第7話 「お客さん、本当に剣を買うのかい?」
魔法が使えないので、必然的に近接武器を使うことになる。
近接武器、すなわちそれは剣である。
この世界では剣を購入する人はほとんどいないそうだ。
補助武器として稀に短剣を装備する人はいるみたいだが、実際の戦闘では出番はない。
どころか、それ以前に剣等で攻撃するよりも、魔法の方が圧倒的に強いらしい。
なので、剣を扱っているお店はほぼ無いそうだ。
なんてこった。
だが、初心者魔法師が集うここ、アドラステアでは、品数が豊富でしっかりと売っていると聞いた。
新参者は珍しいようで、周囲のお客さんや店員から視線が注がれているのが分かった。
あまり視線を浴びるのは好きではないので、物陰に隠れつつ店の奥へと進んで行った。
✱✱✱
銀髪をゆらゆらと揺らしながらいろんな武器を見て回った。
「杖、杖、杖、杖、杖⋯⋯⋯⋯」
杖しか見えねぇぇぇ! ていうか杖しかねぇぇぇ!
棚には杖しか立て掛けられていない。
それはもう私に対する当てつけのように、杖以外売ってないんじゃないのかって思うくらいだ。
流石魔法の世界⋯⋯恐るべし。
ちなみに魔法師は魔法を発動する時、必ず杖を使うらしい。
杖を使わないと魔法が安定せず、また、杖を使わないで魔法を使える人間はほぼいないんだそうだ。
と、完全にアウェー感満載な店内の隅に、申し訳程度に剣が立て掛けられているのを見つけた。
「⋯⋯あったぁ!!」
それはもう喩えるならば、何万人もの兵士が死闘を広げる戦場で唯一の一人の親友に出会えたくらいのレベル。
すみません大分誇張しました。
鉄のような素材で刃先が作られ、鋭く研がれている剣に目を向ける。
どれも埃を被っていることを察するに、誰も手をつけてないということが分かった。
しばらく剣とにらめっこしていると、ある疑問が頭を横切った。
「うー⋯⋯違いが分からない」
まず剣それぞれに名前が付いているのだが、この世界の文字が読めないので違いが全く分からない。
生きていくために文字の勉強も並行してやっていかないと。
違うとすれば、剣の柄の部分の色と、あとは剣の長さと太さだ。
重いものは持てないので細くて軽そうな剣から見ていく。
「⋯⋯これがいいかな」
少し太いが、重さ的にもちょうど良くしっくりと来たので、その剣を持ちカウンターへと向かった。
「お客さん、本当に剣を買うのかい?」
店員さんは確認をするかのような口振りで開口一番問いかけた。
おい引き止めてくれるな。
「ええ。そうですが」
「これ、杖じゃなくて剣だけど、本っっ当に大丈夫です?」
なんだろうこの気持ちは。
私だって魔法使いたいんだよ。
店員との押し問答の末、私はなんとか剣を購入した。
物を買うだけなのにどうしてこんなに苦労するんですか。
ていうか、私の心を丁寧に抉ったあの店員許さねぇ。
顔覚えたからなっ!!