第2話 「現に目を覚ましているじゃないか」
目が覚めた感覚は確かにあった。
しかし、倦怠感が身体を完全に支配し、瞼が中々開かなかった。
「⋯⋯⋯⋯ぇ。⋯⋯んた⋯⋯大⋯⋯夫かい?」
耳を澄ますと誰かの声が聞こえた。
それと同時に意識が徐々に覚醒していく。
目を開くと、そこには大きなグレーのローブを纏ったお姉さんが私のすぐ側に座っていた。
「⋯⋯こ、ここは⋯⋯⋯⋯」
思ったよりも声が出ず、かすれた声が出る。
「目を覚ましたかい? あんた、いきなり空から落っこちてきたんだよ?」
落ち着いたアルト声のお姉さんは優しくそう言うと、おもむろに立ち上がり自己紹介を始めた。
「初めまして。妾はたまたまこの森を通りがかった魔法師さ」
私よりも三、四歳は年上だろう。
深くフードを被り顔全体は見えないものの、フードからちらりと覗く輪郭は線が細く、美人な人だとひと目でわかった。
彼女の言動から察し、まず私はある結論に至った。
間違いなくここは私の元いた世界ではないだろう、と。
「ここは天国⋯⋯か。私、死んじゃったんだ」
「何を言っているんだ!? 落下の衝撃で記憶が混乱してるんじゃないのか!?」
「私⋯⋯生きてるの⋯⋯?」
「現に目を覚ましているじゃないか」
「あれぇ。なんであの高さから落ちたのに生きて⋯⋯⋯⋯」
どうして、私は生きているのだろう。
「シッ! 静かに」
「えっ⋯⋯」
突如、お姉さんは静止を促した。
フードで顔は見えないが、険しい表情をしているのは声から察しがつく。
お姉さんは辺りを見回すと、
「どうしたんです────」
「伏せて!! 早くっ!!」
私の言葉を遮るように叫んだ。
とにかく言われるがままに頭を下げた。
──────ガツッ
刹那、背後から頭の付近に何かが通っていった。
それは私の銀髪をかすめた。
咄嗟に顔を上げると、目の前で何本か銀色の髪の毛がひらひらと落ちていくのが見えた。
そして目の焦点を遠くに合わせると、木の幹には長さ1メートルはあるであろう棒の先端に鋭く研がれた金属が巻かれた槍が深々と刺さっていたのが見えた。
「⋯⋯⋯⋯えっ?」