃力も物理攻撃力もそう高くは無かった。
後衛が主体の魔術師や僧侶でも余裕で耐えられる程だ。
「おりゃあッ!」
ヒートはロッドで突く! 振り下ろしてては当たらないと思ったからだ。命中!
(―――事が上手すぎる―――。)
ヒートは感づく。当たる攻撃。逃げないメタルホップ。
誰かがお膳立てしてくれているような不自然な接待感を感じた。
しかし目の前の大量の経験値を前に攻撃を止めるわけにはいかない!
「今だ! 行け! ミズヒ!」
「は、はいッ!!!」
ミズヒの攻撃がメタルホップを捉える!
ミズヒ渾身のメイスの一撃がメタルホップを吹き飛ばす!
叩きつけられ、倒れるメタルホップ。銀色に輝いていた体は錆び、そして動かなくなった。
二人は協力して、ヒートはメタルホップを倒した。
「や、やりましたん!」
「お、おう……!」
ミズヒが喜ぶ中、ヒートはスッキリしていなかった。
(――-こんなに上手く行くはずが無い。メタルホップはもっと素早く、慎重な魔物だ。狩ってくださいとばかりにこんな道すがらの草原に居る事があるか? 誰かが差し向けた可能性は? 差し向けた? 誰が、何の為に……?)
元々性根が根暗なヒートはネガティブな考えが頭に廻る。
(いや、考えすぎだ。これまでいい事が無かったから、運の良い事に疑心暗鬼になってるだけだ。)
負の考えになってるヒートは自分にそう言い聞かせると、ふと気づく。
「! まあ…、じゃ、行くか!」
ヒートはその場から逃げるように先を急ごうとする。
「あ………!」
ミズヒがヒートに気づく。ステータスグラスを覗く。
「あ、上がってますん……。ひ、ヒートさん、れ、レベルが、い、一気に、18から、に、21に…………。」
「あ、ああ、本当だ……。いや~、夢中で気づかなかったわ……。気付かなかった、全然……。」
ヒートは演技とも言えない下手な演技で、レベルアップが出来ていないミズヒをごまかす。
「い、いいんですん……。き、気を使わなくても………。」
「い、いや、気なんか使ってねーよ。本当、本当に!」
「……う、ウチ、お、思ったんですけど、ち、チカさんが、も、戻ってくるまでは、ぱ、パーティは、か、解散はしない方が、い、いいと思うんですん……。ち、チカさん、か、帰るとこ、あ、新しく作らなきゃだし、ま、また3人で、ぼ、冒険できればって………。ま、前居たパーティより、う、ウチも、か、回復ばかり、ま、任されるより、た、楽しいですし…………。」
「ん、そうか?」
(戻ってくるか分かんねーだろ、チカはトウカに懐いてるからな。)
ヒートはそれを飲み込んだ。言えなかった。やっと希望を持って出てきたミズヒには酷だろうから。
「ああ。そうかもな! じゃ、こっちも修行しながらチカの修行が終わるひと月は待ってやるか! 追い抜かれたらカッコ悪いもんな。」
「は、はい!」
「――それより腹へったな、どっかで何か食うか?」
「あ、はい。う、ウチ、ひ、久しぶりに、け、ケバブ食べたいですん。よ、ヨーグルトソースのん………。」
「えー、ホットソースだろ? 辛くねーとよ、ケバブは。」
チカが戻って来るか、それは分からない。しかし元々パーティの中心となり、2人を巡り会わせたのはチカだ。
だからではない。2人ははひと月は待ってみる事にした。
太陽の光が遠くの山に消える中、二人はお互いの帰路を急いだ。
――カンラーは一部始終を見ていた――。
「ヒートさんはレベルアップ、問題なし……っと。ミズヒさんは……、……ここまで上がらないとやっぱり疑わざるをえないねー。―――ここに意識だけ残された死人のレベルは上がらないから。」
「カンラー殿、ミズヒと言う者、処分しますか?」
カンラーの傍らに付き添うウンエイの赤い騎士、マッダー=ヴァーンは大剣に手をかけた。
「まあまあマッダーさん、ミズヒさんはもう少し様子を見ましょ。それにあの人ならほっといても問題ないし。」
「はっ。」
マッダー=ヴァーンは剣を収める。
「それよりも注視しなきゃいけないのはチカさんだよ? 今はステータスグラスの力で現実の記憶を抑えてるけど、いつチカさんが起点になってみんなの現実の記憶が戻るか分からないからねー。それまでにもっと完璧なプロテクトを完成させなくちゃ。ちょっと忙しくなっちゃうかな~?」
おどけつつカンラーはマッダーに話す。
心を持たないただの無機質なデータの人形に、誰にも言えない事を打ち明けるかのように。
そして思い出していた。
4つある内のエンジンの3つが吹き飛び、もうどうする事も出来なくなって宙を漂うだけの運命になった日の事を。
それで死んだ仲間の事や、それを苦に自ら命を絶った仲間の事も。




