古代樹の守護蟲
<古代樹の守護蟲>
中は黄金の草原が広がり、景色は一色に染められていた。
キラキラと光る黄金の空に、黄金の大地、黄金の草原以外には、遠く見える巨大な樹を発見した。
「目がチカチカする」
「何だってんだこの異界門は……」
初見で度肝を抜かれる光景に、ただ唖然とする。
「ここが<古代樹の守護蟲>の異界門か。なかなかの洗礼だね」
コクッと頷くアルディを尻目に神殿長は遠くに目を細めた。
「ヒイロ、デューク敵だ。どうやら魔物までは黄金色ではないようだよ」
その声にイッサー神殿長が示した方角を見ると、かなり遠くから茶色の毛皮の大きなネズミが此方に向かってきていた。
デュークに攻撃指示を出すと、琥珀弓を構えたデュークが狙いをつけて……放つ。
ろくに狙いをつけてないように見える程、ヒュンヒュンと矢が飛んでいく。
5射を引き終えると、生きている魔物はいなくなった。
デュークは琥珀弓を静かにおろした。
近付いて見ると、全て目と目の間の脳の部分を1射で射抜き倒していた。
恐るべき射程距離と威力、何よりそれを行える技量の高さだ。
かつて神殿都市一の射手の名は伊達ではないらしい。
デュークの言う通り、大きなネズミは消えないままだった。
矢を回収しながら疑問は尽きない。
「終わったぜ……しかし、ここは魔物を殺しても消えないんだなぁ?」
「それが特殊な異界門の仕様だろうね。
特殊タイプの異界門は発生が殆ど稀で解明されていないから、特殊とも言うんだがね」
この異界門特有の現象であるらしく、過去の初代ニーズホック会長の時の文献にもこの異界門で倒した魔物はドロップにならなかったようだ。
そして、そこに落ちている黄金色の石何かも地面からとれず持ち帰れなかったそうだ。
この空間の代物は、全てあの古代樹を守る魔物の供物であるかのように……。
そんな事をふと思い付いたが、現実的では無かったと思い直す。
私もどうやら肩に力が入りすぎてて緊張しているらしい。
「ヒイロくん、天夜叉の異能は使いこなせそうかね?」
「……実はまだ緋天剣、夜叉刻印も発動しません」
実は天夜叉を装備しても、何故か宿る異能は発動しなかった。
練兵場にて何度も訓練したが、ついぞ此処へ来るまで異能が発動する事は無かった。
「今はマッドウォーリアの剣を使うといい。やはり……天夜叉はヒイロくんに使われるのはまだ早いと思っているのだろう」
これは仮説だが、異界門の主産の武具には意志があるのではないかと昔から囁き続けられていた。
それは遥か過去の北神殿長が、次の神殿長に証となる武具を渡す時に起こった出来事があった。
武に優れた神殿長が、【地夜叉】の異能を当てにして、武力は弱いが聡明な副神殿長を次の神殿長へ推薦した事が切っ掛けだった。
しかし、受け継いだ筈の地夜叉の異能が発動せず、その北神殿長は異界門の探索中に魔物に殺されてしまう。
同行していた挑戦者に回収された地夜叉にはどこも破損は見当たらず、報告を受けた神殿側も始めての事態に混乱を極めた。
その後、地夜叉は武を重んじ器を鍛え上げた者しか認めないのでは?
また、【器】の成長具合を感じ取れているのではないか?と仮説があったのだ。
武具が精神を宿している。
荒唐無稽のあり得ない話では無かった。
デュークの持つ琥珀弓の異能の<鳴動弓>も、装備者の意志を汲み取り、発射のトリガーとなっているに違いない。
このように天夜叉も持ち手を選ぶような、何らかの意思を持っていてもおかしくはないのだ。
ヒイロもまだ青級だ。
他にも何か発動の条件を満たせば全ての異能が使えるようになるのかも知れない。
先に進むイッサー神殿長を追い掛け、古代樹の方へと進む。
古代樹に近付けば近付くほど魔物の襲撃は多くなってくる。
【ホークアイ】と呼ばれているネックレスの装備品は、装備者に遠くのモノを拡大して見せる異能を持っている。
デュークはいち早く魔物の接近に気付き、先制攻撃を加えてくれるお陰で今の所ヒイロが前へ出て戦う事は無かった。
【鳴動の琥珀弓】の異能<生命力増強>で疲れにくく、<感覚全強化>で索敵も早く射手としての技量も底上げされているデュークは、間違いなく黄級におさまらない実力の持ち主だ。
空から襲ってくる鳥型の魔物はデュークの独壇場で、翼の付け根や時には目を射ぬいて有ることもあり、落下してきた魔物を仮面剣士アルディがきっちりトドメを指していた。
アルディの武器はグレートソードが一本。
その重量ある大剣を遠心力を乗せて放ち、途中手首と腰を捻らせて真横に軌道を変更させる。
魔物ネズミは大剣に当たり吹き飛び、斬ると言うより叩き潰す行為に近い。
状況に応じて斬る、叩く、弾くと使い分けが出来ている。
