壱 オールド・ウェポン
カッカッカッ……と響かせながら、緋色の髪をボブカットヘアーにしている美少女が神殿の廊下を歩く。
くっきりとした鼻梁にクールな表情は、無機質な人形を思わせるほど整っていた。
また瞳は黄金に輝き、武装した出で立ちはどこかの宗教画で描かれそうな神秘的で厳かな雰囲気がある。
とある部屋の扉の前へと着くと、ゆっくりとノックを行った。
部屋の中から落ち着いた男性の声が許可を出す。
「東神殿専門挑戦者ヒイロ、閣下の召喚により参じました。失礼致します」
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部屋の中は40代程のイケてる青い髪の偉丈夫がいた。
神殿長にしか着用を許されない神官服を着こなす様は只者ではなく、圧倒的な雰囲気を纏わせている。
「ヒイロくん、よく来てくれた。まぁ座りたまえよ」
渋い声に促され、鎮座してあっまソファにドカッと腰を降ろした。
「はい。毎回ですけどここまで来るの緊張するんですよイッサー神殿長。呼びつけるのもうちょっと簡単な場所にしてもらえませんか?」
「君は相変わらず感情が籠らない話し方だね、そこがまたいいんだけど」
「ここに来るときはこの神官武装服の着用も義務付けられるし……可愛くないし着るのも大変なんですよ?」
クスッと笑う様がとてもイケオジ過ぎて、逆に笑えない。
「それはそれは、いつも苦労しながら来てくれてありがとう。では、本題に入ろうか」
キリッとした雰囲気となり、イッサー東神殿長は黒包みにされた細長い金属の箱を机の上へと置いた。
丁寧な手付きで開かれた細長い箱の中には一振りの剣が納められていた。
剣先は鋭角にてトパーズを模したような美しい剣身を晒している。
ライトウッドの握りやすそうな柄の真下にはカッティングされた翠宝石が装飾されて芸術品のような美しさを誇る。
そこに収められている鞘も、無骨ながらも精緻な文様に目が引く造りだ。
「ヒイロくん、君が3ヶ月前に持ち込んできた剣の詳細な鑑定が終わったよ」
最後に攻略した非常に強力な切断蟲が主だった異界門の主産の青宝箱の中身である。
この細長い剣からただならぬ威圧を感じ、鑑定を依頼したのだけど、神殿の鑑定士では全く鑑定が出来なかった。
鑑定のスキルは非常に希少なスキルである。その神殿専属鑑定士ができないとなると、それ以上のスキル持ちの出番である。
この場合、上位スキルである〈上位鑑定〉イッサー東神殿長しかいない。
普段なら直ぐに依頼通達されるはずだったのだが、運悪くイッサー東神殿長は神殿都市にいなかった。
隣国でもかなり親しくしている友好国から直系王族の結婚式の招待が届き、大使として派遣されていたのだった。
この内、期間の接待やおもてなしを受けるのも招待客の義務でもあり、王族の威信がかかっているため、報告は送ったが結婚式途中で帰還するわけにも行かず、尚更待たせられていた。
それとヒイロの方もこの〈大地喰らう切断蟲〉の攻略後から、固有の能力であるアニマ〈秘奥の紋章〉が感じられ難くなってしまっていた。
あの不思議な体験をしたあと、可能性の因子を掴み取ったヒイロ。
欠陥だらけな全細胞は何か別のモノに置き換えられ、身体の調子や基礎性能が超上昇していた……寧ろ新しく生まれ変わったよ?と言われたほうが納得出来るくらいに、超変化してしまっていた。
その魂にアニマが発現した。
アニマは、生まれ付き備わっていると勘違いしそうなほど、特別な違和感もなく、ただそこにあるという感じ。
そんなフワッとした感じで〈秘奥の紋章〉があったのだ。
それが遂に、唐突に、突然に、理由はわからない、けど、使えなく……いや、感じられなくなってしまった。
まるで粘りのある水に浸かったような感覚で、意識してみてもビクともしない。
そのため、自身の装備品と所持金を省いて収納してあった異界門の主のドロップした素材や武具が一切取り出せなくなってしまった。
何とかこの剣だけは取り出せたのだが、そのあとはうんともすんとも言わなくなってしまったのだ。
主武装の天夜叉を筆頭に、靴はアルビオンブーツ、首元にはお気に入りの紅いスカーフもある。
と、ま。それならそれで、特段困ったことはないし、いずれ何とかなるのだろうとも思っている。
つらつらといつもの無表情ながらこんなことを考えているとイッサー東神殿長はおもむろに話し出す。
「結論から言うとこれは……私が〈上級鑑定〉したこの刺突剣は未発見のA等級のオールドウェポンだったよ」
「……?」
「オールドウェポン。聞いたことは無かったかな?では説明しよう」
【オールド・ウェポン】
これは非常に強力な異能を唯一として宿している武具装飾品を示す最古の代物。
この神殿都市でも枢機卿騎士と呼ばれる御方しか装着されている事を許されていない、非常に珍しい代物でもある……と聞けばわかるかい?
ヒイロくんの持つA+等級の武器である天夜叉をもってしても、オールドウェポンとは呼ばれないんだ。
理解すれば、思わずゴクッと生唾を飲み込む。
「今回A等級ではあるものの、神殿の所有してないオールドウェポンが発見された。
それも、2人しかいないギフト保持者。……良くも悪くもヒイロくんの価値は跳ね上がった」
そこまではいいかい?
