ギフト
神殿長イッサーさんがゆっくりと黒く輝く球を持ち上げた。
「<上位鑑定>で判明した名は【ギフトオーブ】。
これがあのギフトオーブならば、大変貴重な品だよ。何せ実物が見付かった事自体、何百年振りの事だからね。
伝承では異界門の主を倒す事でドロップする宝箱にしか存在していないとされていて、実際に過去100年以上どの神殿も管理している異界門からは発見されていない。
……実物を見たのは私も初めてさ。
コレを売ったとすれば、少なくとも一生分は遊んで暮らせる程の価値がある代物だ。
オーブに刻印されていた名は<蟲の天敵>。虫・蟲系統の魔物や、関係する全ての敵対者に無類の強さを発揮する【ギフト】が込められているオーブさ」
【ギフト】とは、その系統の異能の頂点に君臨している超貴重な異能であり、歴史を紐解いても滅多に現れない超貴重品だ。
この神殿都市が建設されてから今までの1000年もの間の歴史で、たった数回しか登場してない代物である。
その為、【ギフト】を得た人間はギフト・ホルダーと呼ばれ、神殿都市に存在するだけで様々な特典が受けられる事となる。
1つのギフトは100のスキルにも勝る。
そんな逸話が囁かれた程、過去のギフト・ホルダーが強力過ぎる存在だった。
最初のギフト・ホルダーは、この神殿都市で最強の騎士になったそうだ。
他国からの侵略戦争の際には先陣を切って突撃し、騎士の振るう剣はどんな硬いモノでも切り裂き、騎士を守る鎧はどんな攻撃からも騎士を守った。
それは連日連夜繰り広げられたが、一向に疲労しない騎士に対して、その分敵国兵士の屍の山を築き上げた。
その影響もあって小競合いはあったものの、約1000年間は他国よりの侵略は見られていない。
それほど級の異能が込められているギフトオーブが目の前にある。
<蟲の天敵>
ギフト名は解っても、詳細までは流石に神殿長の持つ上位鑑定でも詳しくは解らないそうだ。
この下位互換と思われるスキル<虫特効>があるので、それのスキルを参考にしよう。
<虫特攻>
虫・蟲系統に限り与えるダメージは2倍、受ける全てのダメージは半減。
更に能力は2倍となる凄いスキルだが、蟲・虫に関してしか効果は発揮されないため、異界門の魔物……しかも嫌われ役(キモい、強い、おぞましい)の虫系統でしか役に立たない。
器が折角育っても貴重な枠を使いたがらずに誰も入れてない不人気な不遇スキルになっている。
異界門に挑戦する者達は様々な敵に対抗するためにバランスがとれたスキルを持つ者達で固められ、オールラウンダー型で対応していく事が今の流行りの攻略法らしい。
神殿長はどうするかね?と、優しく尋ねた。
後の事を考えるなら、生活していく為にお金はかかるだろうからね。
ましてや君は2つも呪いがある。
どれも異界門攻略にはデメリットがある。
<若返りの呪い>だと効率の良いマナ吸収も行えず、<禁じられた内扉>では攻略しないと出てこられない。
どちらも仲間を巻き込むから、ソロで挑まなくちゃいけない。
だから、今後を良く考えた方が良い。
個人的には困難な選択肢かもしれないが、異界門に潜る挑戦者になる選択肢もあると思うよ。
ギフトオーブを売って一生分の金銭を得たとしても、君の呪いは下手したら一生分を超える可能性があるから。
若返りの呪いも急激に君を害するモノじゃないし、異界門を攻略していけばいずれ完全解呪する方法やアイテムが見付かるかも知れないからね……。
そう諭すように……説得されれば、そうかなと思わない訳ではない。
死ぬのは怖い。
少なくとも、自分で命を断つ自殺は絶対出来ないと思う。
来るべく日に関してお金がなくて餓死なんて……洒落にならない。
それにギフト・ホルダーになるだけで特典は受けられる。
異界門に入るか入らないかは別として、衣食住は保証される。
……決めた。
対抗手段として自分の身は自分で守る!!
で、未来を模索していく為にも実力はあった方が問題ないはず!
最悪ギフトの力を使えば、1階層でも戦い抜く事が出来る……はず?
あれ、決めたけど、何だか不安に……。
それを見越してかイチバン良い笑顔になった神殿長が手をパンパンと鳴らしてお祝いを述べた。
「めでたい。どうやら覚悟は決まったようだね。
君を呼び出した張本人として責任は感じている。
せめてここでの暮らしが良くなるように出来る限りの事はさせて貰うよ。
当面の宿はこの東神殿寮をつかいなさい。
後はそうだね、装備などのお金の工面は私が面倒を見よう」
「ありがとうございます。
あと強いて言えば、誰かから武器を扱う指導が欲しい……です。
戦った記憶が余りないから、少し不安です」
「解った。では、信頼できる者をつかせる。
今日は疲れただろう?早く休みなさい」
優しい口調で言われると、安心感が半端ない。
ギフトオーブを触る。
(これから宜しく。蟲の天敵)
その想いに応えるように黒い球体から輝く闇が抜け落ちて、私は<蟲の天敵>の異能を手に入れたと、本能的に実感する。
安易だったと思わないでもない。でも、例えじっくり考えたとしても、きっと同じ選択をする。
もう後には……引けない。
モヤモヤとした気持ちは残るものの、神殿の寮へと案内してもらい、今日は休もう。
この日、神殿都市の史上初の青級のギフト・ホルダーが誕生した。
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暗く灯りの消えた神殿長室には、イッサーが指を組み、微笑みを浮かべていた。
「少し強引だったけど、ヒイロ君が得たギフトを受け入れてくれて良かった。
記憶を失った君が、これからどうするのか、どうなるのか……非常に楽しみなんだよ」
イッサーはヒイロがギフトオーブから<蟲の天敵>を継承した時に残った空虚な残骸の球を愛おしく暫く眺め、胸にしまった。




