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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第63話

 昼の新宿二丁目、こうも違う姿を見せるのかと勲は今しみじみ感じている。夜はあんなにギラギラして、そこかしこで目を覆いたくなるようなことも行われている街。しかし今はそんな姿はどこへやら、静かに静かに時が流れている。

「ほっとんど人いないね」

「ちょっとはいますけど、夜の方々はいないですね」

「なんか、ただの飲み屋街の感じしかしないですね。そこかしこに変な看板はありますけど」

 もう歩きなれてしまった道をヨーコの店へと向かって歩いている。しかし夜とは姿が違い、一瞬迷いそうになるが、そこは佑奈と真白がいるので問題なし。勲一人だったら恐らく迷っていることだろう。

「ん…、さすがにまだ来てないみたいだね」真白が呟く。店の路地が見える。扉の前には誰もいない。

「お店の中にいたりしませんかね」

「ヨーコさん来てくれているんですよね?」

「ええ、送り出してくれるって言ってましたから。普段なら家に帰るところ二階で仮眠して待っていてくれるって言ってましたし」

「よし、中入ってみよう」ズケズケと進んでいく真白、遠慮なく店の扉を開く。

「おはよーございまーす」元気にご挨拶。

「暗いですね」

「ですね」扉から顔だけ店内に入れて確認する三人。店の中は暗い。まだ寝ているのだろうか、人の気配が感じられない。

「ヨーコさーん」

「まだ寝てるんじゃないですか?」二階に目線を送る勲。

「はぁい、おはよう皆さん」

「うわっ!」突如後ろから聞こえた声に驚く三人。

「あ、ヨーコさん。おはようございます」

「おはよー。早いわねーみんな。もうちょっと遅いと思ってたから今朝ごはんの材料の買い出しに行ってたわよ。さ、座って。朝ご飯食べる?」

「食べまーす」よく食べる子らだ、と思っているのは勲。だからこそあの夜の体力なのか、とちょっと思い出して前かがみ。「なにしてんの?」と真白に怪しまれたが何とか誤魔化す。

 店の中に通され、もう当たり前になってしまったカウンターの座席へと腰かける。ヨーコはカウンターの奥の冷蔵庫に今買ってきた食材をしまい、別の食材を取り出す。食パンにソーセージに卵。いたって普通の朝食を作るようである。今佑奈の家で摂った朝食とはメニューは被っていない、よかった。ちなみに出かける前に摂った朝食は、勲作のご飯に味噌汁、そして焼きジャケ。

「勲ちゃんは?」

「あ、ええと、僕は大丈夫です。コーヒーだけいただければ十分です」

 佑奈と真白は食べる意思を表示していたが、勲は丁重にお断り。先に出されたコーヒーをすすっている。

「緊張してる? そんなにガチガチにならなくていいから、ただ友達と遊びに行くくらいの感覚でいけばいいのよ」

「緊張はしていないんですけどね、そんなに。それより二人が迷惑かけないか心配で…」

「だから別行動しますって」

「邪魔しないから安心せい」

「信じていいんでしょうか…」疑心暗鬼ハンパない。

 ヨーコの出してくれた朝食を口に運ぶ二人。それを見ながらコーヒーをすする勲。時間はまだ10時半前、中村はまだ姿を現さない。「やはり少し早く来過ぎただろうか」時計ばかり気にする。カフェインを摂ったせいかトイレが近くなる勲。そこから30分の間に三回もトイレを借りる。そして10時50分を少し回ったところ、店の扉が開く。

「おはようございます。あ、もういらしてたんですね。お待たせしました」

「来た!」

 口には出さないがとうとうその時が。勲が心の中で叫ぶ。緊張していなかったはずなのに、一気に緊張のメーターがマックスに近づく。

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