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異界門  作者: タロー


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20/28

ヒイロの祝福


前回の件から1ヶ月が経過し、ヒイロの神殿都市での生活は激変していた。






まず、ニーズホック商会からヒイロ宛に金貨2000枚が支払われていた。

これは会長の孫娘であるシャリアと、暗殺を企てたメイドのメイアの件に対する慰謝料を含む金額だった。


しかし、例え大商会と言えども、一個人に支払う金額とは思えない破格の金額だった。


更にその他にも、白亜の流麗なデザインが美しいブーツを渡されていた。


アルビオン・ブーツ B等級


金貨500枚に相当する価値のある代物で、異界門で希に発見される宝箱の中からしか入手出来ない貴重な装備品。


鑑定にて判明している異能は<移動速度上昇(常時30%上昇)>が付与されているとのこと。

瞬間的な速度上昇系統の異能はこれ迄も発見されているが、このように常時速度上昇する系統の異能は非常に珍しい。



それに凸凹な地形や凍った地形等のコンディションの悪い環境において一定の対応を可能とする衝撃緩和構造や、対地形補正の効果が発揮されていて、現代の神殿都市の鍛冶や錬金術を研究している者でも全ては解明されていない。



アルビオン・ブーツに限らず、アルビオンの名の付く武具類は異界門で発見される宝物の武具の中でも非常に高額な代物となっている。




そんな貴重な代物も追加で渡すほど、ニーズホック商会は今回の件に対して深く受け止めていると、また神殿の圧力が掛かっていることを暗に示していたのかも知れない。



ヒイロはそんな事情は気にもとめず、普通に貰えるものとして頂戴していたのだった。









今回の金貨2000枚という大金も手に入り、デュークに借り受けていた【天夜叉】の借金を早速返した。


「まさかこんなに早く返ってきやがるとはな」


苦笑しているデュークには、思い起こせば天夜叉以外にも沢山お世話になった。


デューク以外の他の神殿都市の人達にも、沢山助けて貰った。


余った金貨でヒイロは、お世話になった人達に感謝のパーティーを開く事を決定した。


とは言っても地理に疎いヒイロは考えた末にエレナに相談にのってもらい、神殿都市の超有名な宿泊ホテルのレストランを予約して貰う。


そこの一画を貸し切りにし、イッサー神殿長を初めとする大勢の人達に惜しみもなくお金を使った。

およそ金貨50枚~100枚程度が一晩で無くなったが、参加者全員が喜んでくれたので、ヒイロの満足もひとしおだ。



この神殿都市へと来てから、もう半年が過ぎようとしていた。









時折、物凄く体調が悪くなる事がある。


更に体全体が軋むような、細胞自体が極小の針に刺され、全身が焼けつく痛みような感覚に襲われるのだった。


特に、胸の紋章がある心臓部分辺りは最近になって鋭い痛みが日に何回か発作のように起こるようになった。




神殿都市の神官医に診察を受けても原因は解らず、症状緩和の為に渡された薬膳ポーションや痛み止めを飲んでも余り効果は変わらない。

これでは、異界門の探索を安心して行えない。

安全で万全な状態では無い時に無理をすれば死を招く一端となる。


その為、自粛と自重せずにはいられなかった。













そんな中でも体調が良い日にヒイロは、神殿都市の中にある巨大な書庫院へと通っていた。


この【神殿書庫院】は利用料 一回 銀貨1枚払えば、各国の本や希少な古文書の写し書きすら棚に存在している、大陸屈指の充実した内容を誇る車庫を利用出来る。


<古代樹の守護蟲>の異界門での不思議な体験。


そしてヒイロの胸にある紋章。



異界門の<古代樹>とキーワードに引っ掛かりを覚え、頭から離れずにいたのだった。


そんな動機から探すことにしたが、膨大な書物の中から探すことは困難を極めた。


キーワードが少ないのと納められている本棚が膨大過ぎて、心が折れ欠けます。


折れ欠けの心を騙しながら、何とか諦めずにしていたらようやく6日目にして、それらしい記述のある書物に巡り会えた。



原書はなく、写し書きの書物である。





代を重ねているのか何冊かはかなり古びて草臥れている事から、相当昔の本である事が推測される。




本を管理する職員に話しかけ、この本の更に翻訳された本の場所を教えて貰い、ようやく調べることが出来たのだった。


