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異界門  作者: タロー


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薄曇の蜜蝉2 攻略

広大なフィールドを幾つも進み、なるべく敵を避けながら最短ルートで進んでいく。


以前攻略した時と環境などの差異はあれど、出てくる魔物は実際の所変化もない。


<若返りの呪い>を宿している為、使用には注意が必要だったが、魔物相手に2度ほど<天夜叉>の使い心地を試す。

凄まじい切れ味と、対象を焼き尽くす程の火炎に改めて身が震える思いがする。


それ以外は<アルビオン・ブーツ>の異能である移動速度の上昇を身に覚えさせながら、あっという間に15階層目となる最下層手前の階層へと辿りついたヒイロ。




最終確認をして、挑む。




辿り着いた最下層は薄暗く、広い空間であるも天高く聳え立つ大木が周りを囲み、天からの光を遮るような圧迫感がおしよせてくるフィールドだった。


また、地には木の根が所々に見えて動きにくそうだ。



そこの中央には巨大な塊……刺のような突起物が所々に生え揃う攻撃的なフィルムが見える。

翼が退化し全体が鋼の塊のような地殻蝉が一体鎮座している。









しかしながら、今回と以前とは違う点がある。


先ずは地殻蝉の眼だ。

赤く光っていたものが、今は黒く濁っており、眼から不気味な光沢を放っているのと。

そして、一定距離から主から漂う体臭は汚泥を混ぜた臭いが腐臭が鼻につき、ムカムカと吐き気を催す程だった点だ。








同系統の異界門の主としても差異はあらども、これは余りに特徴が不吉すぎる。

違和感から以前と全く違う事を強く意識したヒイロは、警戒を深めたが一切の不安も躊躇いも感じなかった。


以前勝てたという自信もそうだが、昆虫系統の魔物に対して<蟲の天敵>のギフトの極大補正は私の恐れすら取り除いてくれているのかも知れない。




天夜叉とアルビオン・ブーツに込められている異能が、倍以上の相乗効果を生み出す。

視認するのが困難なスピードで駆け超高速状態になったヒイロは、一瞬で地殻蝉との距離を埋める。


ヒイロ自身が知覚する事が困難な程の速度でも、<蟲の天敵>のギフトとの掛け合わされた効果は、それに対応すべく肉体と知覚を含め、あらゆる能力値を超向上させる。


正にゆっくりと流れる時間感覚の体験に近い。

普段とではあり得ない、溢れんばかりの万能感、驚異的な反応速度、力を前に酔いそうになる。


地殻蝉も私に向かって前脚を振り上げる動作が見えた。

その動きは欠伸が出るほど遅く……地殻蝉へと瞬時に肉薄していたヒイロは、手に持つ天夜叉を2度振った。


布を斬ったような軽い感触の手応えのあと、一切の抵抗や反発もなくスパッと両前脚の1本ずつが落ちる。

天夜叉の恐るべき切れ味は、どの魔物や主を相手にしても変わりないようだ。



分散した巨体は体重を支えきれずにズドンッと真横に倒れた。

しかしのっそりと起き上がり、残った脚で引きずりながらも迫ってくる。


この地殻蝉にはダメージを与えても、痛痒も怒りも……前と違い何の反応も示さない。


その様子に生物としての違和感が拭いきれない。



薄暗がく濁った血液状の液体を撒き散らしながら、生命の息吹を感じさせない明らかな異常事態に、ヒイロの心には戦闘中だと言うのに疑念を抱く。







前回の地殻蝉との戦いは、鉄のショートソードを壊しながら激戦を潜り抜けた記憶があった。


あの時とは状況も違うけど、こんなにも異界門の主である地殻蝉に対して強大で威圧的なプレッシャーを感じない。

それはギフトの影響だと思い込んでいたけど、もしかしたら思い違いをしているのかも??


トドメの為に用心しながらも、中央の堅牢殻を切り裂き生命の起点である核を貫いた。

呆気なく、静かに、攻撃動作もなく息絶えたように動かなくなっていった。


痙攣のように地殻蝉が動く度に血液が流れ落ちていたが、いつの間にか何も流さなくなっていた。


その代わりに斬った両前脚の巨大な切り口からは膿のように黄色く、緑がかった液体が飛び出してきた。





刺激的な腐敗臭が強く立ち込め、徐々に吐き気が強く催していく。これは……やはり血液ではない。



飛び散る液体を警戒しながら、少し距離をとった。


(……?何かくる?)


