水の僧侶ミズヒと。⑥【挿絵】
「いやー、良かったよ。チカさんもヒートさんも無事で。どっかに消えちゃってたらどうしようかと思ってたんだよ。いやー、本当心配した! ヒートさん、一人で砂漠横断とかけっこう無茶したそうじゃない。」
街に無事戻って来たチカ達をカンラーは安堵し迎えた。
「まあな。けっこう頑張ったかな? 成せば成るだ。」
「いや、あんまり誉めては無いけど……。まあいいや、お疲れさん。」
得意気なヒートをカンラーは話半分に受け流す。
「元はヒートのせいじゃん。ミズヒの先回りしようなんて言わなかったらこんな事にはならなかったんだけど!」
「チカが弱すぎるからだろが。このポーション泥棒!」
「ま、まあいいじゃないですか……。ぶ、無事、か、帰って来れたんですし……。あ…、こ、コエーストさんもどうも、お、お疲れ様ですん……。せ、背負って頂いて、あ、ありがとうございましたん………。」
「うむ。」
「……結局こいつ何もしなかったな。」
「そんな事はない。自分はミズヒをしっかり警護した。その証拠に自分はミズヒを背負い、ここまで戻って来た。」
「ねえ、さっきから気になってるんだけど誰? この鎧の人。」
「ああ、カンラーがオレらを捜すために雇った傭兵なんだと。レベル35のディフェンダーナイトだっけか?」
「ウム、そうだ。」
「ふーん。」
チカはそのミスリスの鎧のコエーストを見上げる。チカは大きいなとしかその時は思わなかった。
「居るだけだったけどな。」
ヒートは、コエーストが全く戦わなかったのが相変わらず面白くなかった。
「まあまあ、用心に越した事はないでしょ? 何が起こっても対処出来るようにするのが私らウンエイの仕事だし。」
カンラーがなだめる。
「あ~、オレも居るだけの楽な仕事してーな。」
「出たー、ニート根性~。」
「うるせー、借金王。」
「あ、あのん……。う、ウチ……、こ、これで、し、失礼しますん………。」
突然ミズヒは別れを切り出す。
「あ、ちょっと!」
チカが呼び止める。
「え? 行くのかよ?」
ヒートも止める。
「あー、居た居た~。」
「おーい、ミズヒー。」
ミズヒの元へ、かつてのミズヒの仲間だった三人組がまた訪ねて来た。
「あのさぁ、私らクリア・クラウンまであと一歩なんだよね~。でもレベルがひと月も上がらなくてさあ~。」
「レベル上げに付き合ってくれるだけでいいから。ミズヒがクリア・クラウン取る時になったら私ら協力するから! 絶対。」
「クリア・クラウン取得まであと一歩なんよ~。ね、おねがい。」
クリア・クラウン取得までの必要なレベルを稼ぐ、そのために必要なミズヒのヒール能力。
ミズヒを薬箱代わりとして当てにして言っているのは明確だった。
クリア・クラウンを取得すればあっさりとミズヒを切るだろう。
ヒートにはそれが分かっ
た。ヒートでなくとも分かる事だろう。
ヒートは、ミズヒの前に立とうとする。
『今のミズヒは、自分たちのパーティメンバーである。』そう宣言するのだ。
―――例え嘘でも―――。
しかしそこで一歩前に立ちはだかったは、ヒートではなかった。
「う、ウチはもう……、あ、あなた達とは……。い、今は……、こ、こっちの人達と、く、組んでますんで!」
ミズヒはヒートらに目配せをする。
―――その場しのぎの嘘―――。
ヒートは驚きを隠しうなづいた。嘘に乗る事にしたからだ。
「ああ、まあそう言う事なんで悪いがな……。」
ヒートは言う。ミズヒの気持ちを、意思を汲む。
「えー、ミズヒ~。そんな低レベルなのと組むより絶対私らとの方がいいって~。」
「いいじゃん。行こうよ~。」
「で、でも、せ、先約ですん………。」
「じゃあ断っちゃえば? ミズヒが言えなかったら私らがアレに言ったげるよ? パーティ辞めるって。」
「……じゃあウンエイにでもジャッジしてもらうか? ミズヒがどっちのメンバーかをよ。」
ヒートは不愉快を通り越し不快になっていた。
