攻略隊
「どういうこった。テメエ、ヒイロには貸し出せねぇとはよ!!これは依頼を受ける上で会長の指示だろ」
「ええ、ですのでデューク様はどうぞお持ちになって下さい」
ニーズホック商会に着いたヒイロとデュークは、借り受ける品物を選んでいた。
何故かヒイロを見てオロオロになっている従業員は、暫くすると1人の若い女性を連れてきた。
デュークは馴染みの客であり、既に借り受ける品を選び終えていた。
胸の大きなメイド服を来た女性は……見た事がある顔だった。
そしてこの騒動である。
「それに青級の挑戦者には無駄になるから貸し出すな……と上から言われておりまして」
シャリアが言葉を続ける。
「それにニーズホック商会の商品は無料ではありません。
返ってこない相手にどうして貸し出せます?
それに常識的に考えて青級を異界門の主、ましてや上位の強さの魔物相手に連れていく等……神殿は我々を馬鹿にしているのですか?」
「ぐっ……そりゃ」
「と、言う訳で此方も妥協したのです。
申し訳ありませんが、このままお引き取り下さい」
そこでまたメイアの名が浮かぶ。
(また彼女なのね)
「解りました」
「あ、いいのかよ好き勝手言わせておいて」
「構わないです。それがニーズホック商会の総意何ですよね?」
「私共は上の方からそう聞かされております」
「証人はデューク、貴方です。では」
「お、おいヒイロ。ちっ……解ったぜ」
綺麗なお辞儀に見送られながら、「借りてく予定だった矢筒は置いていく」と、立っている従業員に押し付けてヒイロの後を追って出ていった。
さて、ここで耐毒装備を借りていく予定だった。それはもう出来ない。
一応天夜叉に<状態異常耐性>の異能はあるが、異界門の主が放つ毒相手ではやはり心許ない。
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「フフン、良くやったわシャリア。良い気味だわ。
あの負け犬の目……悔しいのを必死に無表情で隠していたのなんて、何度思い出しても笑えるわ」
美少女が台無しなセリフと表情を浮かべているメイアは非常に機嫌が良かった。
「しかし、大旦那様の出された条件の上書きなどの……本当に宜しかったのですか?」
「良いのよ。むしろ優しさよ?
青級はニーズホック商会から支援出来ない、参加しても認めないと書き加えて上げる事で、無謀な戦いをしなくてすむもの。
それに青級なんて送り込んでくる東神殿側が悪いのよ」
これまでメイアに楯突いた人間は、悲惨な目に合うように権力を使って良いようにしてきた。
最後は誰もがメイアに膝ま付き、許しをこうのだ。
今回もそうなる可能性は高い。
しかし、シャリアは一抹の不安を覚えていた。
確かにヒイロは青級の挑戦者だが、あの東神殿長のイッサーが目を掛けている程の人材だ。
念のため調べて見たが、余りに情報が無い事がまた不安でもあった。
緑級の実力を持つ挑戦者だった彼女は、彼女を残してパーティーが全滅した事を切っ掛けに、挑戦者を引退した。
しかし、そこを会長に拾われ、メイアが生まれた時にメイド兼護衛として面倒を見ていく事になる。
昔から直感は良く当たる方だ。
何度も何度も助けられてきた。
そんな彼女をして何か嫌な予感がする。
東神殿へ忍ばせているニーズホック商会の手の者と連絡をとろうと動き始めた。
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「それで私の所に戻ってきた……と言うことかい」
イッサー神殿長は非常に忙しそうな書類の山を片付けながら、ヒイロとデュークの話を聞いていた。
それにしても直前になって条件の変更とは……ニーズホック商会は何を考えている?