しかし本来の戦い方は苛烈とも言える攻撃で、一撃で魔物の肉を立つ剛の剣の使い手だ。
一刀両断。
骨を断ち、肉を切り裂くその剣筋は一見豪快見えて、理を突き詰めた繊細な剣術……とイッサー神殿長は教えてくれた。
そのイッサー神殿長の戦いは更に異質だ。
【宵闇】自体は異界門の宝箱産のB等級を誇る逸品で刀身は薄い闇を纏って常時 希少属性である闇属性を備え、その闇に触れれば羽毛のように斬り裂かれる。
宵闇の柄に手を掛けて、キンッと澄んだ音が鳴ると、魔物が両断されて死んでいる。
イッサー神殿長の周りは円を描くように飛び込んだ魔物の成れの果て。
積み重ねられていく魔物は最期まで自分の身に何が起こったのか解らない。
既に相手になる魔物は存在していない。
敵にすらカウントされない、ただ単純作業を繰り返す。
恐ろしいばかりの戦闘力だ。
50もあった魔物ネズミの群れは、あっという間に1人の男の手によって片付けられた。
「おっ、大物が来たぜ」
確認出来たときから矢をつがえて狙っているのだか、見事に回避されていた。
空から大きな点が近寄ってくる。
「ちっ、遠すぎて軌道が読まれてやがる」
珍しくデュークが愚痴ると、高速で飛翔してくる大型の鳥魔物を睨み付けた。
「ふむ、これは報告に無かった魔物だね。君が落としていた鳥型の魔物の親玉かな、ネズミの死体でも食べに来たのか?」
更にスピードを上げたかと思うと、翼を折り畳んで矢のように突っ込んできた。
デュークが矢を放ち続ける。
流石に回避出来なくなったのか何本か矢が直撃するも……失速しない。
「散開」
イッサー神殿長のかけ声で全員がその場を離れる。
直後そのまま地中へ突っ込み、激突音と震動で地面が土煙があがった。
「自爆かよ」
「いや……まだ生きているようだね。
<上位鑑定>した所、この魔物の個体名は【イミテーション・フレズベルク】」
土煙を切って飛び出して来たのは首と脚が細長く、脚先は鍵爪のように尖り、嘴はのように鋭利な形をした鳥の魔物だ。
フラミンゴのような鳥に近い。
しかし全長は4m程高く、此方を睨み付けていた。
血が吹き出て矢が突き刺さったままの身体をモノともせず、細長い鎌を鞭のようにしならせ、一番近くにいたアルディへ襲いかかる。
アルディはグレートソードを盾のように使い、鎌の嘴を弾いていく。
ガキンと一際大きな音が響いたかと思うと、イミテーション・フレズベルクの嘴がアルディのグレートソードの剣先を貫いていた。鋼の大剣を破る恐るべき嘴の硬度だ。
しかも引っ掛かっているようで、抜こうともがいている。
抜かせまいとするアルディの筋肉が装備の上からでも解るくらい膨張し、拮抗していた。
力比べをする前にイミテーション・フレズベルクの眼に矢が突き刺さる。
余りの痛みに暴れまくり細長い脚がアルディを蹴飛ばす。
メリッとライトアーマーがへし折れ、そのまま2m後方へと飛ばされる。
細長い脚に見合わない怪力だ。
体勢が崩れたアルディを追撃しようとした所で、ヒイロが横から天夜叉でイミテーション・フレズベルクの骨のような細長い脚を斬りつける。
斬り飛ばす!
しかしその予想に反して弾かれる。
「嘘、硬いっ」
マッドウォーリアの剣で斬りつけたのだが、ここまで硬いとは思ってなかった。
それだけギフトの効果が無いヒイロは弱いのかも知れない。
デュークが両目を射抜き、僅かな間に体勢を立て直したアルディが何とか斬り伏せた。
非常に手強い魔物だった。
アルディは座り込み、グレートソードの点検をしている。
デュークは周囲を警戒していた。
(皆強い、ギフト以外の実力だとまだまだ私は足手まといだわ)
「ヒイロくん、怪我はないかね?」
ヒイロが荒い息を吐きながらイッサー神殿長の方を向くと、先程まで戦っていたイミテーション・フレズベルクが3体斬り伏せられていた。
此方が1体手間取っている間に3体も倒したのか。
唐竹割り、一文字斬り、首切りと全て一太刀。
剛武四天の名は伊達では無かった。
ヒイロ以外誰も驚いていない所を見ると、イッサー神殿長にとってこの位は当たり前の結果なのだと、誰もが知っていたのだ。
改めてイッサー神殿長の実力の高さを垣間見た気がした。
新手が来る前にこの場を離れる事になった。
アルディのグレートソードは破損が酷い為に背中に仕舞われ、予備武器の長剣を腰に指していた。
5時間近く歩き続けると、遠目にあった距離の古代樹が大分縮まった。
ここまで近くなると、視界には黄金の古代樹に細長く巻き付いている深緑の蔦が見えた。
デュークの<ホークアイ>の異能を使うと、古代樹に巻き付いている何かをやっと確認出来るようだ。
身を隠せる木が密集した場所で一度休憩を挟む事になった。