女子特有の、表面だけのなあなあでつるみたがる習性、それが不快だった。
しかも本人がそこに居なければ悪意の標的にする、そんな裏表のある女々しさが好きではなかった。
それが女が集団で生きるための処世術で、女の本能だと頭で分かってはいてもだ。
「は?そんな事でウンエイが動くわけが……、」
「試してみるか? おい、ウンエイさん、出番だぞ!」
ヒートはカンラーの背を叩く。
「え! 私!? いきなりだねヒートさん。あー……、どうもどうも、ウンエイのカンラー=セウです。んー……、まあ君たちも嫌がる人を無理に誘うのは良くないよ。ここではトラブル無く、みんな仲良くねー。」
「え! マジ?」
「ほ、本物……?」
「うん、一応。ここいら一帯を担当させてもらっているウンエイのカンラー=セウって言う者だけど。」
パーティは驚く。無理も無かった。
普通ウンエイが姿を現す時は、何らかの不備不正があった時なのだから。
それにほぼ初心者のヒート達と違って、ベテランの彼女らはウンエイの恐ろしさをよく知っていた。
ウンエイはこの世界での神の使い。
不適格者は容赦なく消す存在だからだ。
「……もういいや。新しいヒーラー探そ! 行こ!」
「うん、そうね……。どうせレベルまだ20台だろうし!」
ミズヒのかつての仲間達は捨てゼリフを吐き、去って行った。
「ど、どうもですん………。」
「いや、まあ使えるものは使わないとな。しかしカンラー、もっとしっかりしろよ。ウンエイ様だろ? 威厳ゼロじゃねーか。」
「もう! ヒートさんがいきなり私に振るからよ! ……で、ミズヒさん、さっきの人達お知り合い? レベルが上がらなくて困ってるって言ってたけど……。」
「え、ええ。ま、まあ昔の……。あ、あんまり会ってなかったんで、い、今の、れ、レベルの事とかは、あ、あんまり分からないですん……。」
「ふーん、そうなの……。あ、そうそう! チカさんとヒートさん見つけたらミズヒさんにお礼するって約束してたよね。えーと……。はい、これあげる。」
カンラーは懐から取り出した小箱をミズヒに手渡した。
ミズヒは小箱を開けた。
「こ、これは、れ、レンズ? か、片眼鏡ですん?」
「うん。それは『ステータスグラス』。相手のステータスを測定出来る眼鏡だよ。ステータスも少し底上げするし、眠りや混乱、盲目耐性もあるから常時持ってると何かと便利だから持ち歩いてあげてね。片眼鏡だけどチカさんの眼鏡と機能はほとんど一緒だから使い方はチカさんに聞いて。でもあんまり他人をジロジロと盗み見たりするのはダメだよ。マナー違反になっちゃうからね。」
「ど、どうもですん。」
「お! いいな、それ。」
「はい、無事帰還記念に特別にヒートさんにも。」
「おお、マジか! サンキュー。これで一々チカに眼鏡借りずに済むわ。……で、ミズヒさ、さっきのマジか?」
「え? さ、さっきのん……?」
「オレらと組んでるって言ったろ?」
「ああ、確かに~。」
チカも嬉しそうに乗り出す。
「あ、あれは、こ、言葉の綾で………。そ、その場凌ぎって言うか………。な、仲間にしても、め、迷惑しか掛からないって言うか………。」
「迷惑?」
ヒートはミズヒに聞き返す。
「あ、あのう……、う、ウチ、い、いくら戦っても、れ、レベルが上がらなくて、そ、それで、あ、足手まといになるかと……、お、思いますん………。」
「レベルが中々上がらなくて困ってるのはみんなだろ。ミズヒだけじゃねーよ。オレらもだよ。」
「あたしは上がったけどね!」
「棚ボタじゃねーか、チー坊のアレ。」
「うっわ、レベル上がったあたしに嫉妬かよー。ダッサ。」
「6が7になっただけだろが。そんなの誤差だよ誤差。……で、どうするよ? ミズヒは。オレは大歓迎だけどな。もっと足手まといが居るし。」
ヒートはチカの方を見る。
「うっさいわねー。すぐ追いつくわよ!」
ミズヒは考える。
これが本当に最後かもしれないと。
意を決しなければならない!
