神殿都市
神殿都市へと到着した私は、迎えに来た人達と共に東門にある神殿へと招かれた。
迎えに来てくれた方達は、神殿都市でも東神殿直属の神官と護衛のため、外で哨戒と警護を兼任する為に私1人が中に入っていた。
馬車の中には機密のために窓もなく、休憩時間以外はただただ、揺れながら過ぎていく時間との格闘だった。
神殿都市へ入る手続きが終わり、そのまま馬車は東神殿に直接乗り入れをした。
ようやく場所から出た時には、巨大な建造物が聳え立っている所だった。
案内されるがまま、中に入る。
天井は高く、シャンデリアが煌々と輝いて大理石が詰められ……途中テーブルや敷居があって武装している何人もの人が応対出来るような造りになっていた。
そして、列となって混雑している彼等は順々に扉に通されていく。
記憶もない私にとって、異常な光景にしか見えない。
「これは一体……何なの?」
ヒイロの様子を微笑ましく眺める1人から説明を受けた。
「貴女は記憶が無いのでしたね。驚かれる事は無理からぬ事です。
宜しければ少しご説明しましょう」
ここは東の神殿と呼ばれる場所であり、ここにいる多くの人は神殿が所有している<異界門>の間を使うために来ているのだと語る。
ここに来るまでの道中に説明を受けた神殿都市と<異界門>について。
少しずつ話を聞いていこう。
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まずこの神殿都市の成り立ちから説明する。
この世界を作り上げた偉大な存在、大神を奉る為に信徒が集まり、神殿が形成された歴史を持つとされる。
そこから様々な人々が集まり、遂には町まで形成された過去を持つ。
神殿都市はどの国からも干渉を受けない立場として独立しており、交友はあれど所属している国を持たない。
その為、過去にはこの都市を巡って戦争が起こった事も少なくなかったそうだ。
この神殿都市に存在している町は、周辺を分厚い第一城壁と呼ぶ高さ8m級の石垣で作られた城壁で囲んでいる。
その城壁の合間に外部神殿と呼ばれる戦闘を生業とする神殿の戦力が農地を守っていた。
その広大で肥沃な農地は、神殿から提供された異界門産の改良された作物が農地に植えられている。
この作物はどんな状態の土質にも順応する適応性の高い品種、小麦や野菜が豊富に採取出来る。
町よりも農地の方が大きいのも、神殿都市特有なのかも知れない。
更に第一城壁を挟んだ奥には重要施設がある。
東西南北の神殿が建設されていて四方を守っている。
その為、ヒイロがいる場所は外部神殿ではなく、東西南北の4つに配置されている要の1つ、東神殿にいる。
各神殿と第一城壁には連絡通路が設けられており、有事の際には通れるように整備させていた。
更には第一城壁よりは小さいが、鉄で作られな第二防壁が行く手を阻むように、鉄壁な城壁が守るその中央には、大神殿がある。
外部神殿には一般神殿兵士、神殿戦士、上級神殿兵士が常時勤めている。
一般神殿兵士を多く含む第一神殿兵士団は町や農地の見回りを担当しており、上級神殿兵士団は主に神殿の警備をメインとしている。
神殿戦士団は外回りと周辺の警戒を一般神殿兵士団と共に行っている。
特別優秀な者は、一般神殿兵士と戦士団の連絡役として数名が各神殿に常在していた。
中央の大神殿内部は上級神殿兵士と騎士とで構成されていて、その中でも騎士は別格の強さを持ち得ており、異界門で蓄えられた素材を元に最強戦力である神殿騎士団が後に控えていた。
この装備品も、神殿都市でしか作られない強力な装備であり、魔力と呼ばれる特別な品物だ。
侵略されても未だに他国を寄せ付けない、戦力の要となっている。
さて、異界門とは何か。
神殿はこう伝えている。
大神はこの地に祝福の試練を与えたもうた【異界門】の存在。
遥か昔から、この世界と別の世界を繋ぐ異界の門は場所を選ばず至る所に自然に発生した。
その内部は見たことのない景色が広がり、そこには未発見の素材も眠っている宝庫であり、また何列かの階層を持った空間も存在している。
それぞれの異界には必ず名前があり、そこには必ずと言っても良いほど、恐るべきモノ達が存在していた。
それらの姿は鳥獣であったり、水に生きるモノであったり、形なきモノだったり、時に人のようであったり等、様々なモノが存在した。
総じて魔を宿した生物……【魔物】と呼ぶ。
そして、階層を進み最後の最下層にはその異界を守る主が存在している。
異界の主は総じて強大な魔物であり、その眷属達が魔物となって侵入してくるモノを襲ってくるのだ。
この【異界門】を最初に発見した者達は知らぬがままに中へと入り、全滅の憂き目にあう。
情報を持ち帰る者が少ない中、何度かの先人達の挑戦で解った事がある。
この中には見たこともない素材があった。
野に生える薬草よりも効能が高い薬草や、毒草、草花。
見たこともない果実を付ける木々。
銅や鉄は勿論、それ以上にチカラを秘めた鉱石の数々。
そして希に存在している宝箱には、強力な武具やアイテムがあった。
何より魔物と呼ばれる動物よりも強く、恐ろしい存在。
一番の特徴は魔力と呼ばれる不可思議な超常能力を駆使して、身体能力を飛躍的に上げたり、火や水を産み出して魔法と名付けられた攻撃してくる。
人間にはこの魔法は扱えない。
少なくとも、人類が発生した有史以来、扱えた人間はいない。
魔物を倒せば光となって消滅し、その一部分だけが残る現象……ドロップが印象的だ。
魔物の素材の中には魔力を残した珍しいモノを遺す魔物もいて、それらはレアドロップと呼ばれた。
多大な犠牲を払って最下層に到達し、主を倒せば異能を含んだ武具の他に、驚いた事に個人に能力がもたらされる魔法の品々さえあった。
後にこれはスキルと呼ばれ、スキルの中でも強力なモノはギフトと呼ばれるようになった。
そして自然に発生した異界門は大概1ヶ月程で消え去ってしまう事が判明した。
この異界門と呼ばれる現象は何故起こるのか、どのような条件があるのかなど、まだまだ未知の分野の1つなのであった。
しかし、この神殿都市の神殿にはその【異界門】を固定化させ、異界の間に置いて何時でも誰でも挑戦出来るようになっている特殊な空間を保有していた。
ある諸説ではこの大地に神々の偉大なる神業にて試練を与えたモノだと言う。
その諸説を唱えたのは神殿側の人間だったが、人々には今日まで最も信じられている。
長年の異界門の研究と魔物や素材を扱いではこの大陸一の規模を誇る。
敷居の立てられた受付カウンターでは神官服を来た職員達が異界門のありとあらゆる素材を取り扱っている。
因みに魔法の品々やアイテム、またスキルカードと呼ばれる異能が付与されたモノは2階で取り扱っているそうだ。
こんな感じで纏められた説明を受けながら、奥の間に待たされた。
その神殿都市へと招待された私は、とんでもない事になった……と思いながらも、待つ間に出された紅茶と小さな丸いお菓子を食べる。
あ、この丸いの甘くて美味しいかも。
久しぶりの甘味に感動し、ここに来て良かったと思い直す事にした。
待たされる事20分程。
奥の扉からここまで案内してくれた人が出てきた。
にこやかな笑みと共に伝えられる。
「大変お待たせさせてしました。神殿長の支度が整いました。お会いになるそうです」