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水の僧侶ミズヒと。④【挿絵】

 チカは朦朧とする意識の中、夢を見ていた。


 白く無機質で上も下も無い世界。その四角い通路をふわふわと泳いでいる。


 暗い宙に浮かぶ大きな輪のある球体が見えた。暗い宙がその光で晴れる。それは虹色でとても綺麗でとても巨大で、みんなに元気をくれたような気がする。



 チカの右腕が痛む。


(右手、が……!)




「おい、チカ! しっかりしろ!!」

 チカはヒートの声で目を覚ます。


「おい、うなされてたけど大丈夫か?」

「あ……! ああ、ヒート……。…………前にも……、前にもこんな事、あった気がする………。」

 チカはゆっくりと口を開いた。

「こんなん2回も体験してたまるかよ!」

 ヒートの言葉にチカは首を短く横に振る。

「……違う……。そじゃない……。ここは違う……、ここには長く居ちゃいけない……。」

「ああ、そうだな。早くこんな砂漠とはおさらばしたいぜ!」

「……そじゃなくて……。」

「は?」

「……ここは違う……。ここは嘘の世界……。もっと別の、あたし達が居なきゃいけないのは……、う、うちゅ………、」

「お前大丈夫か!?」

 ヒートの強い口調で我に返る。

「あ! ひ、ヒート? ……う、うん。……ダメかもね……。」


 チカとヒートはベンドトア砂漠で遭難していた。三日目。砂漠の真ん中にある遺跡の内部で小部屋を見付けそこに陣取り、敵と暑さから避難していた。


「……ここ砂漠のどこら辺かしら……?」

「さあな。」

「……無責任ね……。」

「よく言われるぜ。」

「……死ぬかしら……?」

「このままだとなー。」

「……火山とどっちがマシだったかしら……?」

「方向が分かる分、火山のがマシだったかもなー。」

「……もう諦めて死なない……?」

「………やだよ。金が減る。」

「……ケチかよ……。」

「ケチだよ。」


 チカとヒートは詰んでいた。ミズヒを当てにし、砂漠でミズヒに先回り出来ると思っていた目論見が外れたからだ。


 死んでも一応は復活は出来る。ここはそう言う世界だ。しかしペナルティは大きい。所持金も装備も失う。

 お世辞にも裕福とはとても言えないパーティのチカとヒートだ。

 特に予備の装備をストックしていない駆け出しのチカは丸裸になってしまう。所持金はともかく装備の喪失だけは避けたかった。


 さらに砂漠の魔物は大半が火の属性だ。

 火の属性は大地を焼き尽くす力――。地の属性に強く、火の攻撃も効き難い。

 つまり頼りのヒートの攻撃魔法は火の属性同士で効果が薄く、チカの地の属性は弱点になる。それに加え今のチカはレベルが6と、この砂漠では無力どころか致命的だった。


「ほら食え、メシだぞ。」

 ヒートは焼きたての現地調達の肉をチカに渡す。

「……いらない……。」

「食えなくても食え!」

「……うん……。」

 チカは淡白なパサパサの肉をモソモソと食べ、植物特有の汁で無理に流し込んだ。

「………苦い……。……アイス食べたい……。ソーダのやつ………。」

「贅沢言うな!」

「……ヒート……、あんた水の魔法は使えないの……?」

「風の魔法は……、電撃とかは少し使えるけどよ、水は天敵なんだよなー。」

「……役立たず……。」

「お前が言うか?」

「ううっ……。」

「動くな、チカ! 毒が回る!」


 さらにチカは毒に侵されていた。蛇の姿の魔物のせいだ。

 蛇型の魔物『スクーネス』。蛇と言っても巨大な全長5メートルはある赤褐色の魔物。それにチカは噛まれた。

 動けば体力が削がれる上、攻撃力も防御力も低下させられている状況。

 このままでは共倒れ、全滅は目に見えている。

 ポーションも毒消しも、もう無かった。動けばチカは毒で一気に沈むだろう。かと言ってヒート一人でポーションと毒消しとを買い込んでチカの元へと持って来る、と言った街とこの砂漠の往復を一人でやってのける自信は今のヒートには無かった。それにここへチカ一人だけを置き去りにすれば確実にチカは沈むだろう。


(街まで戻って薬を購入、すぐ砂漠まで戻ってチカを回復、そしてチカを連れて一緒に街まで帰る……? オレの魔力回復無しで?)