これはヒイロがメンバーの中で一番体力がなくバテバテだったのも関係する。
魔物避けの香を炊くと、酸っぱいハーブの香りが漂い始めた。
大抵の魔物が嫌がる臭いであるとされ、長時間異界門に挑む為の必須アイテムの1つだった。
今回知らない事ばかりを実感出来たので、普段の挑戦者のやり方も解って勉強になる。
「ここまで来れたが、フィールドに存在する魔物はそれほど強力な魔物はいない。
しかし、古代樹に近付くに連れて魔物の個体が大型になってきているようだね」
こくりとアルディが頷く。
「結論的に、やはりここは魔物を討伐するチームと主力チームとで分けて討伐する方が無難な感じですね」
「飛行の魔物もいるから、剣士や戦士だけでは厳しいと思うぜ。
対応するならバランス良く陣形を組んでいかないとな」
干し肉をかじり、水を含んで少しふやかしながら食べていく。
「しかし、対応しすぎると異界門の主を討伐するには決定打が足りない……と。
本格的な編成チームを組むには東西南北全ての神殿から精鋭チームを組まないと異界門の主の討伐は不可能そうだと言うことが解ったよ。
さて、情報は大体集まったし撤退するかね」
誰も異論が無いことを確認したイッサー神殿長は、撤退を決めた。
「では、最後の情報を集めに一当てをして行こうか。
デューク、その弓ならばここから狙えるかな?」
異界門の主産の琥珀弓を持つデュークは間違いなく、神殿都市で最高の遠距離攻撃を行える挑戦者の一人だ。
その攻撃で古代樹に巻き付いているニーズホック・センチピードにどのくらいダメージを与えられるか、また敵がどう動くのか確認したかったのだ。
「初めて使うから届くかどうかはわかんねぇが、俺にとっては狙い撃やすい……ぜっと」
山吹色の琥珀弓に念じると、ブゥゥゥンと地響き音と共に持ち手のコアが輝きだす。
<鳴動弓>
大気が集約して、コアと連動する。
集約された魔力の奔流が威力を限界まで高めていき、特大の矢となって解き放たれた。
異変を感じ取ったのか、わらわらと古代樹の周りに虫の魔物が集まり出していて、あっという間にバリケードを作り上げていく。
そこにはニーズホック・センチピードの眷属と思わしき個体も無数にあった。
同時に深緑色の蔦らしきモノが此方へ向かって蠢いていた。
良く見れば細かな脚が生えている。
長い胴体部は少なくとも30mは越えるだろう。
ニーズホック・センチピードが此方を処理する為に動き出したのだった。
高速で飛来した特大の矢は大地を震わせ大気を切り裂いてバリケードに衝突する。
衝突音と地響きが威力の大きさを伝え、千切れ飛んだ魔物の肉片や破片が散らばっていて半径10m程の蹂躙の痕を残した。
黄金に輝く古代樹にも攻撃による抉られた痕を残していたが、その箇所に樹液が溢れて固まり始めていた。
「2射用意……目標ニーズホック・センチピード。放て!!」
イッサー神殿長は1射目の後にデュークに2射目を用意させていた。
特大の矢はニーズホック・センチピードに命中した。回避すれば古代樹へと直撃するため避けないだろうとの判断もあった。
頭部から直撃したニーズホック・センチピードは半分以上もげていた。
しかし、脚は止まらずに傷などお構い無しに此方へと近寄ってくる。
更に接近するスピードを上げてきた。
「よし、威力偵察は終了だ。全員、帰還門にて離脱する」
「解ったぜ。若、ヒイロ、アルディ、悪ぃが先に行ってるぜ」
疲労困憊のデュークはそう伝えると親指程の赤い宝石【帰還門】を作動させ、赤い歪みを発生させて先に異界門から脱出した。
次いでアルディ、イッサーも赤い歪みを発生させたが、ヒイロだけは発生しなかった。
「ヒイロくん、どうしたのかね。帰還門を使いたまえ!」
「イッサー神殿長、帰還門が作動しません」
この時、2人の頭に過ったのは<禁じられた内扉>の呪いだ。
まさか帰還門すら受け付けないとは。
何か言う前にイッサー神殿長とアルディは赤い歪みの中へ消える。
残されたヒイロは天夜叉を構えるも、直ぐそこに迫るニーズホック・センチピードの大きく拡げられた口に丸のみにされていった。
▼
古代樹は自らを守護する魔物に1つの命を下した。
それは、この異界門にある特殊な気配を感じ取ったのからだ。
《おお、おお、何たる僥倖。我が領域に新たな鍵が現れた》
《この時代にアニマ・マテリアルの素養持つ者が現れようとは》
《憎き……彼奴等に滅ぼされた筈のアルマースの血統か》
《しかし未熟な波動。器の覚醒が全く足りておらん》
《ならば我が身を喰らって覚醒を促す》
《試練を与えよう》
《試練を》《試練を》《試練を》《試練を》《試練を》 《試練を》