と、考えれたのは一瞬。直後、本能が危険の警鐘を激しく鳴らす。


ゾクゾクゾクッ、と地殻蝉からおぞましい威圧感が増し、尋常ではない強大な気配を感じると同時に、ソレは現れた。


膿のような緑色の噴水に混じり、傷痕から極小のナニかが、凄い勢いで噴射してきた事を察知する。





(アレに絶対に触れていけない)



あの小さな存在は、緑の腐食した膿に紛れて普通の者ならば気付かれないまま、それで飛び付けただろう。



しかし、ギフトの異能を持つ【蟲の天敵】を宿したヒイロは違う。




無意識に体が反応する。


<天夜叉>の異能の1つ<スカーレット>を発動させ、直感に導かれるままに咄嗟に腕を突き出した。




煌めく緋天の炎を纏った<天夜叉>の剣身と、飛び出たモノが直撃する。

バチッと火花が踊る僅かな抵抗のあと、堅いモノを突き破った手応えから激しい衝突音と衝撃がヒイロの手から体全体へと伝い始めた。


手に持つ感覚すら震える衝撃に耐えていると、突如フッと音が消え去り、抵抗がなくなった。


次の瞬間。


先程よりも倍以上もある爆風のような熱気が立ち込め、天夜叉の美しい剣先が耐えきれなくなったように、ガタガタガタと震え始める。

必死にその振動にたえるが、両手でも立っていられない程の吹き荒れる魔力のエネルギーは、逃げ場の無い剣風と化して辺りに風の刃が発生した。


その自らが産み出した剣風は、剣を握るヒイロの両腕を深く切り裂け抉り、傷痕を量産させた。


風の刃は対象を微塵に切り裂き、一刀両断にする威力がある。

ヒイロも例外では無く、以前のままであれば最初の段階で耐えきれずに死んでいた筈だった。

しかし<蟲の天敵>の強化補正と、【古代樹の守護蟲】で獲得した素体の影響もあって、これだけですんでいるのだと、実感していた。


これで以前のままであった事を考えたら、ゾッとする。



更に迫る風の刃に対して、疲労する肉体に鞭を打ってでも何とか身をよじって逃れた。

ぐっと倦怠感に襲われるが、風の衝撃こそ来たが直撃しなかったので直接ダメージは少なく、そこまで酷いダメージはない。


手を守っていた皮の手袋など既に容易に引き裂かれており、ズタボロの布切れに等しい存在となって散らばっている。



裂傷や深い断ち傷によって出血したまま力が入りにくい状態の両腕だったが、何とか剣だけは振り落とさずにすむよう歯を喰しばった。

そして、不意に軽くなる手応えと共に、先程ぶつかったナニモノかを焼き尽くし、消滅させた事を感じ取った。



極度の緊張を含め溜め込んだ息を、一気に吐くと、両腕に激痛が襲う。


これは脳内のアドレナリンが切れて、ようやく脳が受けたダメージを知覚した。

限界はとっくに越えていた。


悲鳴を上げて天夜叉を手からこぼれ落とす。

今の両腕には全く力が入らない。


身を苛む激痛に苦労しながら何とかベルトから割れていないポーションを1本外し、座ったままの状態で地面に落とす。

ヒビが走ったポーションを足で割り、地に濡れた液体に手を置いて、片方の腕に浸した。

その際、ポーションの砕けた破片は気にしない。


傷が表面的にふさがり、痛みも幾分マシになったところで、今度は少し高級な異界門産のポーションを何とか取り出して、蓋を開けてもう片方の手へと振り掛けた。



更に痛み止めの効果が入った丸薬を口に入れて噛み砕く。

口に広がるその苦味に思わず眉をしかめる。


少し和らいだ痛みに耐えながら、念のために最後の1本として残しておいた、手の出せる範囲で最も高価な異界門産の高度回復力ポーションを振りかける。


