天夜叉
神殿長から入室が許可された場所は、厳重管理されており神殿長の許しがないと扉が開かない造りとなっていた。
この部屋の台座の上には、黒鞘に納められた一振りの剣が置かれてある。
デュークの過去からの情報を知った今、この剣は異界門の主産の青い宝箱から出現した超稀少な品の筈だ。
「ヒイロくん、この剣の鑑定書を見る許可を出す前に……デューク、本当に良いんだな」
この時ばかりは神殿長も厳粛な雰囲気で最後の確認を取る。
デュークは神妙な面持ちで頷いた。
公開された剣の情報。
【天夜叉】 A+等級 武器 秘鬼剣
異界門の主<夜叉>の宝箱から入手された武器。
伝説の金属 緋皇鋼 を用いて鍛えられた剣の片割れの1つ。
緋天を宿し、装備した者に絶大な加護を与える。
全ての状態変化・異常に強い耐性を与える<状態異常耐性>
緋天剣<緋天の紋章>
夜叉の秘術を扱える<天夜叉 刻印>
天を駆る超脚力を与える<瞬天動>
「……良くこんな武器を持つ相手に勝てましたね」
ようやく声を絞り出せた。
しかも夜叉は、他にも様々な異能が付与された防具類を身に付けていたんでしょう?
「全員が命を惜しまず……いや、違うな。
夜叉自体がまだ油断をしていたのもあるだろうし、その時にマーベットが偶然にも角を切り落とせたから……結果、奇跡的に勝てた相手だ。
同じ状況なら次はもう勝てねぇ。
まぁ、2度とやりたい相手じゃねぇしな」
「……この<夜叉>の素材はA+等級で鬼の異界門の主の中でも規格外の存在【魔王】級だからね。
デューク達の討伐した回数を会わせても、歴史上3回しか倒せていない本当の化け物だよ」
A+等級の武器と素材をドロップした異界門の主【夜叉】。
鬼種としての頂きに君臨する事から、A+等級の素材を持つ魔物は魔を統べる王……【魔王】と呼ぶに相応しい相手なのだと神殿長は語る。
過去夜叉の討伐数は3に比べ、挑戦者が挑んで散った数は神殿の記録に残っているだけでも万を超える数が亡くなっている。
それでも人は鍛え上げ、挑むことを諦めない。
その先の可能性や、利益を求めて挑戦し続けるのだ。
さて、お値段の話をしましょう。
A+等級の高さと4種類の異能、特別な異能が付与されてある事、何より価値が高い事を加味すると。
「大金貨50枚……と言いたい所だけど大金貨40枚で良いんだよね?デューク」
「ああ、誰に頼まれても売る気は無かったが……ヒイロが買ってくれるならその価格にしようと思ってた」
お値引き価格の大金貨10枚はとてもお得……お得だよね?
しかし、これ以上の剣は他には絶対無いし……間違く私じゃその異界門へは頼まれても挑戦しない。
いや、出来ないよね。
「ソウデスカ」
うーん、琥珀弓の代金と相殺しても金貨2000枚分の借金。
考えさせて下さい。
「良いけどよ……俺は考えるだけ無駄だと思うぜ」
デュークの確信めいた言葉がやけに響いた。
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因みに北神殿の神殿長が持つ武器も、この<夜叉>を討伐した異界門の主産の宝箱に入ってた武器を継承しているそうだ。
名を【地夜叉】。
当時の北神殿が【天夜叉】を売って欲しいと最も高い買取り額[大金貨80枚]を出すと打診したそうだが、デュークさんはこれを頑として断り、売らなかったのだと言う。
それから【鳴動の琥珀弓】を担いでデュークさんは帰っていった。
結局【天夜叉】をお買い上げした自分の意志の弱さ……いや高い買い物をした心の強さを誉めてやりたい。
もう手に入れる機会がない、これがラストチャンスの最後の一本と聞かされれば……ね?
それで、勿体ないけど<地殻蝉>の素材も売却する事にした。
琥珀弓と関連があるからとデュークさんが買い取り額を上げてくれて、大金貨10枚で買い取ってくれた。
新しい防具代等や当面の生活費を考えて、ここから大金貨2枚を引く。
今度は初心者歓迎のお店ではなく、ニーズホック商会に行く予定だ。
ニーズホック商会には失礼だけど、そこで絶対に買う訳ではなく、目利きも兼ねてウインドウショッピング。
しめて借金は金貨1200枚なり。
デュークさんの借金は無利子で良いそうです。
帰り際、神殿長から【天夜叉】の黒鞘について説明を受けた。
この黒鞘にも異能が付与されていた。
この鞘に納めると破損した剣が修復される<自動修復>
最早……メンテナンス要らず。高性能過ぎて言葉もでない。
試しに折れた銅のショートソードを入れておこう。
しかし、これを含めると【天夜叉】本来の異能は5つ。
この鞘だけの価値は大金貨10枚分の価値はあると言う。
しかし今回、デュークさんの意向によりこの代金は無料になるとの事。
恩情、ありがとうございます!
……私の懐が潤ったら何か美味しいご飯でも行きましょう。
と、感謝の言葉を心の中で伝えた。
因みに<蟲の天敵>でこの剣で虫魔物を相手にしたら、私は更に強くなれるのだろうか?
疑問は今度の異界門で解消される。
ヒイロがこの剣を持っても通常では完全に能力を引き出して扱いきれない。
しかし、異界門の魔物(蟲)に対しては超常的な力を発揮する状態で行えば、剣の力をこれ以上無い程発揮させ、扱えるようになる。




