光のパラディントウカと。②【挿絵】
トウカがチカ達のパーティに入ってから二日目が経っていた。
「ミズヒさん、回復は早くやればいいってものじゃないわ! タイミングを読んで!」
「ご、ごめんなさいん………。」
ここは『ホーロー山』。そこにある天空の遺跡。
ここら一帯で地属性のチカの修行に一番適した場所、それがこの山だ。
ここでトウカとパーティを組んだチカ、ヒート、ミズヒは、トウカの指導の下、修行を行っていた。
トウカの最終目標、『この世界を出る!』と言う目的を達成しようにも自分以外のパーティのレベルが7、18、23、と低すぎたからだ。
特にチカが問題だった。
レベル7と言う低さは明らかにヒートとミズヒの足を引っぱっていた。
「ヒートくんは遅い! 魔術師の補助魔法は速攻で! いかに早く味方を有利に、敵を不利にさせられるかよ!」
トウカの叱咤が響く。
「……んな事言ったってよ、呪文の詠唱には時間がかかるもんだぜ?」
ヒートはトウカに聞こえないよう小声で悪態をつく。
「その詠唱が長いのよ!」
「は、はあ、どうもトウカさん……。ど、努力はするけどよ……。」
トウカは厳しかった。
当然だ、レベル86から見れば上級職にも就けないレベル30も満たない者の戦い方は、行動、スペック、全てがむず痒い。
トウカはその気持ちを抑え指導する。
「たー!」
トウカに買い与えられたチカのブロンズハンマーが宙を切る。攻撃が外れた!
反撃が来る、即座だ。
「ぐぅッ…!」
体当たり攻撃を受けよろめくチカ。
相手は『グライディラー』。鳥の魔物では最弱レベルだが、レベル7のチカにはまだ危険な相手であった。
「ち、チカさん!」
ミズヒの回復魔法、詠唱。
「遅い!」
それよりも早く、トウカの光の回復魔法がチカに届く。
「ぐあっ…!」
次の瞬間グライディラーの攻撃がチカに炸裂する。
「ミズヒさん、今のはダメ。危なかったわよ!」
「す、すいません………。」
弓やブーメラン、槍などと違い、ハンマーでは分が悪い相手、それが空中の敵。
それに加え威力こそ高いが、ただでさえモーションが大きく、初速が遅い。言わば玄人好みの武器、それがハンマーだ。
最初の弱く小さい、中型犬程の大きさの地上を這うような敵にならば振り下ろしているだけで良かっただろう。しかし、いずれそうは行かなくなる。
その前に力任せの上から下に叩きつけるだけの単調な使い方を矯正しなければならない。
それには素早く宙を舞う、上空の風の魔物が最適だった。
――風は大地を育み、大地は風を受け止める――。
空にいる者は地上の重力には絶対に勝てない。それゆえ風属性の攻撃は、地の属性には効きにくい。
属性を生かせず、何も出来ない今のレベルのチカには辛いが、本来地属性は空の魔物には強いのだ。
それとトウカは、チカにブロンズハンマーとブロンズの防具一式を買い与えていた。
トウカはレベルに見合わない、身の丈以上の良すぎる武器防具は決して買い与えなかった。
チカだけではない。トウカの財力ならば3人の装備を一新、一気に戦力アップも可能だろう。だがレベルに不相応な武器や防具を手にすると、そこに装備に頼った驕りや隙が生まれる。
さらにトウカは、チカ以外の、ヒートとミズヒによる敵への直接攻撃を許さなかった。二人を徹底的に魔法でのサポートに回させる。
今までのチカ達の戦い方はヒートとミズヒが前衛で、二人がチカを守る形で戦って来た。弱い仲間を守りながら戦う。パーティとしては正攻法で正解だ。
しかしそれではチカの成長が遅いのだ。
レベルの低い者が、レベルの高い者の側で行動を共にし、その力に引っぱられて弱い者が力を伸ばす形もある。だが今のチカはその域にすら達していなかった。今のチカではヒートとすらも、レベルに差が有り過ぎたからだ。
レベルは、装備の差を抜きにすれば5も違うと勝負にはならない。それはすなわち仲間同士からすれば足手まといになる事を意味する。
―――ならばどうするか―――?
それにはまず、『3人のレベルが低い内にパーティ内のレベルを均一化する。』
それが一番の近道だった。一見遠回りに思えるかもしれないが、それによりステータス外のステータス、『仲間との連携力』も高まる。
『まずチカのレベルを15程度にする!』それが当面の目標だった。
ゴッ!!