幸いにして書かれている文字は読むことが出来た。



早速読み解いていこう。












<始めに>


私は神秘を探す者なり。


かつて神秘の塊たる異界門を調査し、挑戦者となった。


そこで鍛え上げた肉体、異能を使って今度は古代に滅んだとされる文明、遺跡を調査する事にした。


特に古代には我々人類よりも遥かに強靭な種族や人などが世界にいたと、数々の書籍からその存在が記されている。


私もそこに魅せられた1人である。


どうかこの本が読み手にとって知識の一端とならんことを祈る。






うん、長い。


ずらずらとあり……ささっと気になるページまで読み飛ばす。


あ、ここだ。見付けた。










<古代樹について>





北部大陸にある<聖域>から枝分かれした種類の大樹を纏めで<古の大木>と呼ぶらしい。



その中でも異界門で見たあの黄金で雄々しい古代樹は、<黄金神が宿る特別で神聖なる樹>として描かれていた。


<古代樹>に関しては更に古い記述がある。


そこに書かれてある挿し絵には、雄々しく聳え立つ黄金の大樹が描かれていた。







黄金神が宿ったとされる<古代樹>には、黄金神が眷属の1つとして創ったとされる古代人種【アルマース】が国を興し、守っていたとされる。



更に黄金神の高位眷属が宿る各4つの古代樹。



黄金樹の千年蟲


白金樹の生命獣


葉王樹の幻金竜



4つ目の古代樹は資料がないため、何を指し、表していたのかは不明である。






古代に滅んだ神秘的な民族アルマース。


解明されていることは少ないが、少しでも私が調べ上げた事をここに記す。





アルマースの民は少数民族であり、紅き髪に黄金の瞳を持ち、見目麗しき外見を代々受け継いでいく。


成人したアルマースの民は、黄金神の神殿から必ず<古代樹>に成った実を1つ賜り、食べる風習がある。



これは黄金神のおわす神聖な力の一端を感じ、その身に取り入れる事で健康を祈願するものだと考えられてきた。



そのお陰なのか、男女問わず不思議な能力を有した者達や、優れた知性や肉体を宿していたと言われている。


特に優れた資質を持つ者は<黄金神の瞳>と称される金剛石のような眼をしており、大神官になる者や、試練を乗り越えた者は必ず瞳がこのように変化したとされ、超常たる奇跡【アニマ】の素養を受け継げるとされていた。




しかし、これらは現時点で実証出来るないため、伝わる伝承から抜粋しておく。




古代に滅んだ民族ではあったが、極少数は国外に逃れていたり、他国へ嫁いだ者達も存在していた。




しかし、他の人種と交わることにより、固有であった紅い髪質と黄金の瞳は代々廃れていくのだと伝わっている。





そのため、国に残る純血のアルマースの民は、黄金神の教えを受け継ぐ4大神官と呼ばれる特別な存在が支配していた。



この国は王を頂点には頂かず、黄金神を頂においた。

そして、大神官達が民を導く役目を担い、神の代弁者として君臨していた。


可能性としてアルマースの王は民草の代表を勤め、大神官に意見を言える数少ない役職であったと推測される。


それほど大神官の影響は強く、黄金神の教えを忠実に伝える。

特に黄金神の加護を授かったとされる4大神官と呼ばれる者達は、常人とは思えない逸話が数多く残っている。








ある文書には、他国間の戦争時には大神官一人で千人以上の敵国兵士を薙ぎ倒し、無力化させた者もいたと記されている。


また、他にも大いなる獣や巨大鳥を召喚し戦わせた者、決して尽きる事のない生命を手入れ死を凌駕した者等……と、現代において到底信じにくく、抽象的かつ実際に存在するには眉唾物、怪しいと思わしき記述が無数に残されていた。





【黄金神の大神官について】




全てを決定する権限を持つアルマースの国において絶対者の1人である。


大神官の後継者として素養がある者を選別し、大神官へと導く黄金神の<試練>と呼ばれる過酷な修行や試練があったとされている。


その過酷さは凄絶を極め、いくら素養のある者でも命を落とす危険性が高い為、成功者は本の一握りにも満たない。





最後まで乗り越えた者に、次代の大神官候補として受け継ぐ専用の奇跡(アニマ)を授け、アルマースの民にしか使えぬとされた【宝】を与えたと言う。




本書には純血の【アルマース】の民にのみ授けられたチカラであるとされる……と記されていたが、これは血統による何からの能力を有していた可能性が高く、それを試練と呼ばれる方法で拡張ないし鍛えていたのではないだろうか?


