第二章 町に入った
二人は、どれくらい森を歩いたかわからない。
喉がだんだん渇いてきて、重くなる体を支える足も震え始めた。
「喂。真的是这边吗,我已经走不动了。贼想喝水,想吃饭。
(おい、本当にこっちか、もう歩けないんだよ、水飲みてーし、ご飯食べてー)。」
「都说了别质疑我了,我也一样好吗?出森林前你还是忍着吧
(疑うなって、僕も同じだ。森を出るまで我慢しろ)。」
「可是」何かを言いたいエキだが、結局、何も言わず、黙って友の後についていく。
確かに、ユーは案内を再開してから、二人は変なものに一度も会ったことはない。
二人は確かに、初めてこの森に来るんだが、不思議なことに、ユーはまるで手のひらのものをよく知っているかのように、森のすべてを把握している。
「虽然以前就知道你方向感很好,不过在这森林里你是怎么找到路的
(前から方向感覚がいいと知っているけど、こんな森のど真ん中でどうやって道がわかるんだよ)。」
「不知道啊,反正就感觉是这个方向
(さーな、とりあえずこの方向かなと、感が教えてくれるんだ)。」
「这完全没有说明好吗?
(それは説明になっていないよ)」
エキはユーの隣まで走って、一気に腕をユーの肩に組んだ。
「不行了,走不动了,休息一会儿吧
(もう、これ以上歩けない、すこし休憩しょう)」
「我擦好重…你好好看看眼前
(重っ…お前、よく前を見ろ)。」
エキは頭を上げ、目の前の景色を眺めると
「哇,终于出来了
(うわ!出たぜ)!」
夕日は地平線に落ちつつ、建物が綺麗に並んでいる町は山に囲まれ、優しいオレンジ色を輝かせる。ヨーロッパ中世頃の服装を着た人々は町を行き来して、とても賑わっているように見える。
「真的,到异世界了
(本当に…異世界に)…」
目の前の光景に、まともな言葉がでないエキ。
「喂,这不太好吧。我们晚饭怎么办,最重要的是,水呢
(おい、まずいよ、僕たち、晩ご飯どうするんだ…それより、水は)…」
ユーの言葉を聞いて、正気を取り戻したエキは、慌ててズボンのポケットに手をいれて、何かを探し出す。
五千円札にスマホ一台、あと、百円玉一枚に一円玉四枚。
「这个,在这里能用吗
(これ…ここで使える)?」
エキは苦笑しながら友に訪ねた。
「别问我(僕に聞くな)…」
ユーもポケットを探して、結局スマホしか取り出せなかった。金やカードなど、身分を証明するものは全部カバンに入っているから、不幸なことに、二人ともカバンを無くしていた。
「但是,手机没丢也还行
(でも、スマホが残っているだけで嬉しいことだな)。」
エキはウキウキしながらスマホをいじめ始めた。
「哦!还能用,可以!现在已经六点了,不对,电马上要没了
(お!使える!いいね!今六時近く…じゃなくて、電池がもう切れそう)!」
「哈…总之,先到门那边去进城再说吧
(はー…とりあえず、あのドアまで行こう、町に入ればなんとかなるだろう)。」
「行,走吧(うん、行こう)。」
二人の出たところは町の正門までそんなに遠くない。山道を下り、しばらく歩いたら、二人は正門に着いた。
「好大的门,果然跟现代不一样。虽然要没电了但是先拍一张再说
(デッケーな、やっぱ現代とは違うな、電池が切れそうだけど、写真を取っておこうと)。」
スマホを取り出そうとするエキをユーは素早く止めた。
「喂,现在完全不知道什么情况,别做一些奇怪的事啊
(おい、今全く状況がわからないから、変な真似するなよ)。」
「我开玩笑的(冗談だよ)。」
エキは笑いながら、ポケットから手を出す。
「我只是在试你会不会注意到一些奇怪的事
(俺はお前を試してたんだ、お前が変なことに気付けるかどうか)。」
「而且。」
エキは声を抑えて言う。
「这些人都在说日语啊,虽然衣服完全不是日本风就是了
(皆、日本語をしゃべっているな、服は全然日本っぽくないけど)。」
「我已经注意到了,脸型也是。感觉有些像欧洲人,但又有点亚洲人的感觉,就跟游戏动漫里的人一样
