第11章:なんならあそこにいる鼠らしきものの中に入ってしまおうか(68話)
「まずどれに乗りましょうか? あ、あれがいいなー♪」
入場して既に全開モードの勲ちゃん。中村が怖気づくほどの勢いでアトラクションめがけて走っていく。入り口付近で早速購入したミッ○ーの耳を頭に付けて、修学旅行の男子学生、ではなく女子学生のようなノリで場内をひた走る。リリィの催眠もここまでくると商売になるのでは、そんなことを思っているのは柱の陰に隠れ二人の行動を観察する佑奈達三人であった。
「ノリノリじゃん町村くん」
「耳付けるとか信じられん。私でもやらんぞ」例の勲の姿を見て幻滅する真白。
「でもコスプレはするんだよね?」既にクレープを二つ両手に抱えた佑奈が真白にツッコむ。
「あれは…、別だよ」
「確かに。私でもやらないですね。仮に彼氏が熱望したとしても」
「私は…、やったな」一人いた。
さて、なぜ三人がここにいるかと言うと。勲たちを見送った後急に不安になった佑奈と真白。志帆も別の不安がよぎり結果相談の上あとを付けることで意見が一致した。なんだかんだで己の彼氏という存在の未来が不安になり、とりあえず監視しながら楽しむ方向で同じエリアへと侵入した。
「しかし、さすがに凄い行列だ。そんなにいっぱいは乗れないだろうし、どこかで回収しないと夜の新宿に消える可能性すらあるぞ」志帆が園内を見回す。
「催眠掛かったままなら大丈夫じゃない? 解けたらお尻が痛いくらいで」
「うーん、さすがにキズモノになった彼氏に抱かれるのは、ちょっと気が引ける」
「真白、お尻でしたことあるの?」無関係にも思える質問を真白に飛ばす。
「それここで聞く? 今んとこないけどさぁ。ガールズトークは佑奈の家でしようよ」
「そうだね。帰ったら延長戦ね」
「やめてよ二人とも…」恥ずかしいやら恐ろしいやら。一人正常な感覚で照れている志帆。
「あ、曲がっちゃう。よし、移動だー」左手のクレープを刺し棒代わりに、行く道を示す佑奈。
「てやんでい」
「はぁ、せっかくのパスポート使えるかな…」
トテトテと小走りで、人並みに溶け込むように勲達の後を追う三人。途中偶然居合わせた○ッキーにすれ違いざまひとラリアットくれてやる真白。いいのかここの主をそんなぞんざいに扱って。首がもげ中の人が見えてしまっている。
「わー、すごい行列。何分待ちかな?♪」
「えっと、50分って出てますね。ここでは短い方じゃないですか」
「そうなんですか。仕方ないから待ちましょう♪」
中村と二人、横並びでアトラクションの行列に待機する勲。入り口でもらったパンフレットを眺めながらニコニコと会話をしている。
「楽しいですか?」
「はい、とっても♪」
「よかった」基本口数の少ない中村。短いがそれで最大限の喜びを表現している。
「あ、でも」
「でも?」
「これだと、そんなにいっぱいは乗れないですよね。夜までかかっちゃいますね♪」
「そうですね。さすがに閉園までっていうのは大変ですね」
「閉園まで、います?♪」
「え?」
そう勲が中村に提案するのと同時に、勲が中村の腕に手を回す。そしてその光景を後ろから追ってきた三人がちょうどのタイミングで目撃してしまう。
「あー!!!」
「やー!!!」
「うっわ」
三者三様、声を上げる。さすがに気付いたのか、何事かと後ろを振り向く勲と中村。しかし上手いこと人ごみに紛れたため、その声の主を捉えることは出来なかった。
「なんでしょう?」
「なんでしょうね♪」
すぐに気にすることをやめ前を向き直す。そしてまたいたって自然に腕を組んだまま行列に並び続ける。勲達の後ろの何名かは「なぜ男同士で…」と、その二人を怪訝そうな目で見ている。
「あっぶねー、バレるとこだった」
「人が多くて助かった」
「町村くん、町村くん…」
人のことより自分の身、自分のことより人のこと。それぞれ考えることは様々だが、さすがに先ほどの光景は少なからず衝撃を受けたようである。落ち着きを取り戻し、しゃがんでいた体を起こし、シレっと同じアトラクションの行列に入る三人。このまま暫く監視は続く。