混血の者は試練すら受けれなかった事から実際の所は定かではないと、追記しておく。





【古代アルマースの最期】




アルマースの民族の歴史は、大いなる発展と共に突如の終りを告げる事となる。


一説には致死の疫病が流行り、一夜にして滅んだとも。

また、彼らのもつ超常的な力が暴走して辺り一帯を根こそぎ消し飛んだとも。


終末が訪れるその時まで……強大なチカラを持つ彼等でも滅んでしまった結果だけが全てを物語っている。


現にアルマースと呼ばれた民族は、今日に至るまで現存していない。




遥か昔の本の中での話であり、現代では黄金の古代樹も存在の確認もされていない為、絶滅したと思われている。




~著者 神秘の探求者 バッグナード・カルダモン ~







すぅーと静かに息を吐き終えて、読み終えた古い書物を静かに置いた。





兎も角、収穫はあった。




この本を何度も読み解いたら、理解が深まっていく。

ヒイロの得たチカラが脳裏に思い浮かぶようになったのだ。



どうやらアルマースの民の中でも特別な【アニマ】と呼ばれる潜在的な能力。

黄金神の瞳とやらが、鍵となっているとされている事が解った。


類にない急激な身体能力の向上等は、アルマース本来の力に目覚めた……からなのかも知れない。


本当の所は解らない。でも、そう考えると一応の納得も出来る。


そうして、ようやく府に落ちた。



そして……知覚した事で自らの紋章のチカラについて解った私は、最近の不調は、体を馴染ませ、潜在力の引き出しをしていた為だったのか。


どうやら私はアルマースの民なのだろう。



記憶がない私にとって謎がまた1つ増えた瞬間だった。






他にも時間がくるまで調べ、疲れたヒイロはそのあと部屋へと帰った。


眠気が重なり、食事の前に軽く仮眠をとろうとしてベッドに横になる。

瞬く間にヒイロの意識は奥深く沈み込み、結局食事を摂る事もなく、朝まで深い深い眠りへと誘われた。






暗い空間を抜けて、緑豊かな景色が拡がっていた。


牧草の香りがする。


思わず、爽やかな自然の空気を胸一杯に吸い込んだ。


牧歌的な雰囲気に馴染めず、ここはどこだろう?と考える。


しかし、ポカポカと陽気な天気に思わず顔が綻んだ。


すると直ぐに景色が切り替わり、今度は黄金に輝く空間にヒイロは存在していた。



何故だか目の前に見知らぬ誰かの存在がいる。


全員が綺羅びやかな衣装の同じ神官服に身を包む4人。





紅い髪に困ったような笑顔を浮かべたスラッとした美声年。


くすんだ赤髪を一纏めにした背の曲がった老婆は、しわくちゃな顔を歪めこちらを覗いている。



長身で輝くばかりの鮮やかな光沢の炎色髪をフードからこぼれさせるした人物は、全身をフードとローブで身を隠している。



そして、幼いながらも柔らかかな紅蓮の髪をした美幼女は泣き笑いのような表情でヒイロの前まで近寄ってきた。



『そっか、お姉ちゃんに適合したのは私のアニマだったのね』


そう言ってヒイロの胸に幼い手を当てた。


見目麗しい美幼女であっても、見知らぬ誰かには変わり無い。


不信感や不気味さは感じることもなく、ここにいる誰もが、不思議と怖くなかった。



寧ろ心には……暖かな光を感じる。



『黄金神様……神霊様もいなくなってしまったけど』



胸に流れ込む光は、秘奥の紋章と重なり皮膚に同化して見えなくなった。




その紋章は、私達のアニマを受け継ぐ証のようなモノ。



特別な素質。



最上位の眷属。



秘奥の紋章は全てのアニマの可能性を秘めたヒイロなら、これからどんな困難にも打ち克てるよ。




いつの間にか4人はヒイロを囲むように立っていた。







美幼女は厳かに名乗る。



私は黄金神様に仕えし大神官が1人 ディザイア。




美声年は名乗る。



我も大神官が1人 シグルド。





老婆は曲がった腰を伸ばし、優しく見守るようにしゃがれた声で名乗る。



大神官が1人 アリアベルじゃ。





最後に全身ローブの人物が、天上の甘露のような美声で名乗る。


……アヴェロン。









最後にして新たな大神官の資質を持つヒイロ。





4大神官が貴女を認め、祝福します。







そう言い終えると、ヒイロの頭上にはいつの間にか大岩のように巨大な宝石が浮かんでいた。


目映いばかりに輝くカッティングされた巨大な宝石は、見ようによっては果実にも思える造形をしていた。



輝きを照らし、全てが透き通るばかりの金剛石の内側から祝福の光が降り注ぎ、全てを光で包み込んだ。





『『最難関の試練に打ち克ち、乗り越えた愛しき我らの最後の子よ……生きなさい』』



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