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水の僧侶ミズヒと。⑤【挿絵】

「こ、ここで、お、お昼に、け、ケバブを食べてましたん……。」

「ほう。」


 ベンドトア砂漠と、ゲレゲ火山へ行く分かれ道。

 その草原の脇にある大きな岩の上に座り、ミズヒはサイズS、チキン少な目、キャベツとトマト多目のヨーグルトソースの掛かったケバブを、コエーストはサイズL、チキンとキャベツとトマトが通常比率のヨーグルトソースのケバブを食べていた。


「初めて食べたがいけるな。」

「あ、あったかい方が、ふ、普通は、お、美味しいんですん……。う、ウチは熱いが苦手なので、さ、冷まして、お、お弁当代わりに持ち歩いてますん……。で、でも普通は屋台の傍で、で、出来立てを食べるのんが、い、一番いいと思いますん………。」

「そうか。では次からはそうしよう。」


「っかー! 抜けたーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」

 突然その草原の分かれ道に、全力疾走のヒートが叫びながら藪から飛び出し、ミズヒとコエーストの前に転げ出でた。

「んあ!? 何!!? な、何だコイツはぁッ!!!!?」

 ヒートは金切り声を上げ、立ち上がり身構えた! この場で一番驚いていたのはヒートだっただろう。

「クソ…! 終わりか! あと一歩で……。」

 無理も無い。ヒートの目の前には全身ミスリス鎧の巨大な騎士が岩の上に鎮座していたのだから。


「あ! い、居ましたん!」

 ミズヒは思わず指をさす。

「何!? ……ミズヒか? 何でこんな所に……? 何だよ、そのデカイ鎧の……。敵かと思ったぜ……。誰だ、その鎧の? ミズヒの仲間か?」

「は、はあ……。い、今は一応……。」

「自分はカンラー=セウ殿に雇われたレベル35の傭兵、ディフェンダーナイトの『コエースト』と申す。以後お見知り置きを。」

「そ、そっか……。よろしくな。 それよりミズヒ! 力を貸してくれ!」

「な、何ですん?」


 ヒートは一部始終をミズヒに話した。命からがら砂漠を駆け抜けて来た事や、置いてきたチカが毒で落ちそうな事も。

 ミズヒはいわゆるコミュ障だった。しかしコミュ障でも性分的に困った人は放ってはおけなかった。それ故に損をする事ばかりだ。面倒事ばかりに巻き込まれてしまう。

 我ながら自分はお人好しで貧乏神憑きだと幾度となく思って来た。

 

 ――でも放ってはおけなかった。この身に付いてしまっている変えられない性分――。


「そ、そう言う事なら……。あ、案内して下さいん!」

 ミズヒは食べかけのケバブをしまうと、メイスを手に装備し、ヒートとその砂漠へと急いだ。



 ヒートに「チカは砂漠の遺跡に置いてきた。」と聞かされるとミズヒは先頭に立ち、迷わず一直線にチカのいる遺跡へと急いだ。

 ミズヒはベンドトア砂漠の地形を完全に把握していた。日頃狩場としていたからだ。


 砂塵の中から蛇の魔物、スクーネスがミズヒに襲い来る! 数は3。

 驚くヒートに対し、ミズヒは動じない、全く。

 ミズヒはスクーネスの先制を交わしながら呪文を詠唱する。普段どもって話す者とは思えない鮮やかな動き。スクーネスの周りの湿度が一気に上昇し、気温は低下する。

 現れた水泡がスクーネスを包んだと思った次の瞬間、水流が弾け、スクーネスは3匹とも動かなくなった。


「さ、さあ! い、急ぎますん!」


 次にサソリ型の大型の魔物、スピデオンが牙を剥く! しかしそれにも全く臆しない。砂漠の、火の相手には絶対の自信を持っているミズヒだ。

 砂漠だけではない、火山地帯でもだ。

 実際ミズヒは火の魔物相手に一度も負けたことは無かった。


挿絵(By みてみん)


 スピデオンの巨大なハサミをメイスでいなし、呪文を詠唱。

 高温の砂漠の中、ミズヒの周りの大気が凍る! 水属性の氷魔法特有の現象、一点集中型の氷魔法だ。『単独の相手には魔力を拡散させない。』攻撃呪文の基本でもある。

 現れるミズヒの背丈はある巨大な氷の槍。それが一直線にスピデオンに迫り、頭から尻尾の付け根まで串刺し、貫く!