と前置きされても、言い訳がない。
それでも話は続いていく。
「私の〈上位鑑定〉は神殿都市でもトップクラスの上位スキルだと自負しているよ。でも、完全に読み解けなかったんだ」
少し悔しそうに苦笑をしながら、鑑定結果を模した上品質な紙を差し出された。
読んでごらん?と、鑑定紙を両手で受け取る。
そこには美しい筆跡で以下の内容が記されていた。
【ヘルガイア】 A等級 刺突剣型オールドウェポン
異界門の最古主〈大地殺しの切断蟲〉は、大地の神の眷属すら仕留め、不敗を誇った。
それを讃え、大地結晶を含むサンライズトパーズに唯一の恩恵が授けられる。
これを持つ者こそ、継し者〈ヘルガイア〉である。
突き、斬る動作及び洞察力に強化補正が加わる〈斬突強化・探知能力強化〉
相対するモノに殺戮の場が与えられる。敵対者全能力・効力の一定低下〈封獄界〉
地に跪き頭を垂れよ。汝の名は《へルガイア》 異能判定不明
物騒な単語が並びまくってますやん。
意味も不明。なんデスカ……コレは?
因みに今回鞘はB等級の代物で【ヘルガイアの主鞘】とだけ記載があり、異能は記載の名の通り、〈ヘルガイアの主鞘〉だったらしい。
どのような異能内容なのかは、イッサー東神殿長でも判明しなかった。
恐らく何らかの役割はあるのだろうけども……。
口から何かが飛び出しそうな面持ちのあと、ヒイロは刺突剣を腰へと仕舞って部屋からお暇したのだった。
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イッサーはヒイロへと渡す前に神殿都市に新たなオールドウェポンの存在を報告した。
取り分け神殿都市の上層部では、この新たなオールドウェポンをどう対応するか検討が為されていた。
青級程度のいち挑戦者から取り上げるべきだと主張する勢力の派閥や、それなりの金額で買い上げて己が子飼へと与えたい派閥。
誰も彼もヒイロを青級としてか見ておらず、好き勝手な事をほざいている。既に自分たちが手に入れたようなことを口走っている者もいるほどだ。
イッサーのようなヒイロを庇護する意見は極少数である。
その極少数派でも、自分たちが声をかければヒイロが喜んで派閥へと入ると信じて疑わない。
末席に加え、庇護を約束する代わりにオールドウェポンを献上させようとするモノばかりだ。
神殿都市2人目であるギフトホルダーの件も上層部でも限られた人間しか開示されていない上位情報であり、秘匿されている。
この情報を知る者は現状静観の構えを崩さず、動向を見守っているし、耳聡いモノならばこの時既に何らかの方法で情報の一端でも手に入れているはずなのだ。
ソレすら知り得ないここで騒ぐ者たちは上層部の中でも末席であり、ヒイロをどうとでも出来る只の新人だと侮っている。
自身の勢力や所属する派閥のことしか考えていない愚物としか思えない程度の者達だとイッサーは考えていた。主に幹部を親に持つ2世や3世が目立ち、神殿でも腐敗の兆候は明らかだった。
属する全ての人間がそうではないとしても、やはり神殿内部で足の引っ張り合いは組織の弱体化を招く。
そんな奴らからヒイロのことを護る為にも、敢えて守護蟲の異界門を攻略したときに東神殿長直属の挑戦者として既に登録を済ませていた。
これが無ければ上層部のバカどもから喰い物にしようとする者まで、様々な悪意を含む全ての事が立場を確率していないヒイロへと向けられただろう。
但し、いくら東神殿長の権限をもってしても、絶対安全とは言い切れない相手もいることは事実だ。
ヒイロくんには伏せていたが、あの鑑定紙には続きがあった。
あの異能がオールドウェポンとして記されるだけの強力無比な力を宿しているはずだ。
そこに刻まれていた ψ 定 θ 〈コクーン〉なる文字。果たしてどんな意味合いを持つのか?
ヒイロくんがこの神殿都市に来てから、短期間に変化を齎し続けていく。
少し考えこんだあと頭の隅に追いやっていた件を再考する。
(やはり、あの申し出を受けねばならんか)
デュークが入手した天夜叉。
あの時から極秘裏に協力関係の打診を受けていた件を進めれば、あるいは……。
安全性は上がるのか?それともより厄介になるのかの賭けのような危険な申し出である。
いつの間にか組んでいた指と腕を解き、やれやれと疲れた顔を押し隠し、イッサー東神殿長は顔を上げた。
東神殿を後にしたヒイロはその足で異界門の間に向かった。
現在表示されている異界門のリストを眺めていた。
常時展開されている5つの異界門。
〈紅蓮の調べ〉使用中 空き40
〈武の戦域〉 使用中 空き10
〈太陽の草畑〉使用中 空き23
〈狂狼の密林〉使用中 空き39
〈戦陣の大河〉未使用 空き50
特に心惹かれたり、興味を持てる異界門はない。
相変わらず良くわからない名前の異界門もある。
基本的に一度入れば主を倒すまで出られない呪いを身に潜むヒイロにとって、ギフトによって1番マージンが持てる虫系統遺骸の異界門へ入ることは自殺に等しい行為となる。
普通の挑戦者は一旦入っても、何度でも帰還できるし、アイテムを使えば途中帰還も可能だから挑戦しやすい。
毎日の糧をそれぞれで調整(因みに門の使用には料金が必要)しながら得ているので、ヒイロのように各異界門の使用期間が過ぎるまで待機ということはないため、今日も賑わいと活気良い雰囲気に背を向けて後にした。
完結し、残った8話を編集しつつ、何話になるかはわかりませんがゆっくり投稿するかもです。予定です。




