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新宿二丁目の男の娘   作者: 小鳩
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第60話

 まだ空が白んでくるには早い時間。冬に近づく今、今この格好は少し寒いはずなのだが、なにやらやたら温かいのはなぜか。見慣れた暗いルームライトを見上げつつ勲はそんなことを考えている、わかっているのに。

「私はシー派です。真ん中にある海が好きです、あと食べ物もシーのがいいかな」

「私はランドかなぁ。タワーオブテラー乗り隊。あとミッキー追いかけ回し隊」

 布団に三人、一糸まとわぬ姿で川の字になって寝ている。正確には寝ていない、今から寝るのだ。勲の両脇にはそれぞれ佑奈と真白、やたら柔らかい双丘が勲の腕に当たってそれを離さない。温かいのはそういうことだ、無論真白の方がデカい。

「中村さんの好み次第ですけどね。あ、でも僕が選んでいいのかな誘われてる側だし。そういえば、いつになったらスカイってできるんでしょうね。でもあそこらへんもうスペース無いか」

「いっそ両方行っちゃえば? 待て、ここで年パス買ってもらうんだ、3枚」

「なんで二人の分もなんですか」

「独り身のサラリーマン、高給取りっぽい感じもしますし、それくらいねだってもバチは当たらないんじゃないですか? 夢叶うわけですし」

「たかるわけにはいかないでしょ…」

 そんな眠りの途に就く前、例の件、デートでどこに行くという会話になっている。スカイは無理だろう。

「あぁ、もうこんな時間だ…。二人とも今日学校は?」

「いい、サボる」

「私も今日はサボります」

「僕は…、あぁダメだ。午前はいいとしても午後は行かなきゃ、出すものあるし」根が真面目な勲は行くところはしっかりいくらしい。

「出すものはもう出したじゃん」

「行くのも散々イキましたよね?」

「そういう下ネタやめましょうよ…。つっこ…、なんでもない」

 こんな状況でもツッコむところはしっかりと。その後を続けると墓穴を掘る。言いかけて自分で「あぶね」と思いそれ以上言葉を発するのをやめる。

「眠くなってきちゃった、おやすみなさい…」

「起きたらいないんだよね、それはそれで寂しいな…」

 二人の体力は限界。会話中にもかかわらず小さな寝息が聞こえ始めてきた。恐らくいま寝たら昼過ぎまで起きることは無いだろう。掴んでいた腕の力も抜けて、拘束から解き放たれる勲。だが、そんな体の自由が利くほど動けるスペースもなく、腕を頭の後ろに回す。

「僕もちょっとだけ寝たら家に戻らないと、ふぁ…」

 やっと一つ大あくびが出る。意識が飛ぶ前にアラームをセットして、そして程なく勲の意識も遠のいていく。


 11時、目覚ましの振動で目を覚ます勲。アラームを止め二人を起こさないよう布団から抜け出しバスルームへと向かう。ほぼ自宅と言って過言ではない佑奈の家。シャワーを浴び備え付けの自分の着替えを取り出し、自宅へ戻る準備をする。

「起きて、ないよね」

 スヤスヤ寝ている二人を見て、部屋の扉を閉める。が、もう一度扉を開いてコソコソ二人のそばまで近づき、そして膝をつく。

「行ってきます」

 寝ている二人の頬にキスをしてその場を後にする勲。今までそんなことはしたことがない勲が何故こんなことを。急に愛おしくなってしまったのか、昨日の気遣いが妙にグサッと来たのは事実。マンションを出たあたりで急に恥ずかしくなって駅まで走り出す。盗んだバイクなどはない。


 勲の去った佑奈邸のリビングには、ものの15分程度で作った朝食セットが並んでいた。「食べてくださいね」というメモ書きと共に。


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