 魔力は魔術師の命綱だ。その魔力回復のアイテム、エーテルの価格は高い。一番安価な魔力小回復のエーテルでさえポーションの5~60倍はする値段だ。今の所持金から言って買えるエーテルはせいぜい2個。それでも今のヒートの魔力は半分も回復しないだろう。

 それに加え、チカと自分に使うポーションと毒消し代……。


 しかもチカを回復させてもこの砂漠を生きて連れて帰れる保証は無かった。チカがヒートと同じレベル18ならば安全に連れて帰れるだろう。だがレベル6ではいいお荷物だ。正直、不可能だと思った。

 だがヒートの頭の中には、あと2つのプランがあった。


 1つ目はチカを見捨てると言う事だ。

 チカの装備はまだ安価なこんぼうにレザー防具一式。立て直す事はかなり容易だ。

 ヒートが街に戻り復活所で待機、チカが沈むのを待ってまたパーティを組む。一番現実的で合理的な方法。


(いや、ダメだろ!)


 ヒートは最初の駆け出しの頃、少し強くなったからと言って粋がって油断して全滅。立て直しに梃子摺った嫌な思い出がある。それが蘇る。


 2つ目のプラン。

 ここにもし水属性のミズヒを連れてくる事が出来れば?

 事態は一変するだろう。

 砂漠での水の属性者はほぼ無敵だ。水の属性は全ての炎を鎮める。


(……あいつに、ミズヒに訳を話したら付いて来てくれるだろうか? 赤の他人の言う事を? 無理だ、オレだったら行かない! ……しかし……。)


 ヒートは賭けに出た。


「―――ミズヒを連れて来る!」

「……は? 無理に決まってんじゃん……、来てくれるわけ………。」

 たしかにミズヒが付いて来てくれる保障は何処にも無かった。しかしポーションと毒消しを抱えてヒートが一人で砂漠を往復するより確実な方法だ。

 ミズヒの居る街、ハイドイドラに何とか辿り着けさえすればいいのだから。


「ダメ元じゃねーか! チカは動かずそこで待ってろ。」

「で、でも……。」

「いいから! これ以上手間掛けさすなし!」

 ヒートは魔法使い特有の大きな帽子を深く被り直すと自分のマントでチカを覆い隠し遺跡の外へと駆け出した!


挿絵(By みてみん)


(スピード勝負だ!!)


 チカが魔物に発見される前にミズヒを呼んでここまで戻ってくるスピード勝負。

 当然街で一泊、そして魔力を回復――、など悠長は出来はしない一発勝負だ。


 遺跡の外へ駆け出ると早速蛇型の魔物『スクーネス』がヒートを狙う! 毒を持つ厄介な敵。チカもこれにやられている、毒牙だ!

 ヒートは風と火を合わせた爆煙魔法をスクーネスに放つ! 辺りに立ち込める熱風の砂塵。命中率低下と戦闘回避には有用な魔法。それでスクーネスとの戦闘を回避する。


 次に大型のサソリの魔物、『スピデオン』が現れた! この砂漠最強の魔物だ。

 硬く、真っ白な白骨色の外骨格を唸らせヒートに襲い来る! 白く巨大なハサミがヒートを掠めた! 当たれば魔術師ならアウトの攻撃力だ。嫌な汗が噴き出す!

 ヒートは爆煙魔法で対処し、何とか交わし逃げ延びた! 攻撃と戦闘回避には有効な戦法だ。


 ――しかし――、


(魔力が持つか…?)


 自身に身に付いてる物と同じ属性魔法なら比較的少ない魔力で魔法が使える。しかし身に付いている属性と違う属性の魔法を使うと多めに魔力を消費、しかも威力は若干落ちてしまう。

 砂漠の日差しもそうだが砂漠の魔物特有の火の攻撃が熱い。

 しかしこちらからの火の攻撃が半減すると言う事は向こうからの火の攻撃も半減すると言う事だ。それが今は火の属性を持つヒートには有難かった。

 しかし油断は禁物だ。魔術師の物理に対する防御力はお世辞にも高いとは言い難い。物理攻撃を食らえばあっさりと沈むだろう。

 しかもチカが離脱した今、敵からのターゲットはヒート一人に絞られる。ヒートのレベルは18とこの砂漠攻略の適正レベルだ。しかしそれは戦士系を前衛に置き、術者は後衛で守られている布陣での話。


(我慢比べだ! オレ一人なら何とかなるからな!)


 所詮強がりだった。しかし今はそう自分に言い聞かせるしかなかった。

 ヒートは回避能力を上げる魔法を駆使し、逃走を繰り返し、砂漠を駆けた。


 ――水の僧侶、ミズヒの元へと――。

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