第59話
「先日、リリィさんいたのは覚えてますよね？」
「ええ、それはさすがに覚えてます。…確かにちょっと変だったな、あの日」
「察しがいいねぇ」
「そこまでいわれればなんとなくわかりますよ。僕になにかしました？」
「した」
「しました」
二人口を揃えてカミングアウトする。
「やっぱり…。なんかあの日所々で記憶がないんですよね。そのせいですか」
「そそ」
「これに関しては私が悪いんです。どうしても町村さんに中村さんとデートをしてほしくて催眠術を掛けたんです」再び手を合わせてお詫びのポーズの佑奈。
「はい？」
「覚えてませんか。以前イベントでリリィさんに…」
「あー、あった！」佑奈が話すのを遮って思いだす勲。
「やっと思い出したか。頭いいしどこかで気付くと思ったんだけどなー」
「いや、わからんでしょう普通」手を振って否定する勲。
「私がリリィさんにお願いして催眠術を掛けてもらったんです。男の人を好きになるヤツを」
「…だからか」話は繋がった。あのメッセージの意味もやっと合点がいった。
「いやー、ものの見事にかかってねぇ。見てて面白かったよ」
「真白さん、いつか仕返ししますよ」
「いやーん、襲われる―」腕を回してイヤイヤする真白。当然嬉しそう。
「最初は私が町村さんがただ男の人とデートする姿を見たい、ってだけの興味本位だったんです。そりゃもうよだれが出るほど見たくて見たくて」両手を頬に当て顔を振りながら話す佑奈。自戒しているのかただ想像に悶えているのかは定かではないが。
「さよで…」
「でも、よーーーーーーーーーーーーーく考えたら、やっぱ可哀想かなって思って。まがいなりにも私たちの彼氏なわけですし」
「随分悩んでからの結論なんですね…。そして一応扱いなんだ、彼氏は…」
「ということで、さすがに真実を話そうってことになったわけよ。デートはしてもらうけど」
「デートはしますよ、もう断れないですし。はぁなるほどねぇ…、でもそれもありっちゃありか」
「ありなんですか！？」
「ありなの！？」
勲の発言に目に輝きが戻る二人。
「いや、そういうことじゃなくて。向こうに対してこっちが最大限できること、成り切ってあげるのも一つの手だろうから。当日は掛かっていきます」
「さすが話が分かるダーリン」
「無理矢理掛けてしまったのに、納得していただいてありがとうございます」
「納得は…、したかな？」首をかしげる勲。
「でも、それを言うだけなら別に…そんな恰好で待っていなくてもいいですよね？」
少し目を逸らして二人に告げる勲。その問いかけに顔を合わせる佑奈と真白。
「あぁ、これはなんだ…」
「これはですね、その…」
何か言いたそうで言いづらそうな二人。
「なんです？ 僕が正常かどうか確かめるためだけにとかです？」
「それもあるけど…」
「それもありますが…」
「が？」首をかしげる勲。
「というわけで」
「んなわけでだ」
「わけで？」
改まった二人が次にとった行動は、着ていたピケを突然脱ぎ出す。
「ちょ、なにを！？」
手で顔をふさぎその光景を見ないようにと頑張る勲。当然指の隙間から覗いている。上着がはだけ床に落ちる。佑奈は純白の上下、真白は前述のとおり少し透けているピンクの上下。それぞれ隠さなくてはいけないところがほとんど見えてしまっている。一瞬欲望に負けてみてしまった勲だが、すぐに後ろを向く。見慣れているであろうにいつまでもウブなふりをするなんて、いや滑稽。
そんな後ろを向いて自分たちを見ようとしない勲に対し、二人は後ろから腕を回す。佑奈は首に真白は胸元に。
「これはお詫びです。今日は三人でしましょう」
「朝までがんばってね…」
「え、えぇ………急すぎません？」
今までもこういうことは急ではなかったことがないはずの勲。固まって二人のなすがまま。そんな勲はまだ男の娘の格好をしたまま。はたからみれば女子三人がじゃれ合っているようにしか見えないのだが、それは違う。ちょっと朝まで営みが始まる。
