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異界門  作者: タロー


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薄曇森の蜜蝉


冷たい。


宿のベッドで、身体中に汗をびっしょりとかいた状態でヒイロは目覚めた。


更に目の付近に違和感を感じそっと触れると、目尻から涙の痕がついていた。


手で軽く拭き取り、ふらふらと手桶に入った水で顔を洗った。


手触りはガサガサだが布のタオルで拭き取ると、サッパリとして少しだけ気持ちが落ち着いた。



グキュルルルー。


空腹感が半端なく……盛大なお腹の音が自己主張を始める。


そういえば、昨日は晩御飯食べずに寝たんだっけ……。


しかし空腹感を感じるよりも、胸には不思議な安心感があった。


快晴のように気分良く、晴れ晴れとしていた。



「また変わった夢を見ちゃったな」




そう言えば夢で誰かと出会ったような……記憶を辿る。


具体的に顔を思い出そうとしたが……。


直後に頭に霧がかかったような靄が思い出させる行動を阻害させた。


まるで、掌から溢れていく水滴のように急速に薄れ、抜けていく記憶に戸惑う。


必死に夢に出てきた出来事や、誰かを思い出そうとしたが……もう既に何だったのか、思い出せない。



眉間にシワを寄せながら思い出すことを諦め、ヒイロは朝食を食べにいくことにした。


今日は体が羽根のように軽い。


以前にはない程に、調子が良く活性化している事が感じられた。




この日から連日ヒイロの体を蝕む謎の症状は一切治まった。


首を傾げたが、どう考えても解らないものは解らない。


念のため数日様子を見たが、異常は感じないし、もう大丈夫そうだ。


山盛りとなった朝食を食べ終えたヒイロは、久しぶりに挑戦者として神殿に向かったのだった。


外は青空で良い天気。


何故か牧草の香りがしたように思えたが、気のせいだったらしく、東神殿の訓練所へと足を早めた。





あれから数日が経った。



新しく買い直した装備品を馴染ませながら、時々警備に来ていた一般神殿兵士のサルゴウさんに指導をしてもらっていた。


その際にサルゴウさんに勧められて、<天夜叉>と同じ重量の重りが入った特注の木剣を作成して貰っていた。


を握ると、ずしっとした重さがあった。


やはり、ショートソードよりも重量がある。

この重さは安心感でもある。


片手で扱っていく為には、いつもと感覚が違っていて、矯正していく過程は大事だ。


場合によっては両手持ちでも良さそう。


今後も異界門の攻略はソロで挑戦していくため、片手で扱う事になれておかないと……負傷等を含めた万が一の行動が鈍くなる。


それは命をかけた戦いにおいて致命的な隙となる筈。


そんな事を考えながら、特別に朝早くに訓練させて貰っていた。


ようやく武器に振り回されなくなってきた感じ。

体に馴染んできた証拠だと思いたいな。


朝早いせいか、初めて訓練所を使用していた時のラッシュように絡んでくる者はおらず、各人お互いに遠巻きに眺めながら、自分達の訓練をしている。





更に復帰のリハビリを兼ねて訓練所へ来て1週間が経過していた。



宿で顔を洗い、緋色の髪を櫛で整えて意識をしっかりと覚醒させる。



両手には扱いやすい柔革の籠手をはめ、体には布ながらも一定の防御力がある特殊な製法で編まれた軽布の服を着込み、その上から革の胸当てをした。




腰のホルダーには体力回復ポーションと解毒ポーションを各1本ずつと、メイン武器である<天夜叉>を差しこむ。



あれから全く、特に体に異変はない。




背嚢を担ぎ、最後に首に緋色のスカーフを巻いて準備オッケー。


アルビオン・ブーツを履いて宿を出立する。


「取り敢えず、今日から始動。

東神殿で潜れる異界門がないか確認ね」




気持ちを引き締め、久しぶりの異界門へ挑む緊張感が戻ってきた。







アルビオン・ブーツに込められている異能<移動速度上昇>の効果で思ったよりも速く東神殿へと到着した。


幸い東神殿には挑戦者はまばらで混んでいなかった。


早速受付へ向かい、エレナさんを探す。


東神殿で久しぶりに会うエレナさんは受付で忙しく動いていても、やはり美しかった。

働く女性はどんな時でも美しいよね。



待つこと数分、ヒイロの順番が来た。


「お待たせしました……あらヒイロさん、おはようございます。

もうお加減は宜しいんですか?」