自分に言い聞かす。
―――これが最後なんだ! と―――。
「あ、あのん! ……じゃ、じゃあ少しだけなら………。め、迷惑でしたら、い、いつでも外れますんで、よ、よろしくお願いしますん………。」
「おお、マジか! やったな! チカも見習えよ、ああ言う謙虚なとこをよ。」
「うっせー! あたしが来るまで引き篭もりが。」
「あ、てめー言うなし!」
ミズヒが、チカとヒートの仲間に加わった。
「ははは…、良かったねー。雨降って、って感じかな。パーティ結成おめでとう。じゃあ我々も失礼するよ。新しい仕事も出来たし。」
カンラーは言う。
「あ、そう? お疲れちゃん。」
「おう、じゃあまたなー。」
「そ、それでは……。」
カンラーはコエーストを連れて帰って行った。
「……結局あのコエーストって奴何もしなかったな。一回も戦わなかったし。」
「ヒートまだ言ってんの? 女々しいわよ。でもそうなの? マジで一回も? 強そうなのに居ただけ?」
愚痴るヒートにチカが訊く。
「あ…。で、でも、う、ウチは、い、一緒に行動しましたん………。」
ミズヒが会話に入る。
「そうなの? で、強かった?」
「け、ケバブ、い、一緒に食べましたん……。」
「え? 何それデート? そう言えばお腹すいたわー。何か食べに行かない?」
チカは腹を押さえる。
「それよかさ、とりあえず風呂入りたいぜ。先に温泉行こうぜ温泉。ここに来てまだちゃんと温泉に入ってなかったしさ。オススメのとこ案内してくれよ、ミズヒ。」
ヒートは汗と臭いを気にしながら言った。
チカもそう言えばと気にする。
「そ、それじゃあ、い、行きますん。こ、こっちですん………。」
ミズヒに案内され、チカとヒートは夕闇始めた街を湯治場に向け歩いた。
「ねー、ミズヒー。ここの街でオススメの食べ物屋さん何かない?」
「え…? そ、そですね…。お、お蕎麦屋さんなんて、ど、どうですん?」
「えー、ガッツリ系がいい~。肉系無いの?肉。」
「お、お肉とかの、も、もたれる、お、重い物は苦手で、そ、そこの屋台のケバブぐらいしか、わ、分からないですん………。」
「あー、じゃあそれで。ビーフ増し増しにしよっと♪」
「いい加減ケバブから離れろよ。脳みそケバブか! 肉入った蕎麦ぐらいあんだろ? 蕎麦な今日。」
「えー。」
「あ、そ、そう言えば、か、カツ丼とかもあった気がしますん。う、ウチは頼んだ事、な、無いんですけど………。」
「よし、じゃあ今日は蕎麦で!」
「おめー絶対蕎麦食う気ねーだろ?」
「んなこと無いわよ? 余った具は処理したげる。」
「余らねーよ。しっぽならやるよエビのな!」
「ふ、ふふふ……。あ、み、見えて来ましたん。あ、あそこの温泉ですん。」
ミズヒは楽しい人達と素直に感じていた。
馬が合うとはこう言う感覚なのだろうと。
そしてこの2人とならば最後までやって行けると直感的に感じていた。
ミズヒはチカとヒートとで温泉へと向かう。
安心して汗と砂まみれの身体を洗うために。
(この安心できる日々が毎日続きますように……。)
ミズヒはそう願い、今日も一日が終わる。
だが、カンラーはそれを良しとはしなかった。
カンラーの安心できる日々はそこではなかったからだ。
カンラーは狙いを定めたあの3人組に迫っていた。
―――あのレベルが上がらぬあの3人組に。―――




