5,恐怖と覚悟
俺は盛大に転んだ後森に行く道中で何度もディウスさんにいじられた。
もう絶対転ばない。
あんなのは御免だよ。
「ディウスさん。この森ドラゴンでないですよね?」
「当たり前じゃない。あんなのそうそうでないぞ?」
よかった〜あんな思い2度としたくないからね。
それにしてもまだ何も出てきてないぞ?森に入って10分くらいは経ったと思うんだけど。
「静かに…ゴブリンがいる。2匹かな?あそこの川のところ」
確かに近くに川が流れている音はするがゴブリンがいるかどうかなんてわからなくないか?
「あの、どの辺ですかね…まだわからないんですが」
「う〜ん、ちょっと近ずいて見るか」
ディウスさんの潜伏は完璧だった。
草と擦れる音すらしなかったのだ。
対して俺はペキペキ木の枝を踏んで音を出してしまった。
まぁきずかれてはいないが。
「あ、見えた…ちょっとキモいですね」
そこにいたのはまぎれもなくゴブリンだった。
全身緑がかっていて服も何かの毛皮か何かを腰に巻いた程度のものだった。
残念ながら顔までは見えなかった。
別に見たところで何かするわけでもないが。
「ディウスさん。あいつに打ち込めばいいんですよね?」
「ああそうだぞ。早く打てどうせ殺せはしない。とどめは私がさす」
よし、とにかく打ち込もう。水の球水の球……できた。
「いっけ〜〜〜」
バシャン…背中に命中したがゴブリンはたいして痛がるそぶりもせずこちらを振り向いた。
そして、ザッ…音がしたと同時に目の前にいたゴブリンは肉塊も残さず2匹とも血飛沫となり川は少しだけ赤くなった。
が、すぐに新しい綺麗な水がそれを運んでいた。
そしてそこに立っているのはディウスさんだった。
俺は足が震えていた。
単純に怖かったのだ。
目の前の生物が、一瞬前までは生きていたゴブリンがただの血飛沫となったのだから。
「今日は帰ろっか。残りは私が倒しておくよ」
そういった彼女の顔は少し寂しげだった。
俺に恐怖されたからだろうか。
俺は首を横に振った。
許せなかったのだ。
こんな顔をして佇む彼女を一瞬でも怖がり帰ろうとした自分が。
「俺も…俺も戦います。だからそんな寂しい顔しないでください」
「そっか、でも水球しか出せなくて攻撃力0の君が戦えるの〜?」
「それは…あれですけど。できる限りで頑張ります!」
「わかった。行こっか」
「はい」
そう、俺は決めたのだ。
この人と同じ次元に立って共に戦おうと。
まだ水球しか出せないんだけど。
「ほら、置いてくぞ〜」
「嫌ですよ、ドラゴン出たらどうするんですか」
「そうだな、一緒に行くぞ」
彼女は笑っていた。
なら俺も笑おう。
もうあんな顔をさせないためにも。