これで一先ず応急処置はおしまい。


ふと見渡すと、崩れ落ちた地殻蝉の姿も見当たらない。


ソコには何もなく焦げた痕とドロップ品らしき素材だけがポツンと1つ残っていた。



それは小さな宝石のような、黄色の輝きを放つ石だった。


ひょいとつまみ上げると、鉱石である石から力強いナニかを感じた。

不思議な感触を確かめつつポシェットへと入れると、大きな溜め息を吐いた。




ぼんやりと青い宝箱が出現するのを眺め、疲れた表情で中身を確かめた。


開いた青の宝箱の中身は武具ではなく、黒曜石のような光沢のある材質で作られた金属の(インゴット)だった。


これひより、今回の異界門の主は腐臭のする地殻蝉でなく、小さなアレが今回の異界門の主だったと実感出来たのだった。












後で判明した事だが、あの異界門の本当(・・)の主は、遭遇率が非常に稀な主だった。




遭遇率が低いため情報はまばらだったが、異界門の主に対してだけ、寄生するタイプ。


その場合、寄生される依り代となった異界門の主は、類い稀なる自身の生命力と抵抗力によって大概は排除される。

しかし例外もある。

万分の一の確率で何らかの方法で耐性をつけ、適応した寄生個体はその後、爆発的な成長を遂げる。

異界門の主を内側から侵食し、時間をかけて支配していく。


恐らく寄生個体の本体は、適応が終了した時点で一気に進化する特異な個体であると推測されている。

証言者や資料からも推測されるに、頭部には貫通に長けた構造で棘顎化し、歪に伸びた下顎が一度噛み付けば返し刃の如く獲物を離さない。

それの貫通力や破壊力は、例え異界門の主を相手にする挑戦者の装備品が並の代物では無くとも関係なく噛み砕き、貫くだろう。

高速回転して飛び出しながら攻撃を仕掛け、発達した顎の筋肉は鋼鉄製の武具すら容易く貫き、相手の体内へと潜伏する。



体内に侵入される前に迎撃するのは困難を極める。

それは超高密度に圧縮された外骨格で防御を固めているため、下手な鋼鉄より遥かに硬い硬度を有するかはだ。

短期間にパワーを凝縮する瞬間筋肉を全身に纏う恐るべき本体は、極小なサイズの昆虫系統の魔物ダニだった。





そうして内部へと侵入した寄生個体は神経毒を含む消化酵素を注入し、強靭な筋肉をやすやすと溶かし、啜る。

排せつ物から痛み止めに似た効能を体液を発しながら時間をかけて疑似神経を司る触手を張り巡らせ、体内で蓄えたチカラを使って、宿主の脳細胞と神経を操る。


体組織の90%ほどを乗っ取れば、例え宿主となった異界門の主でも、ただ生かされているだけの存在となってしまっているだろう。

それ故、部分的なダメージが積み重なって体内から腐りやすいデメリットが生じてしまい、単調な攻撃になりやすく、行動も僅かに遅い。

しかしデメリットもあるが、痛覚を感じないままなので、攻撃を喰らいながらもそのまま反撃、重攻撃を仕掛けてくる事も可能となる。


もし寄生した依り代(主)が負けそうになると体内に圧力を掛け続け、主が負荷して崩壊する直前にエネルギーを爆発させて超高速状態になり、その勢いで体内を突き破って弾丸の如く飛び出していく。


次の依り代である勝った相手の体内に潜り込んで寄生……したその場合は、人間に寄生した時の資料や情報は殆どないため詳しい詳細は解らないが、肉体の掌握は時間を掛けずとも人間ならばあっという間に肉体の権利を奪い取れるだけのパワーを有しているのは間違いない。