「ええ、お久しぶりですエレナさん。今日からまたお願い致します」




リハビリも兼ねる事も相談し、エレナさんからこの異界門<薄曇森の蜜蝉>を勧められた。


「この異界門は挑んだ挑戦者からの情報から、浅層の部分ならあります。

どうやら虫系統の魔物だけがメインで出現するそうだけど、魔物との遭遇率が低いらしいわ。

他の挑戦者にとっては旨味のない異界門で、今の所リピーターの挑戦者はいないようよ。

でも、ヒイロさんなら……最下層にも到達しやすい筈です。

また以前攻略された異界門と似た雰囲気ですね」


「でも、また蝉なんですね……」


「ごめんなさい、虫が出現する魔物の異界門は、今の所、東神殿には1つだけのようですわ」



私が休んでいる間に出現していたこの異界門はあと数日中に切り替わる予定なのだと言う……なら、丁度よかったのかな。


似た名前からして恐らく、この異界門の主は、以前<蜜蝉の小森>で戦闘した<地殻蝉>っぽい。


確定ではないけれど、高い確率でそうだろうとエレナさんも言っていたしね。




ヒイロの原因不明な不調を知っていただけにとても心配されたが、柔らかくニコッと元気アピールをする。


目と目で見つめ合うと、次第にエレナさんが頬をほんのりと染めた。





んんっ、何故?




「ええっと、何だか可愛らしくて?

もう、気にしないで下さい。

って……あれ、ヒイロさん瞳の色が変わってませんか?」



暫く大人しくしていた方が私の可愛さは上がるんだろうか?


変な思考に没頭して私はエレナさんが話し掛けていた事にも気が付かず、異界門の間へ歩いていた私は久しぶりに青い門を潜っていた。













外の晴天のような天気とは違い、<薄曇の蜜蝉>の異界門は名前通り辺り一帯ら薄暗く曇り空に覆われていた。


じめじめと湿気が森全体を包み、体にこもって気持ち悪い。


薄暗い天候には五月蝿いくらいに蝉の声が響いて鳴り止まない。


痩せ細った木々に鬱蒼と繁る草の絨毯を抜けてヒイロは歩いていく。

道などといった補正されていない場所で歩き難い筈の環境でも、アルビオン・ブーツがしっかりと役目を果たしていて全く苦痛を感じなかった。


(やっぱり、お買い得な代物だったわね。流石B等級装備ね)


良い物を貰えたと、少しウキウキした気分になった。





見渡す限り、ここには誰もいなかった。


(確かにここは人気なさそう……)



実際に利用人数が現在 0 だった事を確認出来たからこそ、この異界門に決めたのだから。



腰に下げてある剣帯から、天夜叉を引き抜いた。


上段に構え、背筋を意識して軽く踏み込みながらシュッと振り下ろす。


正眼に構え、見様見真似で覚えた型を、動作を繰り返し体に馴染ませていく。


ある程度馴染ませた感覚を掴めたような気がする。




まぁ、天才のようにとびきりの才能出はないけれど普通よりは才能があるのだろう……と思う。


他には虫に対してアドバンテージが有るだけで。



以前より遥かに研ぎ澄まされた感覚と肉体は、青級(ブルー)でありながら、挑戦者を引退したとはいえ元黄級(イエロー)のシャリア相手に立ち渡り得たのだ。



「ふふ、恵まれている…わね」



確かに考えてみれば、最初に比べて遥かに良い境遇だった。












探せど魔物の影すら見えない。


私の感覚にも近辺にも魔物の反応らしきモノも感じない。


事前に聞いていたように、蝉の魔物を倒さねばあのドロップ品は落ちないのに、遭遇率は異常に低い。

この異界門は、他の挑戦者にとって確かに人気の無い外れの異界門。


私にとっては非常に都合がいい。




生物を殺せば殺すほど<若返る呪い>が、ヒイロの魂に刻まれている。


これはまだ未解明の呪いであり、更に<禁じられた内扉>は未発見の呪いだった。



まるで、私に【異界門】へ挑戦する事を奪うかのような呪いにも思える。



ギフトがあるからこそ、条件付きではあるけれど、このような理不尽な呪いにも打ち克てる可能性が……ある!!



それを実感する為にも、この異界門の最下層を目指すヒイロだった。







【現在の装備】



武器:天夜叉 <状態異常耐性> <緋天剣> <天夜叉 刻印> <瞬天動>


:天夜叉の黒鞘 <自動修復>


頭:首に緋色のスカーフ


胴体:革の胸当て


両手:柔革の籠手


脚部:アルビオン・ブーツ<移動速度上昇(30%)>


軽布製のアンダーウェア上下


予備武器:鉄のナイフ




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