第62話
「随分世間に認められた、というよりはメディアに取り上げられて少しだけ日の目を見た私たちだけど、まだまだ世の中ではアウトローなのよ。彼だってそう」
「…」茶々を入れていい話ではない、三人はバカではないのですぐに察して黙ってヨーコの話を聞く。
「彼も随分悲しいことがあったのよ。目の前でフラれたこともあったし、死んでしまおうって考えとともあるらしいわよ」
「自殺…」真白の口からぽつりとその言葉が出る。
「普通の人っていいのかしらね、そういう人が得られる幸せを今のところ私たちは得られないから。少し色気出しちゃうとカウンターで痛い目見ちゃうからね。だから断片的でもいいから今回みたいな幸せが少しでも訪れれば、それで十分満足だったりするのよ」
「普通の人」という言葉が勲に重くのしかかる。どこで何が狂ったのか、そもそも何も狂っていないのか。そうなってしまった人の気持ちが今少しだけわかる。身近に兄という例があったとはいえ、それは身内の目で見てしまう。赤の他人がそんな普通とは違う人生を送る辛さを今ちょっとだけ理解している。
「だから勲ちゃん、一日だけ我慢してあげて。それで彼も十分だから」
「我慢だなんて、こっちが首を縦に振って引き受けたんです。喜んで…ってのもちょっと違いますが、ちゃんと全力でお付き合いします」
「ありがとう」
「真面目だなぁダーリン」
「優しいですね、私たちにするのと同じで」
「え、そうです…か?」ふざけた口調ではない二人からの言葉、ちょっと照れる。
「あら、もう空ね。おかわりいる?」
「はーい」
この短い会話の間に結構あったはずのパスタの山は綺麗に佑奈と真白二人の胃袋に収まっていた。そしてしっかりご相伴に預かるらしい。結局色々胃袋に納めて、帰ることができたのは終電間近だった。
時は戻って日曜日。
「スタートとしてはちょっと遅い気はするんだけどね、11時だと」
駅に向かう途中今日の予定について会話する三人。
「ですよね。デズニーなら開演前から並んでナンボ、乗りたいもの全部乗れないですよ」
「それが目的じゃないんじゃないですか? 並んで歩くとか食事するとか、雰囲気とか。あちらも大人ですしキャピキャピ遊ぶというのも気恥ずかしいんじゃ」
「それも一理あるか」
「ですよ」
「私たちが遊ぶ時間減っちゃうんですよね」
「だから、二人はついでじゃないですか」
「ついでとはなんだ、ついでとは」後ろから勲の頭をげんこつでグリグリする真白。
「中学の時以来ですから、私だってめいっぱい遊びたいんですー」首を絞めてくる佑奈。
「ギ、ギブギブ」二人の手をタップする勲。離れる二人の手。
「年パスもらうんですから、またいけばいいじゃないですか。今ちょっとオフシーズンだし」
「行くからにはその時を大切にするんです」
「女の子は遊びに真剣なんだよ」訳の分からない理屈を唱えだす真白。
「男もですよ…」
「四の五の言わずに行こう。どうせ一緒に行動しないんだから」勲の肩をポンと叩く真白。
「それもそうですね…、あ!! そうか、別々なんだ…」
「四人一緒は野暮ですよー、二人っきりにしてあげますから安心してください♪」
ちょっとだけやる気ゲージが減った勲。休日の人の少ない駅へと吸い込まれていく三人。