(それはもう気付いた。顔つきも、ヨーロッパ系に近いけど、ちょっとだけアジア系の感じもする。なんかゲームやアニメの中の人みたい。」
「总之先别管这个了,再不喝水我就得断气了。看起来,虽然有门卫,但是这些人都可以自由出入。我俩的衣服在这个世界可能很奇怪,不过应该没问题吧,应该会让我们过吧
(まあそんなことより、今早く水を飲まないと俺は気絶するぜ。見たところ、門番がいるのに、皆自由に入ったり出たりできる。俺たちの服はこっちの世界じゃ変かもしれんけど、大丈夫かな?ちゃんと通らせてくれるよな)。」
「也许吧,赶快进去吧
(まあ、多分。早く入ろう)。」
二人は人混みに紛れ、正門を通った。
「う…」
エキは、体を一瞬震わせた。
二人は無事に町に入って、門番からすこし離れたら、ユーはエキに尋ねる。
「咋了(何があった)?」
「感觉,过门的瞬间像被扫描了一样,你没感觉吗
(なんか、ドアを通った瞬間は、スキャンされた気がした。お前、感じなかった)?」
ユーは呆然とした顔で答える。
「并没有,你太口渴了吧
(いや、全然。お前、喉が渇きすぎたじゃない)?」
「不是,就感觉,好像被谁从头到脚一瞬间摸了一样
(いや、なんか、誰かに頭から足まで一瞬撫でられたような感じだった)。」
「你这问题很大啊。看,前面有个卖水果的摊子,去试试日元能不能用吧。就算不可以一杯水总该讨得到吧,你看你像要死了一样
(お前やべーよ、ほら、あっちに果物を売っている店がある。日本円が使えるかどうか試してみよう。使えなくても水一杯くらいじゃくれるだろう、お前死にそうだし)。」
「好…好吧,是错觉吗(う…うん、錯覚…かな)。」
店はそれなりに大きくないが、りんごやミカン、いろんな果物が並んでいる。
「うん?」さっきのことが気になって、考え込んでいるエキは、ユーの肘が自分に当ててくるのを感じてようやく現実に戻った。
「二人とも、ここの人じゃなかろう、旅人かい?」
目の前にいる、オーナーの老爺が尋ねてくる。
「あ…そうだ、今友達と二人で旅をしている。」
エキは慌てて答える。
「ほー、偉いな、旅にもう疲れたかろう。果物、買わないかい?とても美味しいよ。」
「買いたいけど、爺さん、これ使えるか?」
五千円札を老爺にみせると、老爺は変な顔を作って答える。
「なにそれ、書かれているのは誰じゃ。まあ、絵としてはよく出来ているが、儂は芸術なんてよくわからないわい。」
「えー…」二人はしばらく目を合わせて、ユーは「お前に任せた」という視線でエキを促す。
「そんなもんじゃ買えねーぞ。金貨、シールはもっておらんかい?」
「シ…シール?」エキは「やべー、知らない単語だ」と心の中で思って、すこし緊張し始めた。
「こんなのじゃ。」
老爺は金貨を一枚出して、エキにみせた。銅色の硬貨で、すこし十円玉に似ている。一面に人が描かれていて、もう一面は知らない記号。
どうしよう…空はもうすぐ暗くなる。加えて食べず飲まずの状態で、エキは目眩もし始めた。
「あの…爺さん。正直に言ってそんな金は持っていない。それに、私たち二人は、もう何時間も水を飲んでいない。図々しいとはわかるつもりだけど、お水、すこし頂けないか。」
「今の若者じゃのー。」老爺はしばらく二人を見詰めたら、水筒を二つ取り出した。
「ほれ。」
「ありがとう爺さん、これは助かる。」
「何か困ることがあれば、あっちの衛兵に声をかけたほうがいいぞ。二人とも、服もこんなに汚いし。」
「うん、そうするよ。」
乾ききった喉に水を注ぎ、まるで甦ったように感じるエキ。
「爺さん、もうちょっと聞くけど、この町にギルドとかあるか。」
「たくさんあると聞いておるじゃが、儂は商業ギルドしかしらんわい。それに、今商業ギルドは休業中じゃのー、開いているギルドといえば、冒険者ギルドだけかもしれん。」
冒険者ギルドを聞いて、エキは一瞬、目に異様な光を輝かせた。
「ちなみに、その冒険者ギルドはどっちの方?」