「あ、当たった!」
チカのブロンズハンマーがグライディラーの一匹を捕らえた! それは地面に落下する。
「い、今だ!」
チカはチャンスとばかりに落としたグライディラーにとどめを刺そうと駆け寄る。
「ダメよ! 浮かれちゃあ!」
トウカがチカの背後から来るグライディラーを蹴散らす。
「あ……!」
「敵が多い時は一匹だけを見ない! さ、早くそこの魔物にトドメ刺しなさい。」
「は、はい!」
チカのハンマーが弱ったグライディラーを倒す。
「よし、このぐらいでいいでしょ。ヒートくん!」
「やっとお許しかよ!」
ヒートは得意の火炎魔法で残ったグライディラー達を殲滅。
グライディラーを倒した。
「ふー、手間かかったなー。」
「お、お疲れ様ですん………。」
「ヒートくん、ちょっと。」
だがトウカは誉めない。
「は? なんスか?」
「ヒートくん、敵の弱点に合わせて雷魔法で倒すようにって言ったわよね?」
「あー、スンマセン。いきなり声を掛けられたもんで、つい……。」
「ヒートくんは火の属性だから火の魔法が一番強いし、使いやすいんだろうけど、でもそれじゃあダメ。相手に合わせて使える属性を変える癖を付けるの。でないと、いざ火に耐性がある相手に不覚を取るわよ。」
「は、はあ……。」
(んだよ! 倒したからいいじゃねぇか。)
ヒートは不満を溜めていた。しかしそれはヒートだけではなかった。
「そんな、今まで一緒にやってきたのに……。」
午後、日が西に傾き始めた山道でチカはトウカから去って行こうとするヒートとミズヒの前に立ちふさがっていた。
「……悪く思うなよチカ、オレはお前みたいにあいつの事好きじゃあないんだ。」
「ご、ごめんなさいチカさん……。う、ウチもあの人には、つ、付いて行けないん……。」
ヒートの考えは変わらない。ミズヒも同じだった。
「つーわけだ。オレらはオレらでやるからよ。また縁があったらどっかで会おうや。じゃあな。」
「そ、それでは………。」
「ま、待って!」
「ほっときなさい! やる気の無い者は!」
トウカがチカに向け叫ぶ。
「! ――ああ、そうさせてもらうぜ。クリア・クラウン様よ!」
ヒートはトウカを睨み言う。
「ただこれだけは覚えておきなさい! そんなんじゃクリア・クラウンは手に出来ないし、いずれあなた達の方がチカさんの足手まといになるわ!」
「クリア・クラウン持ちだからって偉そうに……!」
「クリア・クラウン持ちだから言えるのよ。」
「ど、どうも……。お、お世話になりましたん………。」
ミズヒは少しでもこの場を和らげようと言う。
「いいんだよ、ミズヒ! あんなのに頭なんか下げんな!」
「ま、待って! ヒート! ミズヒ!」
ヒートとミズヒは、チカを背にホーロー山を降りて行く。
「さあ、チカさん。充分に休んだでしょう? 続きをやるわよ。」
「で、でも……。」
「……いずれ私も居なくなるわ。あなたの前から。今はそれまでに独り立ち出来るぐらいになる事だけを考えなさい。独り立ちすれば人は寄って来るし、またあの二人にも遭えるはずよ。」
トウカはチカを自分なりになだめる。
トウカは我ながら下手だと思った。こう言う所なのだろう。人から頼られても慕われない所は。
―――-クリア・クラウンを持っていても―――。
ヒートとミズヒはそのホーロー山を降りる途中、カンラーに出会った。
「あら、君らどうしたの? 今日の修行はもうおしまい?」
「カンラー? お前こそどうしたんだよ?」
「いや、君らがこの山で修行してるって聞いたからね。差し入れのポーションと激励に。……ところでチカさんとトウカさんは?」
「さあ、二人でがんばってんだろ?」
ヒートはホーロー山にある遺跡の方を親指で指しながら言う。
「え? 君らはどうしたの?」
「どうしたもこうしたも、やってらんねーよ! あのクソ女! クリア・クラウン持ちだからって指示がうるさいのなんの。だからパーティから外れてきたんだ!」
「う、ウチも……。ちょ、ちょっと、あ、あの人とは、あ、合わなかったのんで………。」
「え? じゃあチカさんは?」
「ああ、チカならトウカと一緒だぜ。あいつによく懐いてるからな。オレらと違ってあのクリア・クラウン持ちに気に入られてるし。まだグライディラー相手に戦ってんじゃねーの? 行けば分かるだろ。じゃあな、チカによろしく。」
「そ、それじゃあ……。う、ウチも………。」
「あ、ちょっと! ヒートさん! ミズヒさん!」
ヒートとミズヒの二人は、ホーロー山とカンラーを後に、自分たちの家に帰って行った。
「もう! 二人とも勝手なんだから! ヒートさんもミズヒさんもレベル上がってなかったみたいだし……。」
カンラーはぼやきながら、ヒートとミズヒと別れた。
そして修行中のチカとトウカが居るホーロー山の山道を遺跡に向け歩いて行った。




