第10章:今日はー、よろしくおねがいしまぁす♪(第61話)
「町村さん、準備できましたか?」
「あぁ、もうちょっと待ってください」
「女の子とデートするわけじゃないんだから、そこまで気遣わなくていいんじゃね?」
「人に会う最低限の礼儀ですよ。人と会わない時でも誰に見られてるかわからないから気は遣うんですよ」
「うわ、ナルシスト発言出た」
「自分のこといい男だとか思ってます?」
「そういうことじゃなくて…」
佑奈邸の洗面所にて髪型を整えている勲。現在朝の9時ちょっと前、人と会うため外に出る準備をしている。いつも以上に丁寧に髪型を整えている。それを後ろから覗き込んでいる佑奈と真白。彼女らもすでに出かける準備を済ませて勲を待っている。
「…よし。お待たせしました」
「次の電車に乗れば随分早く着きますね。出ちゃいます?」佑奈が腕時計を見て勲に確認する。
「そうしましょう、余裕持っていった方が心の準備もできますし」
「緊張してる?」
「いえ、今はまだ。でも実際に二人っきりになったら話は違うでしょうね。友達ってわけでもないですし言ってしまえば赤の他人ですからね。今日に限っては違いますが」
「今日をもって赤の他人じゃなくなるかもよ?」
「イコール、お二人と別れることになりますけど。それでもいいなら」真白への返しが上手くなった勲。
「三股でもいいですよ、別に」
「ネタ売って知り合いの同人作家に薄い本作ってもらうから、それはそれでいい」
「いいんだ…」二人の方が上手である。
さて、懸命な方はお気づきかと思うが、その日が来たのだ。例の二丁目で一目ぼれされた男性、中村とのデート当日が今日なのだ。本日は日曜日、11時にスタート予定のため三人家を出るところである。さて、なぜ三人とも出かけなくてはいけないのか。それにはかくかくしかじか理由がある。ここで時を二日前の晩まで遡る。ギューン。
-二日前夜、ヨーコの店にて-
「ありがとうございます。じゃあ明後日の日曜日にってことで。では11時にここでお目にかかりましょう。本当にありがとうございます!」
今まで見たことがないような笑顔で店を後にする中村。それを見送る勲。そして店に残るのは当然ヨーコと勲。と、なぜかいる佑奈と真白。
「やったじゃん。全部向こう持ちだよ」
「それけしかけたの僕じゃなくて二人でしょう!? そこまでしてもらわなくてもよかったのに。しかもなんで二人の分まで中村さんが出すんですか? それが狙いでここに来たんですか?」
「あら、もう陽ちゃんに肩入れしてくれてるの? 彼聞いたら泣いて喜ぶわよ」
「いや、そういうことではなく…」
「いいじゃん、気前よくなんの抵抗もなく『よろこんでー』って言ってくれたんだし」
「お金ある人に出してもらう、世の常です」
ヨーコの作ったパスタをすすりながら喋る佑奈と真白。申し訳ないという気持ちはミジンコ一匹分も持ち合わせていないらしい。
「いや、たしかに聞いたらびっくりするような会社で高給取りですけど…。だからってなんで二人の分を、しかも年パスって…」
どうやら先日布団の中で話していたことを全て具現化したらしい。デートすることはもう勲自身決めていたが、色々とネゴシエイトした佑奈と真白。サクサク話は進み財布のひもをゆるゆるにさせることに成功した。
「あーもう、申し訳ない。ヨーコさん、今回の件終わって中村さんがここにきたらくれぐれもお詫びしておいてください。僕の彼女たちが失礼なことをしてと」カウンター越し、ヨーコに頭を下げる勲。
「優しいわねぇ。でも彼全然そう考えていないと思うわよ。むしろこんなにサクサク進んで喜んでいると思うわよ」
「そ、そうです?」
「そうよ。ちょっとだけ彼の話をしましょうか。なに、そんな重苦しい話じゃないから安心して聞いて」
「え、はい」
改まってヨーコが三人に告げる。勲も出してもらったパスタに手を付けるためフォークを手に取る。




