第7話
「家で待ってるよ」
真白から連絡が入っている。それに気づいた勲は急いで本をしまい大学を後にする。メッセージが入ってからすでに1時間経過している、よく気が付かなかったもの。寒空の下待たせているわけではないのでそこまで焦る必要もないが、元来のお節介お人よし。通常の1.5倍くらいの力でペダルを漕ぐ。
「お帰り。忙しかった?」
家で待っていた真白に迎えられる。彼女が合鍵で入って待ってくれているなんて、幸せこの上ないシチュエーション。
「ただいま。すいません、待たせちゃって」
「いや、ちょうどいい待ち時間だった。はいコレ。あまりもの見つけたから作ってみた」
真白が待ち構えていたように机の上に並べているもの。チャーハンが皿に盛られていた。今まで勲の方が圧倒的に料理が上手いため、いつもご馳走される側だった真白からの初めての料理。台所には確かに料理をした痕跡がある。
「これ、真白さんが?」
「私以外に誰がいる」
「コンビニじゃなくて?」余計なことを言わない。
「食わなくてもいいんだぞ」
「ごめんなさい、いただきます」
四の五の言わずに食えばいいものを。慌てて腰掛けスプーンを手に取りチャーハンを口へ運ぶ。
「どう?」チャーハンを咀嚼している勲を見て感想を尋ねる真白。
「…、美味しいです」
「ホント?」
「はい。でも…」
「でも?」
「ダマが多いです。お冷ご飯ちゃんとチンしました?」
「…してない」
「やっぱり。それと卵はきっちり熱したフライパンに入れないと」
「…」黙る真白。
「ん、どうしました?」
「ケチつけんなよー。せっかく作ってやったのにー!!」
暴れ出す真白。この男どうにもデリカシーと言うか女性の扱いがわかっていない。ただ褒めれば良いものを、一言二言多い。
「ごめんなさい! でも味は本当にいいですから。ごめんなさい!」詫びる勲。
「本当に?」
「本当本当、嘘つかない」インディアンか。
「…、ならいいけど」機嫌は直る。
「でもなんで急に」
勲は当然の質問をする。今まで一度たりともなかった、食い専の真白が当然料理などとは青天の霹靂。どうせ今日もいつもの通り「飯、飯」と巣立つ前の雛のようにたかられるものだと思っていた。
「いや、その…。佑奈がヨーコさんに弟子入りするなんて言うからさ。これ以上料理の腕前離されてもなって思って…、つい」
なんてけなげな理由。二人で分け合っているとはいえ女子力を佑奈に引き離されてしまってはと考えたのだろう。出来もしない料理を無理して作り、勲の胃袋を掴もうと思ったのだろう。因みに佑奈の腕前はそこそこ。
「なんだ、そうだったんですか。だったら僕が教えますって、無理しなくていいですよ。この前ヨーコさんにご馳走してもらったのも舌で覚えましたし」
「え、覚えたの!?」
「はい、大体わかりました」
相変わらず女子力の高い男子。二人の胃袋を掴んだからこそこの関係は成り立っているのかもしれない。
「じゃあもう私覚える必要ないじゃん。私の胃袋一生よろしくね」コロッと態度を変え、結局作ることは勲に任せることにしたらしい。
「ま、まぁたまに変わってくれるくらいで…」
「チンして済むのね」既にやる気ゼロ。
すると真白のスマホに着信が入る。佑奈からだった。
「もしもし、どったの?」
「あ、真白? 今町村さんいますか?」
「いるけど、どした?」
「僕?」と言わんばかりに自分を指差しキョトンとしている勲。