 砂漠最強の白い骸色の巨体があっけなく砂煙に散った。


「うおお……、マジか! すげぇな。いや、ミズヒ、本当すごいわ!」

 ヒートは素直に感心し、賞賛する。

 ミズヒは顔を赤くし、恥ずかしそうに目を伏せた。無意識にいつも通り戦っていたからだ。



 ―――自分は今、人前で活発に動いていた―――。



 それに気付いたから。しかしヒートはそれに全く気付きもしなかった。

 

「い、いいから……、い、急ぎますん!」

 ミズヒは照れを隠す。 

「ああ、そうだな! ……なあ、思ったんだがアンタなら、ミズヒなら、ヒーラーでレベル23なら割とどこでもやって行けるだろ? 何で……、」

 ヒートは急ぎつつも、素直な疑問をミズヒに投げかける。

「う、ウチはもう……。そ、それに『やって行ける』と『居心地の良さ』は別ですん……。」

 ミズヒは何かを隠すかの様に、レベル23のヒーラーである自分を否定する。

「そうか? ……そうだな、まあそんなもんだよ。ま、いいや。急ごうぜ!」

 今のヒートではミズヒにそう言うしかなかった。それ以上追及は出来なかった。人の事をとやかく言える身分ではない事は弁えているつもりだったからだ。


「……つーかよ、あんたも戦えよ。コエーストだっけか?」

 砂漠の魔物を一人で蹴散らすミズヒを見ていたヒートは言う。ヒートはミズヒに反し、何もしない、ただ居るだけのコエーストが癇に障っていた。

「自分はカンラー殿よりミズヒを守るよう言われただけ。ミズヒが危機ならば助ける。」

「居るだけかよ、木偶の棒か?」

 ヒートは悪態を付く。

「あ! う、ウチは大丈夫ですんで……。こ、ここの、さ、砂漠なら、う、ウチは、た、助けは要らないんで……。は、早く、ち、チカさんの所へ、い、急ぎますん………。」

「ミズヒがいいんならいいけどよ、傭兵代払うのはオレじゃねーしな。」

 ヒートは納得出来ないが、納得をする。この中で一番弱いであろう事は自覚はしていたからだ。



 道中、サボテン型の魔物、『スピドダンサー』が現れた。

「植物なら任せろ!」

 ここぞとばかりヒートは炎の魔法を放つ! が、スピドダンサーの体内に蓄えられている水分が炎を軽減する。

「そうだった! こいつは体ン中、水気ばっかなんだよな。 んなら、こんならどうだ!!」

 ヒートの電撃魔法! スピドダンサーの体内にたっぷり蓄えられた水分が電撃で弾け飛ぶ! 

