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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第64話

「おおおおお、おはようございます」

 姿を現した中村に対して挨拶をする勲。手に持っていたコーヒーカップがソーサーとぶつかりギャチャガチャとやかましい音を立てている。

「ええい、落ち着け」オレンジジュースをズビズビすすりながら真白が突っ込む。

「おはようございます」ほほえみと共に挨拶を返す中村。

「おはよう。エスコート相手待たすなんてダメよ、もう」

「すいません、慣れていないもので」頭を下げる中村。

「いえ、こっちが早く来過ぎただけですので、お気になさらず」佑奈がそう返す。

「そうでしたか」

「はいいい、そうなんであまり気を遣わないでくださいいい」

「だから」再度真白の突っ込みが炸裂する、わき腹に。

「コーヒー、どうぞごゆっくり。急いでいるわけでもありませんから」一つ席を開けて腰かけた中村が三人に声をかける。それと同時にヨーコが中村にもコーヒーを差し出す。

「そ、それ飲んだら出発しましょうか?」まだ落ち着かない勲。

「うーん」

「うーん」唸り声を上げる佑奈と真白。

「? どうしました二人とも」

「ダーリンや、ちょっと外においで」

「へ?」

「いいから、きてください」

「な、何事? お礼参り??」

 カップを置き、腕をつかまれて半ば強引に外に連れ出される勲。その光景をなんだろうくらいの感覚で見ているヨーコと中村。

「何しに行ったのかしら」

「…さぁ?」

 特に物音もしない。カバンなんかも席に置いたまま、帰ったわけではなさそう。


…5分後


 カランとカウベルが鳴り扉が開く。

「お待たせいたしました*2」佑奈と真白が先に店に戻る。

「あ、はぁ…」

 事が理解できない中村、とりあえず返事だけ。そして、一度閉まった扉が再度開き、当然ではあるが勲が入ってくるやいなや…

「ごめんなさーい。お待たせしました。今日はー、よろしくおねがいしまーす♪」

「…は、はい」

「根性入れなおしてきました。今日は時間までごゆるりとお楽しみください」

 風俗の店員のようなセリフを中村に伝える真白。それを見る中村、当然何事かまだ理解できてはいない。

「手間ぁかけさせやがって…」真白ではなく佑奈ですよ、佑奈。

 賢明な方はお気づきだろう、そう催眠だ。こんなこともあろうかと二人は催眠を解除するのを延期していた。三人でヤッたあの日、勲が学校へ行ったあと二人でこんな相談をしていたのだ。


…例の日


「うーん、ちょっとヒリヒリする」

「ヤリすぎだよ真白。私より長かったでしょ?」

「まーいっけどねー、気持ちいいし」

「今度帳尻合わせてもらわないと、はぁ、胸気持ちよかった」

 昼過ぎに起きた二人はリビングで昼食(朝食?)をとりながら人様には絶対お聞かせできない会話をしている。随分とお盛んだったようだ。そんな中で話題は勲のことになる。

「あ、催眠解いてもらわないと。今晩あたりリリィさん呼ばないと」

「そうですね。ちょっと連絡入れておきましょう」スマホを手に取る佑奈。

「ちょっと待った」それを制止する真白。

「どうしました?」

「もう少しこのままにしておこう」

「? どうして…って、あー、なんとなく真白の考えてることわかった」

「わかった? それじゃあ…せーの」二人同時に答え合わせを行う。

「保険*2」シンクロ。

「当日になって怖気づく、ってことはないだろうけど。何かあった時のこと考えてこのままにしておいた方がよさそう」

「ですねー。変なところで腰抜けですからね町村さん」

「私たちの年パスもかかっているんだ、失敗は許されない」ここだけ聞いていれば最低の女ども。

「いざとなったらホモにして、その日だけ逃げ切ってもらいましょう。その日起こったことは忘れてもらうってことで…」

「うむ」

「何かトラウマになるようなことがあったら、それは私たちの体で解決しましょう…」

 勲に対してはやたらと最近サービス精神旺盛の二人。来月辺り勲は少し勘ぐりすぎて2~3日距離を置くことになるのはまた後で。


「さぁ、もう時間ですから行きましょう♪」


※わかりやすいように、今後催眠中の勲のセリフには語尾に「♪」が付くことをご了承ください


「そうですね。それじゃあマスター、ご馳走様。いってきます」

「はぁい、がんばってね」

 ヒラヒラ手を振って見送るヨーコ。店を後にする四人。勲は中村と隣同士で並んで歩き、少し離れて佑奈と真白が後ろから付けていく。

「楽しみですねー、キャハ」

「そんなに楽しみですか、僕も嬉しいです」

 ガラッと変わった人格をまだ少しだけいぶかしんでいるように見える中村。それを見て佑奈と真白はこう呟く。

「ホモになる催眠は掛けたけど、女の子になれとは言っていないんだが」

「まぁいいんじゃないですか。双方楽しければ」

 チベットスナギツネみたいな目で後ろからその二人を眺めている。やったのは己らであるということは棚に上げて。

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