確かに青級が異界門の主へ参加すること自体は普通に考えれば無謀である。
しかし、明記はされていなかった。
この新しい条件の上書きは、ヒイロ1人をターゲットにしている。
(いくらヒイロくんとの確執があったとしても、ニーズホック商会の現会長の意向ではなく、メイア嬢の言いなりになるとは)
いや……だからなのか。もう会長はご高齢だ。
娘夫婦は他国で総本店を経営していえ、滅多に神殿都市にはこない。
孫娘の可愛がりようを見ていれば、将来メイア嬢が神殿都市ニーズホック商会のトップになる可能性は高い。
実際、1年間で青級から赤級まで成長するスピードならばあと数年で後継者の条件たる黄級に掛け上がれるかも知れない。
そう考えながら、書類を捌くスピードは変わらない。
見る見る内に山が減って最後の1枚を片付けた手腕を見て、思わず拍手をしてしまう手際の良さだった。
「拍手は大げさだね。暫く留守にすらからね、自分の仕事を早めに片付けていただけさ」
そう言って首を軽く回した。
「ふむ、本来ならもっと戦力が集まってから出撃する予定だったが……ヒイロくん、まだ【帰還門】は持っているかね」
「ええ、まだ使用してません」
「ならば、威力偵察を兼ねて1度4人で<古代樹の守護蟲>へ行ってみようか。
今回は威力偵察だからニーズホック商会の支援は本番にとっておこう。
毒消しのポーション(虫毒)とライフポーションは私のポケットマネーから出す」
そう言って準備の為に使いを出した。
着々と物事が進んでいく様子についていけないのか、デュークは呆れ気味だ。
「へっ、マジか若。
まぁ行くなら構いやしねぇがあと1人はどうすんだよ?」
デュークの疑問は最もだ。
「問題ないさ。彼はもう来ている」
机の上のベルを鳴らすと、部屋に入ってくる者がいた。
ぎょっとした。
何故なら直ぐに目に入ってきたのは、顔全体を覆うバイザー付きの仮面。
ほぼフルフェイスで顔が解らず、異様な雰囲気を感じる。
その次に背中に括りつけられた、背中から大腿部までの長さを誇る大剣。
余程の膂力がないとその重量を持ち上げる事すら出来ないだろう。
サルゴウさんも着用していた神官戦士団専用のライトアーマーを装備し、その上から白と黄の神官服のコートを上から羽織っている。
神官戦士団の装備は全部、低位ながらも異能が付与されて性能が良い。
そのハーフプレートアーマーも動きやすいように肩や関節部、脚部は布地のような別の素材に置き換えれてアレンジしてあるようだ。
金属音も殆ど立てずに何も装備してないように歩いてくる姿は、身のこなし方が実に堂に入っている。
しっかりと鍛え訓練されている事が解った。
仮面の剣士は、部屋に入ってイッサー神殿長の前まで行くと、お辞儀の後に膝まづいた。
イッサー神殿長が肩に手を置くと、ゆっくりと立ち上がりこちらの方を向く。
「彼は大神殿に所属する剣士で、こういった特殊な任務や危険な依頼の応援戦力として手配されている者達だよ。
名は……アルディと言う。
生れつき喋れないから私が彼の代弁をしよう。その仮面は補助具も兼ねていてね、気にしないでくれると助かるよ」
仮面の剣士アルディは周りを見渡すと、デュークの所で少し留まったが全員を一瞥したのか再度御辞儀をした。
これで全員が揃った。
「これより威力偵察の為、<古代樹の守護蟲>へ入る。
チームリーダーで全体指揮は私がとる。前衛はアルディと私、中央はヒイロ。
遊撃兼後衛にデューク……基本的に各人の判断で構わないが、緊急時の判断は指示に従って欲しい」
「そして、ヒイロは諸事情により余り魔物の討伐よりも異界門の主及び小型眷属のみに対応する。
アルディ、デュークはこれを念頭に動いてくれ」
簡単な作戦会議を行い、神殿の耐毒用の装備を借り受けた事で解決した。
ある程度の弱い毒ならば解毒する作用がある低位の異能が付与されている指輪だ。
無いよりは絶対良い。
本来ならば関係書類を集めて申請を……ってトップがここにおられました。
さっきの片付けていた書類の中に既に申請を済ませ、正式に借りれるようになっていたようだ。
1時間後、戦闘準備を整えて集まった。
その間にヒイロは<人物鑑定>を受けていた。
異界門の主を1人で倒したのだ。もしかしたら蓄積されたマナが赤級まで押し上げてくれているかも知れない。
赤級になっていれば、ニーズホック商会側の変更した条件も無効になる。
少し期待もあったが、実際はそんなに甘くなく、青級のままであった。
ヒイロを鑑定した職員は、引っ掛かりを覚えていた。
鑑定した時に全くマナが蓄積が感じとれなかったからだ。
挑戦者となった者は必ず【器】がある。
少しでも魔物を倒していれば必ず蓄積している筈である。
魔物を一匹でも倒してこんな風に器を鑑定してくれと言う者も少なくはない。
まぁ駆け出しだし、ヒイロも若く美しい挑戦者だ。
自分の気のせいだろうと思い直した職員は、直ぐに次の挑戦者を鑑定しに向かったのだった。
集合場所に全員が集まった。
仮面剣士アルディは先程と変わらぬ格好で、デュークさんも琥珀弓以外は以前と装備は変わっていない。
変わったのはイッサー神殿長だ。
治村家に代々伝わる刀【宵闇】は、過去東方に現れた自然発生の異界門から持ち帰った品であると言う。
東神殿長の専用装備品を身に纏い、軽装騎士のような出で立ちだ。
背部には藍色のマントを纏い、頭装備はハチガネを装着し後ろ髪を纏めていた。
【剛武四天】と呼ばれる程の神殿都市における最高戦力の一角を担う神殿長。
どんな戦い方なのか非常に楽しみだった。
因みにヒイロは一般神殿兵士の女性神官用の装備を貸与されている。
女性神官服の上にハーフプレートアーマーを着込んでいる。
急所を金属で補強してあるので、まだ動きやすい格好だ。
既に時間は夕暮れ時だったが、受付はエレナさんが対応しくれて、私達が入ったら異界門の間を閉鎖する事が決められていた。
朝方までに帰って来なければ救援要請許可を解禁する旨を伝えられた。
それにより、最低16時間は何があっても異界門から救援は来ない。
偵察が難しい場合は【帰還門】による撤退。
それでは、<古代樹の守護蟲>へ出発。




