第65話
「あ"ー、飲み過ぎた」
電車のドアに寄りかかり、少しばかり顔色の悪い女性が一人いる。志帆である。昨晩お酒が残っているらしく二日酔いの様相を呈している。仕事ではないものの忘れ物を取りに秋葉原まで向かっている最中である。メイクもほどほど、あまりお客様やカメラマンにお見せできる顔ではない。
「次は―御茶ノ水、御茶ノ水」
「酔い覚ましにここから歩くか…」開く扉から体を起こす。
「ん?」
ふと目を向けた隣の車両に見慣れた顔があることに気付き二度見する。確証はないため扉のガラス越しに覗いてみる。そこにいたのは勲達だった。
「あれ、町村くんたちじゃん。真白と佑奈ちゃんもいる。それにあの人…」
当然馴染の三人はすぐにわかるが、もう一人その輪といえばいいのか、固まりの中にいる人物にも気が付く。
「この前ヨーコさんって人の店にいた人…。あ、そうか!」何かに気付いた様子。
スマホをカバンから取り出しどこかにメッセージを送る。程なく降りるはずのお茶の水に到着するが、結局降りることなくそのまま同じ車両に乗り続ける。そしてもう一通、先ほどとは別の人物に対してもメッセージを送る。
「気づけよ、真白」
何が念が届いたわけではなく、単純にスマホがブルったのだろう。扉の向こうに見えている真白がスマホを取り出し見ている。そして志帆の方を見る。小さく手を振る志帆。すぐさま佑奈を連れてこちらの車両に向かってくる。催眠に掛かった状態の勲はあまりその行動を気にすることもなく中村と話している。
「おはよう。もしかして」
「おはよう姉さん。そう、そのもしかして」挨拶するやいなや真白がその問いに答える。話が早い。
「なるほど、とうとうその日が来たか」もう一度扉越しに二人を見る。
「しかし…」
「しかし?」
「なんか町村くん、変じゃね?」何か違和感を覚える志帆。
「元からですよ」佑奈ヒドイ。
「いや、そうかもしれないけど。なんか仕草とか、ほら」
「あぁ、気づいちゃった」
「え、やっぱなんかあるの?」
「実は…」佑奈が説明しだす。
「とうきょーとうきょー」電車が終点に到着する。
「はぁ…、なんとまぁ」
結局そのまま勲と中村は二人きりにして、志帆真白佑奈の三人は後ろから二人についていく。佑奈と真白がいなくなったことを勲達は特に気にしてもいない様子。それもそうだろう、二人きりのほうがよっぽどやりやすい。なんといってもデートなのだ。
「掛かり易くてマジ助かります」
「解けた時って覚えてるのかな…」
「さぁ、べつにどっちでもいいんじゃないかな」
「で、二人はくっついてディズニーまで行くわけだ。年パスとはまた豪勢な」
「セッティングした報酬みたいなもんですね」セッティングというよりは証人喚問的に呼び出した感じではあるが。
「しかし面白そうだ。だからこそ私も職場行くのやめたわけだしね」
「あれ、店いくところだったの? 仕事?」
「いや、忘れ物しただけで取りに行くつもりだっただけ。別に急ぎじゃないから、このまま私もくっついていくよ」
「いいですね、三人で遊びましょう」
「あ、手持ちあったかな…」パスポートの購入代が不安になり財布を覗こうとする志帆。
「あ、そこは気にしなくていいと思う。ちょっと待ってて」
「へ?」
そういうと真白が一人前を歩く勲達に元へと駆け寄る。10秒もかからなかっただろう、すぐに戻ってくる。
「ワンデイパスポート、ゲットだぜ」親指を立てる。
「えええ…」
後ろを振り向いて志帆を確認して、何の曇りもなく微笑んでいる中村。申し訳なさそうにペコペコ頭を下げる志帆。
「いいのかな…」
それが普通の反応です。