どちらにせよ、ろくでもない、厄介な相手になる。

何せ本体を滅しない限り、殺せば次々と寄生して宿主を変えていく災害級の厄介な主は、その小ささ故に攻撃の狙いを定めるのも困難を極め、討伐は容易ではない。















この事が判明するまで実に長く、この存在が明らかになったのは200年程前のことだった。



ある洞窟での異界門を攻略する挑戦者パーティーがいた。


洞窟のフィールドタイプであるために周りは暗闇の状態だった。

そこで相対した挑戦者パーティーは灯りを保つためにも篝火と松明を持ち込んでいた。


3ヵ所に大型の篝火を組み立て異界門の主と戦い打ち勝った彼らは、手応えに違和感を感じていた。

そのため、倒した異界門の主相手にも警戒を怠らず、松明を片手に周りを取り囲んでいると、倒した傷口が盛り上がった事に気が付く。


偶然にもその異変を察知した事で、飛び出してきたナニか対して対応でき、咄嗟に持っていた燃え盛る松明で叩き落とせた。


地に叩き付けられたナニかは、そのままパニックに陥った挑戦者達によって滅多打ちに砕かれる。


ドロップ品が残り、直後に異界門の主の討伐した証しでもある青い宝箱が出現した事で、よりり大騒ぎになった。


神殿へと帰り、そのドロップ品を鑑定して貰うと<降魔ダニの戦槌殻>と記されていた。



初めて聞く名の魔物名である。


神殿都市側にとってもこの情報は全くといって無かった。

いや、過去の挑戦者達が持ち帰れなかったと言うべきか。


発生する事も恐らく稀であり、尚且つ相対すれば全滅する。

それだけ多くの過去の挑戦者達は幾度となく葬られ、別名<中級者殺し>とも噂され続けられる存在だった。


異界門の主をようやく倒した……と思った矢先に生ずる為に、過去の腕利きの挑戦者でも油断した状態で対応できず全滅する事も少なくなかった。


大概異界門を攻略したパーティーは、五体満足の者は少ないし、更に致命傷を負って亡くなる生存者のいない全滅のパターンだった。

それは例え新進気鋭と言われる黄級(イエロー)のラッツ・ヒューストンや、緑級(グリーン)の上位クラスの実力を持つ類い稀たる歴戦の弓士デュークであってさえ、油断していた状態でヒイロや過去の先人達のように遭遇すれば、死んでいてもおかしくはないのだ。









神殿は更にここから情報を集め、またドロップした素材を高額で買い取り、研究を始めた。


これにより、<降魔ダニ>は火に対して体表に触れると体組織と外骨格が縮小し、耐久性が損なわれる研究結果がもたらされた。




これは討伐に有効な情報だと思われた。


過去の当時の最強挑戦者達と、神殿側の最強戦力とが組んだチームが結成された。


そこから得た情報等を神殿の研究者による検証研究チームによる報告によれば、火を使った攻撃を行うと外骨格の耐久性を著しく損耗させる事がわかった。



しかし、その耐久性も一時的な事で討伐までには至らず……体を僅かに縮小させるがその分火に対して明らかに強くなっている。


僅かに……しかし、確実に……だ。


そのため、火を使った戦闘行為が長引くと火に対する耐性が徐々に上がるのではないか?予想が神殿の研究者によってもたらされた。



更に研究を進めるとまた驚くべき性能が判明した。

火に対して異常に耐久性はない。

それは変わってない。


しかし逆に言うと、火以外は全てに耐性があるという凄まじい結果が判明する事になったのだった。


余談だが、その為この異界門の主は存在自体が希少過ぎて討伐でしかドロップ品がないため、非常に高額かつ特別なレアドロップ品として認識されている。



相対しても、火を用意しておくことで寄生された状態その存在ごと燃やせば、少なくとも逃げる時間は稼ぐ事が出来るのだ。


襲われて運良く生き残ったベテラン挑戦者の中には余りの惨劇の思い出から、ようやく倒せた主でも、暫くの間はわざわざ火を灯し、ドロップするまで用心する……といった行動をする者もいた。



また<降魔ダニ>が発生する異界門の主に対しては全般ではなく、生物型の異界門の主が主であり、非生物型で無機質系統でもあるゴーレムのような存在には寄生出来ないためか、見受けられない。

また時間をかけて主を乗っ取る観点から、異界門が発生した20日以降の主に多く見られる模様だと発表している。


特に腐臭が酷い異界門の主からもう1体観測され、討伐することに成功した。



このため、神殿側でも腐臭のする異界門の主には気を付けるように、パーティーで挑む際は最低限1人は火炎を発するアイテムを持つ事……と、主へと挑める【器】黄級(イエロー)に至った者達に事例として、討伐しても油断するなと、これに当てはまる異界門全てに警告を促す。


その影響か一時期、アンデットなどが徘徊する異界門に挑戦する者が激減するといった現象すら見られた。









ヒイロは全くの自覚のないまま、<降魔ダニ>に偶然に遭遇して()せてしまった。


そして手当てを受けている間に、青い宝箱から出てきた黒い金属塊とそのドロップ素材を預かったエレナを非常に驚かせたのだった。




こうして彼女は、着実に神殿都市に馴染んでいくのだった。




神殿都市のとある豪奢な部屋にて、神官服を着こんだ2人の男性が話し込んでいた。


上位の身分を表す神官服を着こんだ白髪で歳の得た男性へと、若い男性が報告をしているようだ。


「何十年振りに<降魔ダニ>と遭遇し討伐した挑戦者がおります……それも単独撃破となり……以上が報告となります」


かなり長く、詳しい詳細を受けた歳の得た白髪男性はゆっくりと頷いた。


「フム、君の報告とはいえ信じられん話だが……事実には間違いないだろう。

ご苦労、下がってよろしい」


「ハッ」


神官服を来た男性が静かにパタンと部屋を出ていく。


「よもや、ギフトの力とはいえ異界門の主を単独で倒す者が現れようとは……な」



口元だけをニヤリと歪ませる。


「例の件に使える駒になるやも知れん。朱髪の女冒険者ヒイロか。覚えておこう」




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