 ヒートはスピドダンサーを倒した。


「あ、あれなら、す、スピドダンサーなら、う、ウチに、ま、任せてくれれば……。」

 ミズヒは気を使い言う。

「へへ…、アンタばっかに仕事させるわけにもいかないからな。なあ、無事戻れたら今度こそ奢らせてくれよ。」

「な、何をん?」

「ケバブをだよ。ヨーグルトのだっけ? コーラも付けるぜ?」

「ぷッ……! ど、どうも、で、ですん………。」

 ミズヒは思わず顔を反らす。その頬は僅かに微笑んでいた。


 ―――人とこうするのは何時ぶりだろう。一緒に喋り、地を駆け、協力するのは―――。


 ミズヒは独りでの狩り前に無理に気分を上げるために飲むタピオカミルクティーよりも高揚する気持ちを感じていた。



 後は余裕だった。ミズヒの水魔法は砂漠では無敵だった。ほぼ一人で、ヒートは元よりコエーストの力も借りず、難なくチカの居る遺跡の隠れ小部屋へとたどり着いた。


「この隙間の奥だ、チカは。」

「……ウム、通るには少し狭いな。自分は外で待っていてもいいか?」

 大柄なコエーストはミズヒに問う。

「あ、ああ、は、はい……。じゃ、じゃあ、そ、そこで待ってて下さいん………。す、すぐ戻りますんで………。」


 ミズヒはヒートに案内されチカの元へと急ぐ。入り口こそ狭かったが、中は六畳ほどで意外と広かった。

 そのブロックの奥の影にヒートのマントに包まれ隠されたチカが居た。


「だ、大丈夫ですん?」

 ミズヒが心配そうに近づく。だが部屋の崩れたブロックの隙間から現れたスクーネスがミズヒに飛び掛る!

 不意打ちだ!


「きゃっ!?」

 とっさの事もありミズヒは魔法よりメイスで応戦!

「危ねぇ!!」

 ミズヒに打ち付けられたスクーネス目掛けヒートが電撃魔法でトドメを刺す! スクーネスは倒れた。


「さ、さあ、か、回復を……。」

「う…しろ……。」

 震える指でチカはミズヒの後ろを指差す。倒したと思ったスクーネスが起き上がりミズヒに背後から襲い掛かろうとしていた!

「おわ!? 生きてやがったか!?」

 ヒートが呪文を詠唱する暇も無かった。しかもスクーネスの動きは早い! 弱って死ぬ間際の最後の力を振り絞っての攻撃、特攻だ!

 けれどミズヒはこの程度なら平気だと思った。それよりも自分は盾となり死に掛けのチカを守らなければならない! ミズヒはチカの前に立ち塞がった。

「あ…、危ない……!」

 しかしチカは、ミズヒが盾になるのを拒む。

「え…? あ!?」

 チカの予想外の行動にミズヒの動きは乱れる! ミズヒの脇で倒れ込みながらもチカは手にしたこんぼうをスクーネス目掛け、力いっぱい投げた!


 チカの投げたこんぼうは弧を描き、スクーネスの鼻っ面に命中! 断末魔の末、スクーネスは動かなくなった。


 スクーネスを倒した!


 チカはレベルが上がった。



 ミズヒの解毒と回復の魔法がチカを癒す。水は地を潤し、地は水を蓄える。水属性と地属性は相性が良く、傷に染み渡った。つまり相乗効果で回復力が増す。


「ふー。死ぬかと思ったー。」

 チカは起き上がり背伸びをし投げたこんぼうを拾いに行く。

「全くだな。これで街まで帰れるぜ……。」

 チカの毛布代わりにしていた砂まみれのマントを叩きながらヒートも言う。

「そ、そう言えば、み、3日も砂漠で、ど、どうやって生きれてたんですん?」

 ミズヒはふと疑問に思う。

「ああ、あれあれ。」

 チカは脇に捨てられた蛇の骨とサボテンの絞りカスを指す。

「スクーネスの丸焼きとスピドダンサーのサボテン汁。それ飲んでたの。ナイフ一本でヒートがけっこう器用に料理出来るから。」

「まあな。年季が違うぜ? 調味料がありゃあもっと美味く出来たんだがな。今度から塩コショウぐらいは持ち歩くかなー。」

「おかげでスクーネス捌いてる時、あたし噛まれて毒もらっちゃったけど。」

「しっかり押さえてねーからだよ! でもけっこういけたよな。」

「うん。蒲焼いてタレかけてごはんで行きたかったけど。」

「脂が足りねーよあの肉じゃ。オレは本当なら唐揚げにしたかったんだがな。レモン汁ギュってかけて。」

「あら、いいじゃんそれ。ヒート、あんた屋台出せばけっこう繁盛するんじゃない? 砂漠名物スクーネスの唐揚げ屋、いけるわよ!」

「お! いいかもな、それ。」

「う、う~ん………。」

 ドッ!

「「わー!!?」」

 ミズヒはスクーネスとスピドダンサーの残骸を見てそのまま気を失った。



 チカとヒートはミズヒに助けられ、ミズヒはコエーストに背負われて、夕暮れのベンドトア砂漠を後にした。


 三人ともう一人が温泉街ハイドイドラまで戻って来た時にはもう日は沈みかけていた。

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